「女」2010/06/19 01:00

 以前、奥琵琶湖を観音様巡りのために訪れたことがあるのですが、藤の季節の、花と水と緑にあふれた美しさに、「桃源郷!?」と大変な感動を覚えたものです。
 ですから、小説の中で遠藤周作がかの地の美しさを大絶賛していることにはもう我が意を得たりって感じでした。
 しかし、そこへ嫁いで来たお市さんは、幸せな結婚生活の後、悲劇に見舞われることとなるのです・・・
 お市から茶々、千姫、それから大奥へ。女達の運命を軸にした歴史小説です。
 私は千姫がけっこう好きです。織田の血筋で(お市の孫ですから)、家康の孫で、茶々の姪で、秀頼の正室で、三代将軍家光の姉、という豪華な(?)立場ながら、失意でいっぱいの数奇な人生。本多家の嫡男と再婚するも、長男を亡くし夫も若くして病没し、秀頼の恨み・茶々の祟りという思いから逃れられない。それだけ、大阪城での戦いは彼女に癒えぬ傷を残したのでしょう。
 しかし、筆者は女達もわりとさらりと描いていますし、男達の姿もキリシタンにも触れていて、焦点にするべきテーマがばらついた感じです。「歴史小説を書ける私は幸福な人間である」と筆者が終曲に書いているように、テーマを追求するよりも、自身の歴史趣味を突っ走った作品だと思って良いのでしょう。
 戦国時代編では女は男達に翻弄され、男達を利用して戦おうとします。
 大奥編では、女の敵は女であり、男達は女達を利用して出世しようとし、しかし逆に女達によって失脚する。
 その栄枯盛衰には荒れ野のような無常観が漂います。
 そして、「女の戦い」から離れたところに、「女の幸せ」の形が提示されます。
 お市にとって生涯のうちで幸せだったのは、美しい清水谷で夫や子供達とのどかに過ごした数年間だけでした。それは、太閤の子を生んで一時は女の頂点を極めたはずの茶々にとっても同様なのでした。
 そして、将軍のお手付きになるのを拒んで八百屋の女房になった娘は、「大奥にいないで良かった」と心底思うのです。
 戦う女性は好きなんですが、しかし。
 力を持って栄えることと、幸せになることは、必ずしもイコールじゃないのです。

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