「風花」2010/09/13 17:30

 カザハナ、それはなかなか地面には落ちずに中空を漂う雪。
 そんな感じで、ヒロインののゆりは夫が浮気していると知っても、仲直りすることも開き直ることも別れることも出来ずにウダウダし続けている、お話。
 のゆりの年齢設定は私より少し上なんですが、本を開くと、えらく幼い声がします。「ゆりちゃん」「まこちゃん」「たくちゃん」という人物の呼び方のせいもあるでしょうが。
 なんていうか、このヒロインのグズグズして反応が鈍くて世間知らずで想定外の事態にはホンのちょっとしたことでも対応できずに固まってしまって、というあたりが、イライラするんだけど、他人とは思えない。なんか、分かってしまう。
 各章のサブタイトルは、本題を含めて全て季節感のある言葉。時の移ろいの中で、鈍いながらも混乱しながらもポツポツとわいてくる、のゆりの感情を描く。大きな感情の爆発とかがないので、起伏の乏しい微妙な変化を小説にするわけです。
 なかなか話が進展しないのは、自分の気持ちを掴みかねたまま、動けないから。
 川上弘美の小説にはありがちですが、夫である卓也の方の心情変化はのゆり目線から伺うばかりで、その内実にまでは踏み込みません。物語的には、彼の身に起きたことの方がドラマチックな気もするのですが、社内不倫、としか分からない。
 この人もある意味では真面目な人なので、本命である不倫相手が一番なんだけど、奥さんのことをポイと捨ててしまうこともできないで。
 ラストシーンで、のゆりは自分が赤信号を渡っていることに気付きます。「止まらずに、このまま渡っちゃえばいいんだ」そう思って駆け出す姿に、やっぱりなんか共感できるのです。
 個人的に、家出した時とか仕事辞めたときとか、そんな心境だったなあって、しみじみ思いました。