「物語 スペインの歴史」2010/09/19 16:41

 スペインに行こう、という計画が出たために、ちょっとスペイン史をおさらいしようか、と思って図書館から借りてきた、中公新書。例によって、高校時代に使っていた世界史の歴史資料集を手元に置いて読みました。
 副題に「海洋帝国の黄金時代」とあって、けっこう内容には偏りがあります。セルバンテスがけっこう出てくるのは、著者の岩根圀和氏がイスパニア文学の研究者だからなあ。

 第一章が「スペイン・イスラムの誕生」。ローマ帝国が衰退して、土着の人たちが西ゴート王国を作り、そこに、アフリカからイスラム帝国の侵略が始まる。やがて中央アジアでアッバース朝に取って代わられたウマイヤ朝が後期ウマイヤ朝が始まる。八世紀半ば、中国では唐の玄宗皇帝の時代、日本では奈良時代で東大寺が出来たり鑑真がやって来ている頃。ここから、アルハンブラ宮殿とかメスキータとかがスペインの地にどーんと建設されていったのです。
 その後イスラムの王朝も移り変わり、一方で北部にのこったキリスト教の勢力が盛り返してくる。レコンキスタってやつです。イサベル王女とフェルディナンド王子の結婚でカスティリア―アラゴン連合国が成りますますキリスト教国の力が強くなる。ついに1492年(コロンブスが大西洋渡ったのと同じ年ですね)、ナスル朝のグラナダが陥落、イベリア半島からイスラム勢力が一掃されたわけです。
 しかし、王朝がカトリックに変わっても、イスラム教徒自体は普通に国内に住んでいます。第二章が「国土回復運動」なのですが、なんていうか、弾圧です。グラナダ開城の時点では、改宗を強要しないと約束したイサベル達でしたが、だんだんキツクなっていって、ついにはイスラムやユダヤ教徒は国外追放。そして、改宗するのも土地を離れるんも無理、な人たちを炙り出す、異端審問がでてくるのです。
 もう、酷いもんです。拷問の凄まじさ、火刑の様子を見物しに来るキリスト教徒の紳士淑女を見てきたように書かれると、カトリックってなんて非人道的なんだろう、と猛烈に嫌な気持ちになってきますが、第三章の「レパント海戦」や第四章の「捕虜となったセルバンテス」になるとオスマン帝国イスラム人がキリスト教徒に対して残酷なことをしているのですよ。宗教的対立ってよく分からないんで、小中学生の教室で行われるイジメを連想するんですが。相手より絶対的優位に立って虐げる野蛮な快感。それを神の名の下に正当化しやがる。
 レパント海戦は昔塩野七海の著書で読んだことがありますが、あれは主にヴェネツィア視点で書かれているので、神聖同盟のスペイン艦隊が中々戦地に来なかったがためにオスマン軍による略奪虐殺の被害が増えたって感じでしたが、このたびは、遅れてきた王子様、スペイン王フェリペ二世の異母弟、ドン・ファン・デ・アウストリアが主役です。
 24歳の若き司令官のもと、神聖同盟の艦隊がオスマントルコの艦隊を打ち破り、オスマン軍の無敵神話を打ち破ったのです。
 が、別にそれでイスラム勢力が地中海から一掃されたというわけではなく、レパント海戦で生き残ったセルバンテスは、傷を癒してスペインへ帰る途中、イスラムの海賊に捕らえられてしまいます。彼は身代金を支払われるまでの間に逃亡計画を立てては失敗して捕らえられる、を繰り返し、「自分が首謀者だ、罰するなら自分だけを」なんて格好良いことを言って決して協力者たちの名を口にしなかったという。レパントの勇士としての自負ゆえか?
 しかし四度も脱走に失敗してなんで処刑されなかったのか、不可解です。小説家ならいろいろ想像するところですが、著者が言うには「分からない」です。
 第五章が「スペイン無敵艦隊」で、海賊の親玉のエリザベス女王に、カトリックの盟主としてフェリペ二世がイングランド侵攻を計画したのですが、「海戦の歴史においてこれほど不注意な例はなかった」と、ケチョンケチョンです。いい指揮官と天候に恵まれていたら、違う結果になったかもしれないのに。
 終章が「現代のスペイン」と題して、ホンのちょっとだけスペイン近代史。日本がアジアで戦争やっていた頃、スペインでは内乱やっていて、1939年に市民戦争が終ったら次はフランコが独裁権を掌握して。
 フランコの死後、スペインに民主主義と平和が訪れたと思ったら、次はETAによるテロ。バスク地方を独立させようって言って政治家も一般市民もバンバン爆弾で殺しちゃう。21世紀に入っても、続いている。
 ……スペイン、けっこう怖い国かもしんない。

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