「サウス バウンド」2010/10/01 09:05

 中島 美嘉の主題歌「永遠の詩」、純粋に生きる美しさがあってよかったです。
「お父さん、(この後どうなるか分からないけど、今は)かっこいい」
 と、戦う父の姿を前に、長男(小学生にしてはオトコマエさん)は言います。
 豊川 悦司演じる父親は、間違っていると思っていることには「ナンセンス!」とはっきりと異議を唱え、決して曲がらない人です。あまりにも極端で、東京編では子どもたちもうんざりって顔なのです。東京では、大人たちより子ども達の方が幼いながらも大人に見えました。これが、長男の事件をきっかけに西表島に引っ越してからは、うざいオヤジから一転、いきいきとしたかっこいい父親に見えてきます。彼の主張は、
「自分が正しいと思っていることなら、戦え。勝たなくてもいい」
 はっきり言って私は「戦るからには必勝」と思うのですが、しかし勝てる見込みばかりを考えていては本当に戦うべきところを見失うかもしれない、という恐れも持っています。たいていの人はそうでしょう、勝てそうに無いことならば引き下がり、受け流す。
 そんなところがない父親には、ちょっと感情移入しづらいのですが、感じ入ったところは、
「孤独を恐れるな。理解者はきっといる」
 この「理解者」こそが、天海 祐希演じる彼の妻です。彼女がいるからこそ、このオヤジは誰を敵に回してでも自分を貫けるのでしょう。相互理解、という愛が感じられるいい夫婦です。
 この夫婦はとてもしっかりと描かれているのですが、3人の子どもたちを含めたその他の人々の描写がちょっと薄いような気もします(私の理解力が足りないだけかもしれませんが)。彼らの声ももっと聞きたかったです。原作を読んでみたくなりました。

「大奥」2010/10/02 02:48

 グッズ売り場の金魚ストラップがかわいい。
 原作は未読です。
 カラフルな衣装は和風でありながら誰も見たことのない斬新さ。かといって芝居役者の賑やかさとも違い、華やかでかつ上品さを表す和菓子を思わせます。そんな表面上の美などものともしない女将軍の、質実剛健そのままな姿。
 美術、色彩、衣装、メイク、豪華な小道具。ビジュアルに力を入れている映画は劇場に足を運んで鑑賞しようか、という気にさせます。衣装設定見たくってパンフレット購入しました。
 観客は若い女性が多いような気がしました。二宮くんのファンでしょうか。
 私も、彼は存在感のある人だと思います。確かに格好良かったですよ、江戸っ子言葉が私のツボなせいもありますが。
 男女逆転江戸時代設定で、世間の男の価値は女に子種をもたらすこと。それが男ばかり集まった大奥に来ると一転、美しく着飾り権力を争う世界になります。いやー、玉木宏や佐々木蔵之助の色気たっぷりなこと。
 しかし二宮演じる水島は、そのどちらとも違う。「侍」っていうか、剣術をよくし、颯爽として、他人の気持ちを汲む優しさがある。暗く閉ざされた大奥の中で水島には邪念が無い。新入り下っ端時代は先輩からの嫌がらせも受け、しかし上役の目に留まって出世し、当然のように上様の目にも留まるのですが、そんなシンデレラストーリーに落とし穴が待ち構えていて……
 この辺の展開はちょっと唐突な感じもしたのですが。
 そんな水島よりもさらに男前なのが、柴咲コウ演じる将軍・吉宗。彼女もまた、存在感のある役者ですね。昔見た「メゾン・ド・ヒミコ」を髣髴とさせるキリッとキツイ表情で、でもその中に微妙に柔らかい感情も織り込んで。
 しかし。将軍吉宗で、白馬に乗って駆け巡り(その1シーンだけのために阿蘇でロケ。柴咲さんお疲れ様です)、身分を隠して市井を見て回るなんて。
 暴れん坊将軍以外の何を連想しろというのか。格好良いのに、笑うって。
 あれだけカラフルだった男たちが、将軍の好みと知るやみんながみんな黒い裃で勢ぞろい、中には水島を真似て月代を剃る者も出てくる、滑稽さ。金魚鉢に喩えられた大奥を一蹴する吉宗の、痛快さ。
 それなのに、残念、エンディングが全然合ってない。甘甘だ。
 あれならいっそのこと、葵の御紋をバックにちゃーらーちゃらーららー、ちゃーらーらーららー、とか流してくれた方が思い切って笑えて好かったのになあ。

「ヴィラ・マグノリアの殺人」2010/10/03 01:18

 若竹七海の特徴は、作品内にちりばめられた「毒」です。この世の「悪」「不愉快」「下劣」といったマイナス要素を「皮肉」でまとめ上げつつ話が進行していくのですが、しかしその中に、独特のユーモアが漂う。
 犯人追跡シーンなんか、異様にハイテンションな喜劇として描かれて、ここは小説より映像向けな感じがしました。
 この黒いバランスを味わいつつ、事件発生と謎解きを楽しむのです。
 事件のあった住宅地の個性豊かな人々を調べていくうち、彼らの抱えるあれやこれやの問題ごと、人間関係の渦が次々と発覚していくサマは、クリスティーの作品(特に、マープル物)に通じるものがあります。
 最後はちょっとヒネリすぎ(というか、うまくいきすぎ)な気もしましたが。

「錦繍」2010/10/04 00:20

 長っ!
 小説として、ではなく、手紙として。書簡小説というやつですが、どれだけ書くのか。詳細な情景描写、心理描写、相手にとっては言わずもがななはずのことも丁寧に説明、ロマンシチズム全開。相手に伝えるための手紙と言うより、自分自身を吐き出すための述懐、過去に浸りきった長大な独り言。そんな感じのモノが、十年ぶりの再会を果たした女と男の間で行き来していたのですが。
 だんだん、独り言の部分が減って行って、内容も過去のことから徐々に現在に近づいていき、最後は、女は障害をもつ息子のために、男は今側にいる女性のために、未来ヘ向けた姿勢をとる。
 「業」という言い方が出てきますが。
 私は生まれ変わりって信じませんし(生まれ変わったとしてもそれは前とは別物だと思う)、運命は最初から決定されたものではなく無数の選択肢の集合体だと思っています。「業」に引きずられるまま(多分)無理心中に踏み切ってしまう女性も出てきますが、生まれ持ってきた「何か」に大事なもの全部決められてしまうなんてつまらないですからね。
 未来へむけてもがく姿が、人のいとおしさ。

「ゴーストハント」完結!2010/10/05 16:57

 昨夜は飲みに行く約束が流れてしまい、空いた時間にフラフラ本屋に寄って、漫画の新刊見つけてきました。
 とうとう完結だ、ゴーストハント。12年掛けて単行本12巻かあ。12年の間に、掲載雑誌が変わったり書き下ろし新刊になったり。
 登場人物の、ていうか主役のナルの顔がけっこう変化しているのですが、「サイレントクリスマス」あたりの書き方が一番好みです。ジーンは初登場時のすごいキラキラっぷりが最も印象的。麻衣ちゃんはショートヘアの方が好きだなあ。
 一番怖い話は「血塗られた迷宮」、ちょっと感動的だったのが「忘れられた子どもたち」、好きだったのがやっぱり、ぼーさんが安原君や麻衣ちゃんたちと仲良く掛け合いやっているシーンですねえ(こんな兄貴が欲しいなあ、と高校時代に思ったものですが、今では私の方が年上だ)。
 オカルトものなので他の巻は色彩の暗い表紙なのですが、最終巻は青空がバック。事件が終った後の謎解き編というか、これまでの長大な伏線回収編です。三分の一くらいがぼーさん喋りまくりの推理ショーでした。
 そして成り行きで麻衣ちゃんが告白することになり、しかし相手は「実は人違いでした!」という真実が発覚し、結果としてナルがフラれた形になっちゃうという(ナルちゃん不本意だったろうなあ)少女マンガとしては異例の展開です。まあ、ゴーストハントだから。
 最終巻の帯を見て初めて知ったのですが、コミック完結に合わせて来月から、ながらく絶版だった原作小説「悪霊シリーズ」が全編リライトで出るという。1260円って、けっこうお値段しますが書き下ろしが収録されてあったら全7巻買ってしまいそうです。
 商売上手だなあ、出版社。

「コドモノクニ」2010/10/06 11:22

 長野まゆみ、珍しく少女が主人公で、全部で三篇。大阪万博に行く、という話が出たので、その頃の時代設定なんでしょう。新幹線を珍しがり、ケータイとゲームが無い昭和の子供たち。でもノスタルジーって感じはあんまりしません。コドモ目線なので情緒的に書いてるわけじゃないんですね。
 作者の子供の頃考えていたことかエピソードとか、そのまんま書いてるんじゃないかと思わせる、具体性バリバリな世界。

「小鳥の時間」は、マボちゃんは中学生。オンナノコのしゃべりの取り留めのなさ、話の飛んで行き具合に付いて行くのが大変。表題どおり、愛らしく元気な小鳥の成長を見守るところもあるのですが、ピーチクパーチク、少女たちのお喋りのイメージが強いです。
 可愛いものを収集して、男の子の噂して、ちょっとでもオシャレしようとして鈴やら刺繍やらが流行り、それを先生が禁止して。
 中学時代、周りの子はそんな感じだったけど私自身はそういうのに疎くって、横目で眺めていた。
 
「子どもだっていろいろある」ではマボちゃんは小学校四年生。これもまた小学生女子の書いた日記のような、でもこちらの方がまだ出来事単位でまとまっているので読みやすいです。
 香りつきの鉛筆とか、あったなあ。クラスの男の子は確かにアホやったしスカートめくりとかしてた。
 でも、黒板に男子の名前を並べて相合傘を書くことはなかったよなあ。

「子どもは急に止まれない」マボちゃん五年生のお話ですが、どちらかというと、悪ガキのバンと転校生のセイちゃんのお話。セイちゃんは町から町へ旅を続ける見世物小屋の子で、この子の存在が特殊で、先の二編に比べてフィクションっぽい。

「十三人の刺客」2010/10/07 15:05

 冒頭の切腹シーンの、痛そうなこと。肉が裂け血が吹く音だけで痛い。
 1963年の同名映画を、三池崇史監督がリメイク。
 実は観る前はあんまり期待していなかったんですよねえ。なにせ13人対300人って戦力差があまりに嘘臭い(オリジナルでは五十数人相手だったのに)。勝てるわけあれへん。この人数差を補うために、役所広司演じる島田新左衛門たちは宿場を丸ごと買い取って要塞化。色々仕掛けをつくって罠を張り、敵を分断させて標的を狙うのですが、あと少しのところ、と思ってもやっぱり数で押されてしまう。
 味方の13人、全員のキャラを描ききれないので、半分くらいは誰が誰だかよく分からないうちに壮絶に戦死しちゃいます。一部の人だけ筆書き(これがなかなか格好良い)の字幕で姓名と役職の紹介してたんで、全員分を期待したんですけどねえ。
 標的は将軍の弟にして明石藩の藩主。放尿シーンで登場した、稲垣五郎演じるこの殿様は残酷というより、狂気。全ての言動がいちいちイカレテいて目が離せません。これがヘタに権力もっているもんだから非道の限りを尽くす。明石藩の人たちだってみんな「この殿様アカンやろ」と思ってるはずなんですが、将軍の弟が藩主っていうのは、藩にとって有益になることもあるようで。
 この殿様をお守りする鬼頭半兵衛(市村正親)が、役所広司と同門だったという因縁。かたや「天下万民のために暴君を打つ」かたや「君主に従い守るのが武士の道」と、言っていることは普通にキレイゴトなのですが、なんとなく、「侍のケンカ」をやってみたかったってのもあるような気がします、この作品。
 天下泰平の世に飽いていた侍の一人が、島田の甥っ子の新六郎(山田孝之)。「いるような、いないような」自分のことをそんな風に言う彼が、「大博打」のあとの累々たる屍の中を歩いて、ニヤリっと笑う。なんというか、自分が殺される時に「今日が生きていて一番楽しかった」と言った殿様に通じるところがあります。
 そんな侍たちに対するアンチテーゼが、山の民・小弥太。大河ドラマでメチャメチャ格好良い高杉晋作を演じている伊勢谷友介が、スクリーンでも自由気ままな野生児を好演しているのですが。ちょっと、自由すぎるやろ。欲望のままに生きる姿は天晴れなんですが、これも極端だなあ。
 誇張が激しいと思うところはありますが、武家の女は本当に眉を剃っているし蝋燭の明かりの薄暗さとか、はリアリティを演出しますし、血の涙を流して書く「みなごろし」とか鬼気迫る死にっぷりも良かったです。台詞も戦闘シーンも格好良いので飽きずに楽しめる映画です。

「臨場」2010/10/08 21:11

「臨場要請です」
 しばらく前にケータイの着ボイスにしていたくらい好きだったんですよねえ、TVシリーズの「臨場」。合掌し、キビキビとした検視官のプロフェッショナルな動き、鮮やかな分析にホレボレします。人情モノとしてもイイです。先日「十三人の刺客」を観に行ったのも実は内野聖陽さんが出演しているからだったという(冒頭で切腹するだけの出番でしたが)。
 原作の同名小説は、TV版とはけっこう趣が違います。イケメンの渡辺大くんが演じていたイチが小説では四十代妻子持ちで、不倫相手の検視にビクビクして始まるのにビックリ。
 主役は検視一筋、な倉石検視官。のはずなんですが、倉石自身ではなく周囲からの視点で語られているので直接的な描写が少ない。園芸が趣味だったり野菜をバリバリ齧ったりするのはTVオリジナルの設定だったんですね。
 TVで印象的だった「俺のとは、違うなあ」などのキメ台詞の数々も、小説ではけっこう普通。
 始めのころはTVシリーズ見ていなかったので、小説読んでいて「これはTVで観たトリック」と思い出すこともありましたが、知らないネタもあり。
 「赤い名刺」と「眼前の密室」が特に良かった。横山秀夫の小説は初めて読んだのですが、他のも読んでみようかなあ。

「物語 スペインの歴史 人物編」2010/10/09 16:21

 日本でもこのところ領土問題がごたごたしていますが、スペインにもあります。ジブラルタル、イベリア半島の端っこのあそこだけ、イギリス領。300年も植民地状態が続いています。
 以前読んだ「物語 スペインの歴史」と同じ著者で、人物編。前のが歴史上の出来事を中心にしているのに対して、これは人物をピックアップしているのですが、淡々とした語り口なうえに派手な事件があるとも限らないのであんまり面白みはありません。
「騎士エル・シドの物語」
 レコンキスタ時代、最強の騎士団を率いた傭兵隊長。騎士物語のモデルにもされた。傭兵集団って、日本史ではあんまり聞かないのでちょっと新鮮。
「女王ファナの物語」
 イサベルとフェルナンドの娘で、ブルゴーニュのフィリップの所に嫁いだお姫様ですが、このダンナが、美男子だけど浮気性。嫉妬のあまり行動が常軌を逸してしまう。やがてカスティーリャ王位に付いたのですが、女王の身でありながら死ぬまで幽閉されてしまった人。
「聖職者ラス・カサスの物語」
 新大陸でのスペイン人によるインディオたちへの非道な迫害に抗議の声を上げた聖職者。キリスト教の司祭が異教徒に酷いことするのが当然と思っていた人ばかりではないんですね。
「作家セルバンテスの物語」
 かの有名なセルバンテスのご近所で殺人事件がありました、というそれだけの話。
「画家ゴヤの物語」
 ゴヤの生涯をごく簡単に語る。病で耳が聞こえなくなったり異端審問に呼ばれたりフランスに亡命したり、けっこう波乱に満ちています。
「建築家ガウディの物語」
 31歳のときから取り掛かったサグラダ・ファミリアが、彼の死後も未だ完成せず。完全に菜食主義者で、浮浪者みたいな格好。頑固で偏屈で敬虔なカトリック、となると、大聖堂の製作もハンパなこだわりではなかったんでしょうね。

「MW」2010/10/10 23:54

 昨年の夏に観た映画。
 最近観た「大奥」に出演した玉木宏と、「十三人の刺客」に出演した山田孝之が共演。
 山田孝之も嫌いじゃないんですが、玉木宏と比べるとなんか華やぎに欠いて見えるんだよなあ。




 手塚治虫80thアニバーサリーって、他にもいい作品はありそうなものなのに、あえてコレですか。原作未読ですが、読みたいような避けたいような。
 稀に見る真っ黒なダークヒーローなのに、それでも格好よく見えてしまうのが凄い。
 玉木宏の演技力が秀逸でした。怖い。復讐のために殺すっていうよりむしろ、殺すために殺す。もちろん凄まじい恨みとか執念とかも察することはできるのですが、ことさら情感に訴えることなく、また小難しく哲学語ってシラケさせることもなく。「毒ガスを吸って」「モンスターになった」それで納得させられる狂気の姿。
 決して楽しい気持ちにはならない。
 演技といいカメラワークといい音楽といい、冒頭の島民虐殺全部焼却シーンからずっと、大きな分厚い甕の中に閉じ込められたような息苦しい感じで引っ張っていくのですがそれが途切れたのが船のシーン。
 それまで悪意以外の人間性を全て殺ぎとって、計算高く落ち着いて(けど冷たい感じとも違う。目に力が篭るから)行動してきた主人公が、ほんの短い間だけ動揺を見せた。子供の頃共に島を逃げてきた「相棒」を、勢いに任せて海に突き落としてしまった時。
 そこからはあんまり怖くなくなって、わりと普通にクライマックスへ。