「スプートニクの恋人」2010/10/19 14:56

 映画版の「ノルウェイの森」怖いもの見たさで映画館へ行っちゃうか。
 その前に、もいちど原作読み直そうか。
 でも一度読んだ時、正直、あんまり面白くなかったの。
 なんで、なんでみんな「イイよ」って言うんだろう。 


 昔、大学の読書会のテーマになったやつ。
 村上春樹は文章が苦手なんですが、これは比較的大丈夫。語り手の男の子の、合理的で現実的な思考に共感が持てるんですね。自己とは何ぞやって感覚とか。そんな面白みのないアリキタリな理屈が結局、世界を支えるの土台なんだと思う。
 それが、語りがもう一人の主人公、すみれさんに変わってしまうと、ボヤボヤとしてきて読んでいて眠くなってしまう。夢の話の描写みたいなもんだから、すっきりした文章じゃないほうが正直でリアルなのかもしれませんが。
 物語は、世界から完全に隔絶された狭い空間、というモチーフが幾つもあって、それは山火事で下山できなくなった山の中とか出られなくなった観覧車とかですが、タイトルにもあるスプートニク号もその一つ。
 地球を、いわゆる普通の人間社会の象徴として、そこから完全に飛び出してしまった人工衛星。完全な孤独の中で地球を眺めるのもある意味ロマンがありますが、しかしやっぱり、それでは淋しいですよね。
 語り手の彼曰く、いつかは山を降りなければならない、と。
 そんなわけで、恋人にフラれて一度は消えてしまったすみれさんも、再びこちら側の世界に戻ってくるのですが、なんか、それが唐突に思えたんですよねえ。いかにも、もう二度と会えないような書きかたしていたもので。
 一個人が外の世界と交流するには、温かく生生しく血を流す必要がある、と作中で語られていますが、一体いつ、彼女は血を流したんだか、全然分かりませんでした。大げさな儀式なんてなくても日常的な触れ合いの中で少しずつ積み上げられていくものなんだ、なんて理屈もしっくりきません。
 彼女が消えてしまってから、戻ってくるまでに何を掴んだのか。私としては、それが一番大事なトコロだと思うのですが、そこは書かないんですよねえ、村上春樹って。