「宮廷画家ゴヤ 荒ぶる魂のさけび」2010/11/14 16:14

 作者はドイツ生まれの米国亡命ユダヤ人、リオン・フォイヒトヴァンガー。
 562ページもある読みごたえのある小説で、ゴヤが宰相ドゴイに近付くあたりから、『ロス・カプリチョス』の原版を王家に贈り、『巨人』の着想を得るところまでを描いています。巻末の年表を参照すると、事件や作品制作の順番が食い違うところも見られますがまあ、そこは「歴史書」じゃなくて「小説」ですから、盛り上がりさえすればあんまり気にしない。
もう少し長く、せめてフランス軍に攻め込まれたりドゴイが逮捕されたり『戦争の惨禍』を製作するあたりまでやってほしかったですが、まだ、そこまで混乱していなかった、古くからの迷信や俗習が残っていた時代のスペイン。仏革命の影響を受けた進歩主義と教会と王家を絶対視する保守主義とのせめぎ合いが本書の大きな筋となっています。
 登場人物一覧が欲しかったですね、みんな個性的です。たとえばマリア・ルイーサ王妃とアルバ女公爵との女の戦いとか、ゴヤと同様低い身分からのし上がったドゴイが政争と女関係に腐心している(そしてスペイン国政はダメになっていくんですね)とことか、激しくケンカしながらも互いを認め合うゴヤと助手のアウグスチンとの関係とか、見所です。
 最初のうちは、大勢いる登場人物が私の中で整理し切れなかったし、主役のゴヤがなんか乱暴で偏屈な怒りっぽいおっさんに思えて、あんまり面白く思えなかったのですが。
 本書の副題にあるとおり、激しく情熱的な国民性について丹念に語っています。冒頭にから、スペイン人はドン・キホーテを滑稽だと笑いながら、しかし古い騎士道精神を称えるとあります。英雄を好み、人を愛し、陽気で喧嘩っ早くて、颯爽と格好つける。マホとマハ、本書では「伊達男」「伊達女」とも表記される、熱いスペインの庶民たち。
 農夫の息子であるゴヤもそんなマホの一人であり、同時にエレガントで陰謀渦巻く宮廷にも属す。古き良き保守主義の魅力と欠点を持ち、芸術面では進歩的な業績を残した宮廷画家の、やたらと浮き沈みする魂のさけび。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://mimikaki.asablo.jp/blog/2010/11/14/5502664/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。