「アルハンブラ物語」2010/12/03 21:16

 表紙には13世紀ペルシャの兵士の絵、口絵写真のボアブディル王の哀愁漂う表情。
 言わずと知れた、ワシントン・アーヴィングのアルハンブラ滞在記。アメリカの役人の書いたものなんて堅苦しいんじゃないかと思ったら、大きな間違いで、作者はアルハンブラ以前にも色々旅行記を書いていた文人で、しかもめちゃめちゃロマンチストで空想的で、実にうっとりとアルハンブラの地に残された東洋の神秘を描いています。
 訳者の江間章子さんは詩人。
 アーヴィングはグラナダまでの騾馬の旅を、短くも印象的に描き、明るいイメージのスペインの地の、実は荒野の広がる貧しく厳しい実像に「そうそう、延々とオリーブ畑が広がるか岩山があるかの世界だった」と読んでいてうんうん頷いていました。
 それから憧れのアルハンブラ宮殿のお庭や広間を一つ一つ紹介してくれます。
 この辺までを読んでいると、「スペインに行く前に読んでおけばよかったな」と思いましたが。
 しかし、今のアルハンブラが1829年と同等の神秘性を保有しているはずもなく。
 私の行った時は朝一番の寒さが残る中で、観光客の姿が少ない分、まだ古めかしい雰囲気は保たれていましたが。
 アーヴィングの功績でアルハンブラの歴史的意味は大いに守られ、代わりに彼の愛したおおらかな哀愁にはとどめを刺されたかも知れません。
 今はライトアップされているかの古城をアーヴィングは月光の中で歩いたわけです。
 ライオン修復中の「ライオンの中庭」は、学術的にも保存の意味でも興味深く必要なことなんですが、やっぱりライオンは噴水の周りにいて欲しかったとこれ読んで思いましたし、スペイン有数の観光スポットとなった今では、地元の人が気軽に出入りしたり、アーヴィングのような外国人滞在者が棲み付くなんて絶対無理。
 本書の内容の大半が、著者が出会ったアンダルシア人の様子や、その地で語られるムーアの伝説です。
 ムーア人の最後の王、ボアブディルの哀れに同情し。
 貧乏人が魔法で隠されたムーアの財宝を手に入れる話は、貧しいグラナダの人々の夢であり。
 塔に閉じ込められた美しい姫君の伝説はもの凄くアーヴィングの好みに合っているようで。
 鳥と話す王子の冒険に、さまようムーアの亡霊達。
 夢見がち過ぎて、少々眠たくなった本書ですが。
 往時のイスラム文化が残り、かつての繁栄とその衰退に想いを馳せる、それがアルハンブラ。

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