「アルハンブラの誘惑」2010/12/06 00:26

 前に読んだ「アルハンブラ物語」は19世紀前半にアメリカ人から見たアルハンブラですが、今回のはマドリードに留学して棲みつき、そして現在グラナダ在住の日本人エッセイストの著作です。
 新旧ふたつの視点からのアルハンブラを読み比べよう、てな趣旨でこの二冊を図書館から借りてきたのですが。

 やっぱり、同じ21世紀の日本人女性からの視点の方が共感しやすいです。マドリードの街中散歩はつい半月前に自分も通ったとこですし(グラン・ビアとかスペイン広場とか王宮とかマヨール広場とか)、暑い南部のはずなのになんでこんなに寒いの(山岳地帯だから、雪を被ったシエラ・ネバダのお膝元)とか、朝から料理の脂っこさに辟易するとか、恋人がマザコンでお母さんとのやりとりでストレス溜めたりとか。
 そう、著者の安藤まさ子さんがマドリードからグラナダへ転居したのは他でもない、男に誘われたから。アルハンブラのエキゾチックな魅力にうっとりなアーヴィングとはまったく違う視点で、唯一同じ見解なのは、グラナダが貧乏な土地だということぐらいでしょうか。
 むしろ恋人のパコのほうが感傷的でアーヴィングに近いところがあるかもしれません。
 現代スペイン人を分かりやすく紹介してくれて興味深いのですが。
 これ、タイトルには偽りありです。
 アルハンブラ宮殿は足を踏み入れた様子もなく歴史の「残骸」呼ばわりで、後半ではアルハンブラが見えない郊外へ引っ越すし。
 むしろ、著者はアルハンブラを陰気でうっとうしく思っていたのじゃないかと思われるのです。