「これでよろしくて?」2010/12/10 13:30

話すほどのことじゃ、ないのよね、たいがいのことは
  (中略)
でも、話すほどのことじゃない、ことの方が、説明しやすい悲劇、よりも、むしろ後になってじわじわと効いてきちゃうのよね

 というような、曖昧模糊とした細々とした要素を積み重ねていくのが上手な川上弘美作品ですが、本作はそれが手法、ではなくそのまんま主題に持ってきています。
 分かりやすいけど、そのまんますぎるかなあ。
 主人公はいつものように、三十代の主婦で、話の場面は主に二つ。
 一つは、彼女の家庭での問題で、たとえば「夫は毎年誕生日プレゼントを買ってくれるけどあんまり嬉しくない」とか「居候の義理の妹が久しぶりに美味しいものを食べに行こう、というのを聞いて不快感を覚える」とかですが、中心はヨメ・シュートメ問題です。
 夫やその家族との間に波風立てたくない、取り立てて言うほどのことでもないから黙っていようとするのですが、ひとつひとつは小さくても、積み重なっていくと……
 で、その対極にあるのが、「これでよろしくて?同好会」です。
 家族でもなければ友達でも恋人でも同僚でも同級生でもない、「モトカレの母親」というまた関係者なんだか無関係なんだか微妙な人物から誘われて、やっぱり年齢も何もかも違うメンバーと共に、モリモリとお食事しながら、ささやかなテーマについて意見を出し合うのです。
 たとえば「セックスの時に自分のパンツを何処に置いておいてどのタイミングではくか」とか「なぜ肉じゃがは日本人の代表的なオカズに選ばれるのか」とか「音姫を使わないのはマナー違反なのか」とか、そんなとりとめもない議題を真面目に、忌憚無く喋るのがこの同好会。
 主人公は「これでよろしくて?同好会」では、やすらいでいるのですが、夫やその家族たちとの付き合いに色々変化が訪れ、その時々で「自分はこの人たちと家族になれていない」と疎外感を感じます。人と人との間にある微妙な気配を「おばけ」と言い表し、そいつは関係が近いほど大量発生して主人公を惑わせます。
 でも、「おばけ」って、悪く作用するものばかりってわけじゃないんですよね。
 川上弘美作品は、読んでいて共感できる点が多いのですが。
 これはアカンやろう、と思ったことが。
 母親に剥いてもらった蟹の身を当たり前のように食べる夫なんて、我慢できません。