「夢売るふたり」2012/09/22 12:15

 主人公のふたりは、その心情を、あまり言葉ではあらわさない。だから観ている者はその行動や表情から色々読み取るわけですが、全然分からない異様なもののようで、でもなんとなく分からんでもないような気もして、でもやっぱり……
 この「分からなさ」がクセになるのが、西川美和映画の凄いとこです。
 結末は、割と普通のところに持って行ったなあ、と。話の大枠も、孤独に生きる女たちと、彼女たちに夢を与えて金を吸い取る男って、そんなに珍しいモノでもないでしょう。心細さを抱えながらもシャンと立つ女たちの生き様、大都会に集う地方出身者たちに、スカイツリーを臨む新店舗の夢。
 音楽は全編通して夢のように眠たげで、序盤の火災のシーンなんて結構力のある映像なのに、BGMはトロンとしている。
 最初のうちは、コメディ調でした。夫の貫也を演じる阿部サダヲ個人のパーソナリティが、大きかったです。優しくて、愛嬌があって、弱くて、ダメな男。こういう男って確かに世界に存在しますが、しかしよくよく考えてみると、女たちに対して共感や安らぎを感じていながら(騙すための演技とは思えない)、それでもシレっと金を取っていくのって、どういう心理構造なんでしょうか。夢のためなのか、妻のためなのか。
 このお話の最大の特徴が、妻の里子が男の共犯っていうか、むしろ主犯なところでしょう。里子自身が、貫也に尽くして夢を見る女であったことが、だんだん分かってきます。しかし夢は奪われた。夫の浮気によって。里子は怒るべきだった。実際に猛烈に怒るのですが、その怒りが、状況の受容に変化してしまった。彼女が夫の詐欺行為を猛烈に推し進めてしまったのは、「女が尽くし、男が夢を見せる」彼女たち夫婦の在り方を肯定することだったのでしょうか。単に、夢破れてもなお、夢を見続けたかったのかもしれません
 騙した女たちからの借用書をズラリと壁に貼り出す里子。彼女はお店を火事で失っても、夫=夢があれば、とてもいい笑顔でいられました。しかし、彼女は新しいお店を作る資金を得るために、自分の夢を売り出してしまった。夫が夜を他の女たちと過ごしていく一方で、妻はカサカサに乾いた現実に蝕まれて笑わなくなっていきます。
 里子のジレンマを、松たか子が好演。

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