「あの女」2013/09/22 16:19

 舞台は大阪―三宮が中心で、時代は1994年から1995年初頭。
 当然、1・17に向けて物語は動いていくのですが、その辺は、ついでみたいな感じがしました。主人公のツキのなさをイメージさせるくらいの意味しかないっていうか。蛇足な感じすらしました。
 初版の発刊日からして、3・11の影響もあんまりないと思われます。
 メインは、今新しくオシャレに生まれ変わりつつある阿倍野・天王寺・新世界界隈。
 の、すぐ傍にある暗い闇、釜ヶ崎。
 社会派作家としての道を歩みつつある森絵都が、行き場の無い弱い者たちのギリギリの生き方を描く。
 この日本におけるスラム。住む家もなく凍死者が出るのが珍しくも無い影の世界について、良く調べて取材されたことと思います。とても興味深かったです。
 ただ、お話自体は、あんまり面白くない。
 まだ若いのになぜか釜ヶ崎で生活している男が、ある金持ちに依頼されて彼の妻を主人公とした小説を書くことになる。
 という発端もなんかしっくりこないし、そして「この女」が、私個人的に、あんまり好きになれませんでした。独特の存在感で、男たちを虜にし翻弄する。その自由奔放さ・価値観は、彼女の辿ってきた特異な人生によって築き上げられたモノだってことも、やがて分かってくるのですが。
 これに、財政界の裏側での策謀、なんかが絡んでくると、もう、リアリティがどこかに飛んでしまう。
 ハードボイルド路線では、この作家の良さは出ないのでしょう。あくまでも、一般小市民の目線によって、世界の光と影を描いていってほしかったです。