「abさんご」2013/11/18 00:44

 平成24年度下半期の、芥川賞受賞作。
 横書き、漢字を避けてわざわざ平仮名表記、一語の名詞ですむモノを回りくどく表現(たとえば「死者が年に一ど帰ってくると言いつたえる三昼夜」って、何のことかと思ったら「お盆」のことでした)・・・・・
 そんな感じで、文字数をたくさん費やし詳細に説明されていながら、ごく簡単な事象が読解しづらく、薄ぼんやりしたイメージになってしまう小説です。
 読みにくさのあまり最初の数行で一度本を置いたくらいですが、幸いなことに、思ったよりも早くこの文体には慣れました。
 慣れなかったのは、語られている内容の方でした。
 主人公(たぶん女性)が、自分の幼少期や親(おそらく父親)の死について、断片的な回想を述べています。述べているっていうか、夢に見ているっていうか、ぼやぼやと漂わせているというか。
 輪郭のはっきりしない、印象派絵画のようです。人の記憶って、そんなものかもしれません。
 印象が甘ったるいのは、特異な文体のせいだと思います。
 しかしきちんと読めば、語り手の思考は意外と冷静で論理的で、なんか冷たいのです。
 びっくりするほど体温の感じられない、好きになれない主人公でした。

「もう一人の息子」2013/11/18 22:36

 赤ん坊取り違え問題。っていうと、最近の「そして父になる」とネタがかぶりますが、大きな違いは、問題発覚時に赤子は18歳まで成長していることと、彼らの一方はイスラエル人で、もう一方がパレスチナ人であることです。
 でも、いち早く仲良くなっていったのが二人の母親だったってのは、「そして父になる」とおんなじです。母親にとっては、自分の産んだ子供も長年育ててきた子供もどっちもカワイイ。そんな感覚は、万国共通なのでしょうか。
 しかし、お国事情が違うと、人の感じることも違ってきます。「ユダヤ民族ではない」ことでアイデンティティー喪失してしまったり。「土地を奪った奴ら」と知られて、仲良しだった兄貴からいきなり冷たい態度をとられたり。
 ちゃんと現地でロケをしてスタッフもイスラエルやパレスチナの人たちが含まれますが、フランス映画です。
 たいへん無茶でハードな設定なのに、レヴィ監督は、割と穏やかな作品にしてしまいました。フランス人女性っぽいっていうか。
 もしも、家族だけじゃなくて隣近所友人にも「正体」が知られてしまったりしたらエライことになりそうですが、そんな破滅的な展開はなく、もっと地味で淡々として、しかし影のように2組の家族から離れない現実、として描かれます。
 二人の息子たちは、もちろん葛藤はあるのですが、どちらもけっこう物わかりが良いです。自分のもう一つの家族、もうひとりの自分を、きちんと受け止めたうえで、今の自分を生きて行こうとします。
 そもそもユダヤ民族とアラブ民族、容貌からもっと早く異民族ってことに気付かないのもなのか、って思っていたのですが。・・・・どちらも、同じ東洋系で、うんと違うことはないのだと、主張しているのか。