「路」2013/12/14 21:44

 異国で出会った青年。彼のスクーターの後ろに乗って、素敵な休日を過ごした思い出。
 ・・・とっても古典的な映画のようなシチュエーションを、持ってこられました。
 物語の舞台の大半が台湾で、本書のタイトルも「路」と書いて「ルウ」と読み、他にも地名や人名は台湾語読みが多いのですが、初出のときしかルビが降っていないので、さっぱり覚えられず、結局主要人物ですら名前の読みが分からないまんまで読み通してしまいました。
 吉田修一の新境地、と昨年の書評で高評価だったもので期待していたのですが、思っていたのとはちょっと違いました。
 台湾新幹線の開発がメインストーリーだというのでプロジェクトX的なモノを予想していたのですが、そこは物語の「背景」に留まってしまいました。
 物語に中心が無く、各登場人物たちのそれぞれの、群像劇となっているのがあんまり上手くなくて、いろいろ詰め込まれているけどみんな薄味な感じです。
 たとえば主人公の娘さんは明るくて前向きでとっても好感度高くて、でもその清々しささがストレスでウツになっちゃった彼氏にはちょっと重荷になって来て・・・・とか割とよくある話を、普通に描いていて、なんか盛り上がりません。
 人の心の深奥に肉薄する熱さや、ありふれた人の営みを温かく描くあたりが吉田作品の好きなところで、確かにそういう要素もあるにはあるけど、やっぱりなんか薄い。
 明るい南国の風俗を描く辺りは、筆者の新境地として興味深く思えました。