「かぐや姫の物語」2014/02/02 22:48

 かぐや姫が月に帰還する羽目になった、その理由が、まさか「セクハラ被害にあったため」だったとは・・・・

 すっごく豪華な「日本昔話」。
 ストーリーの核は、なんか「アルプスの少女ハイジ」っぽくて、自然の中でのびのび暮らしていた少女が都会に行く羽目になって窮屈な生活にクタビレていくという・・・・
 かぐや姫の「罪と罰」の謎を、上手い解釈で描いた映画です。ただ、「罪」の部分は本編では姫のセリフだけでなんかサラッとした説明で、あとでパンフレットの「企画書」に詳しく書かれてあったのを読んで、ここらの事情もキチンとしたシーンとして描いてくれたら良かったのに、と思ってしまいました。
 姫の「罰」の部分がメインです。ままならない生き方を強いられる彼女がひどく可哀想で、コミカルな表現や明るい場面もちゃんとあるのに、暗い印象がぬぐえません。
 ジブリアニメによくある「壮大で圧倒的なまでの自然の美しさ」とは異なる、淡く素朴な自然描写で、姫の天真爛漫さに合っていると感じられました。
 お気に入りシーンは、カエルの真似する赤子かぐや姫さんと、都での姫のお付の女童さん。

「とある飛空士への追憶」2014/02/05 10:42

 最近の戦闘機ブームに乗じて。
白い表紙の目のドアップがちょっと気持ち悪いのですが、もともとはラノベの文庫本だったもの。劇場アニメになったり、同じ世界観のシリーズがTVアニメになったりしているのですがそっちは観たことありません。
皇子の許嫁である少女と、彼女を本国へ送り届ける戦闘機乗り。主な登場人物はほぼこの二人だけっていうお話で、道行の過程でイチャイチャとふつうに絆を深めていきます。二人の人間性とか心情とか丁寧に描かれているのですが、あまりによく出来すぎて全然意外性がないのが少々物足りなく思えてしまいました。パターン通りで。
正直、非戦闘員の少女をよってたかって撃ち殺そうとする理不尽な設定に、違和感と嫌悪感がありました。捕虜として捕獲するってのならともかく、あんまり非道な行いはかえって逆効果ではないか、それって大がかりな部隊を編制するほど戦局を左右する要素なのか?
飛行機に対する愛情がひしひしと伝わってくる作品でもあります。しかし残念ながら、力の入った空戦描写が、あんまりピンとこない。たった一機の飛行機で、あれだけの数の敵をどうして振り切れるのか。一斉射撃されたら撃ち落とされるやん、と。
主人公飛空士の腕が大変すばらしいということなのですが、上手くイメージできないのは、語られる戦闘機用語が自分にはなじみがないためかもしれません。
敵パイロットとの一騎打ちは緊迫感があったと思います。これもお約束ではありますが、だからこそかえってイメージしやすかったのでしょう。
空や海や戦闘のシーン、映像向けの作品であるのは確かだと思います。

「永遠の0」2014/02/06 16:43

 日本の戦争ものはお涙頂戴っぽくって苦手だったのですが、評判が良いのでみにいきました。
 面白かったです。
 結構長い映画ですが、ラストシーンからエンディングまでの流れはゾクゾクしました。戦闘機アクション、パイロットの表情大映し、そして美しい青空をバックに流れるエンディング曲がハマりすぎ。
 真珠湾とミッドウェーの戦闘シーンの迫力、ラストの青空、スクリーンで観る価値あったと思います。
 岡田准一くんは、昔「フライ、ダディ、フライ」でもカッコエエナアって思いましたが、マスマスいい男になったもんです。表情で語れる役者さんです。
 なぜ、彼は死にたくなかったのか。
 なぜ、あれほど生きたがった男が特攻を行ったのか。
 昨年観た「風立ちぬ」では、現実は世知辛いけど美しい夢を胸に抱えて生きて行こうって話でしたが、こちらは、悲惨さを増す日々の中で夢を持ち続けることができなくなった男の話で、それでもその魂は後に受け継がれていった、ということなのでしょう。

「道頓堀喜劇祭」2014/02/09 00:27

 難波の駅で、プレステ4のお試し大会が催されていました。
 自分ゲームはやりませんが、ゲームの映像って本当に動きも背景もリアルなもんで、映画のようです。すごいなあ。
 美しい、迫真の画面に凝る電子ゲーム機。人間の知能と技を駆使する「従来のゲーム」とは違って、仮想現実空間の構成・体験を主とするツールなのかなあ。



 大昔からある仮想現実空間、「お芝居」。
 松竹座で行われた、一幕物の喜劇二本立てを観に行きました。
 二本とも、いがみ合っている人たちが色々あって和解するという筋立てで、喜劇というより人情もの。
 そういう筋書きなので仕方がないのですが、大声で互いに罵り合う場面が、どうしても笑えない。コミカルに演じられていて観客から笑いが起こっていても、なんかそういうの、ヤな感じがしてしまうのです。
 ちゃんとハッピーエンドに終わって良かったですが(まあ、喜劇ですから)、自分はほとほと、温厚な平和主義者なのだなあ、と再認識。

「氷山の南」2014/02/14 11:50

「密航なんかしたのは、何か手応えのあることを通じて自分の力を確かめたかったからだ」
・・・・少年が自分探しの旅に出る、というのはよくある話ですが、南極まで行っちゃうのはなかなかないよねー。

 冬季五輪に合わせて、北海道出身作家による、雪と氷とインターナショナルな世界。池澤夏樹は日本の純文系で冒険小説を書いてくれる、数少ない作家さん。
 時は2016年、水不足解消のために南極海から氷山(サイズ、一億トン)を船で引っ張ってくる計画で、少年は船に潜り込んで、パンを焼き、船内新聞を発行する職に就きます。
 船の中には様々な人たちがいて、オーナーはムスリム、船長はギリシャ人、パキスタンやフィリピン系の船員、中国人コックにフランス人ヘリパイロットにイタリア人気象学者にイギリス人心理研究者にケニア人エンジニアにアメリカ系チャイニーズの生物学者・・・・私がなんとなく好きだったのは日本人整備士の野口さんでした。できれば、登場人物一覧みたいなのも欲しいところ。主人公はそうした人々にインタビューして、発行する新聞は船内でバラバラに活動している人たちの紹介文みたいな面もあったことと思います。
 氷山の上でオペラコンサートがあったり、氷山の上でお泊りキャンプをしたり、氷山の周りをカヤックで一周したり、氷山の上で隕石を拾ったり、オーストラリアをヒッチハイクで北上してブッシュを歩き回ってアボリジニの巨大天井画を観たり、南極大陸の氷の聖堂へ行ったり、皇帝ペンギンの営巣地を観たり(コレ羨ましい!)・・・・・世界ふしぎ発見のリポーターも敵わないほどの冒険活劇です。
 その一方で、とてもスピリチュアルな思想小説でもあります。主人公はアイヌの血をひいていたりアボリジニの友達がいたりして、世界と人とのあり方を意識します。人間の営利のためにわざわざ氷山を持ってくる活動に不自然さを感じる一派も登場します。
 一人称と三人称が混在したような文章で最初は読みづらく感じたのですが、この文体にもちゃんと意味があったのだと、あとで納得できます。
 氷山の上での断食修行(セルフ成人の儀)での朦朧とした意識の中で、彼らは自己と他と宇宙と一体になる不思議体験をします。宇宙誕生を経験した、隕石に導かれて・・・・
 最近の若い人は、とか、ゆとり、とか言われている年代ですが、彼らの素直で優しくて自由なところって、頼もしいものだと、思うのです。

「鑑定士と顔のない依頼人」2014/02/23 23:16

 13年、イタリア映画。
 サスペンス映画に分類されるのでしょうが、謎解きものとしては、ストーリーが粗っぽくて「なんでやねん」と「やっぱりそうなるか」な感じなのですが。
 それでも面白い映画になっていた要因は、二つ。
 第一に、キャラが立っていて、キャスティングがハマっていたと思います。主演はジェフリー・ラッシュ(「英国王のスピーチ」で王様の演説指導をやってた人)で、凄腕オークショニアだけど食事中も手袋をつけている変人で人付き合いは苦手で女性とは目も合わせられない、でも名画の中の美女は大好き、という、「女は2Dに限る」お人です。
 モノの真贋の見極めは一流だけど人間を観る目はカラッキシなために大事なモノなにもかも失ってしまう。そして最終的に、以前よりも深く自分だけの陶酔の中に閉じこもってしまうわけですが、このラストシーンが人間の哀愁と奇怪に溢れていて大変美しゅうございました。
 ラストに象徴される倒錯したイメージが、この映画を面白くさせる第二の要素で、どことなく江戸川乱歩チックな不気味さと美しさを兼ね備えた設定がたっぷりなのです。
 隠し扉の中には整然と並ぶ手袋、さらにその奥にはちょっとしたホールほどの部屋の壁いっぱいに女の肖像画、どんどん値のつりあがっていくオークションの裏側で取り交わされる秘密取引、アンティーク家具や美術品でいっぱいの屋敷、壁の奥の隠し部屋に何年も引きこもっている美女、謎の歯車が組み合わされて徐々に出来上がっていくオートマタ、謎の数字を呟き続ける小人(ここら辺が乱歩っぽい)の女、おとぎの国のようなプラハの街並み。
 隠されているもの、偽り、贋作。そんな胡散臭さの中に潜む真実。

「BUDDHA2 手塚治虫のブッダ―終わりなき旅―」2014/02/27 10:53

 オープニングから、生きることの厳しさ必死さが描かれます。
 他者を食らって生きる。そして別の他者に食われて、相手を生かす。
 生命のつながり。

 原作は未読ですが、手塚治虫の漫画は格好良いと思います。
 三部作アニメ映画の第二弾。前作は堺雅人目当てでしたが、今回は松山ケンイチと真木よう子の声の出演を楽しみに観に行きました。声の芝居もお上手。
 第一部ではほとんど何もしなかった主人公のシッダールタ君ですが、苦しみから脱するために出家して苦行の旅に出ます。これが、苦行っていうか拷問部屋みたいです。で、苦しむばっかりでも、逆にゆるんじゃってもだめだ、中道を行くぞ、という結論に達し、目覚めた人、ブッダになるのです。
 それはいいのですが、自分の家族が敵国に捕まってしまっているのに、そのことについて一言も言及がないのが不自然に感じました。勢いとスピード感のある展開で盛り上げていく感じだったので、色々端折っている部分も多いのでしょうが。
 生きることは苦しいです。苦しんでもがいて死んでいく姿に泣けてきます。
 それでも、生きることには意味がある。