「告白」2015/02/07 10:03

 和歌山の殺人事件は容疑者が捕まってくれてひとまずは良かったです。
しかし世の中って不気味な悪意と暴力があまねく潜んでいて始末におえません。

ほんの三ページ程を読んで「この主人公嫌やなあ」と思いました。憎悪の塊。娘を殺された母親なのだから、理解はできるのですが。この調子で全編やられるとキツイなあ、と思ったのですが、元は短編なので、すぐに語り手はチェンジしてくれました。
しかし、そこからもまだまだ続く悪意の告白。
映画も好評だったという、湊かなえのデビュー作。著作が次々ドラマ化や映画化される人気作家さんですが、読むのはこれが初めてです。
登場人物全員イタイ。一つの殺人事件を別々の視点から語る「薮の中」方式で、それぞれの形で毒を吐き続けていきます。毒々しい割にサラッと読めて面白いのですが、後半になってくるとだんだん「毒」に慣れたか、飽きがくる感じです。
ネットで簡単に情報を得られる今時の中学生たちがHIV感染者に対してそこまでヒステリックに反応するのはどうだろうか、もっと冷めてるんじゃないだろうか?などなどツッコミどころも幾つか出てきます。
結局のところ、理屈抜きの純粋な憎しみと悪意の追求がこの作品の成功要素であり、かつ物足りなさでもあるように思えました。

「KANO―1931年海の向こうの甲子園―」2015/02/12 00:07

 今年の冬は野球モノの映画が三本も公開されていますが、そのうちの一本、台湾で大
ヒットした、嘉義農林学校の高校野球チームの物語。
 弱小野球部が熱心な指導者のもとで力をつけ、甲子園のヒーローに。出来すぎな話なんですが、事実なんだからしょうがない。事実なんだから、熱い。
 台湾統治時代を美化しすぎとの見方も、一理あるとは思います。ただ、台湾映画なのにほとんど字幕なしでみんな日本語でしゃべっていること、台湾人なのに「あきら先輩」と日本人みたいに呼ばれているのには考えさせられます。昔の日本人、無理を通してたんだなあ、と。
 日本人主導の治水工事も野球とは全然関係ないエピソードで蛇足とも思えますが、お話の盛り上がり、映像的には満々と流れる水路のシーンは美しかったです。
 結構長い映画の、最初の方は結構ダルかったのですが、本格的に野球シーンが始まってくると、もうそれだけで胸が熱くなります。一生懸命ひたむきで、泥臭くて。演技力より野球経験重視で集められた選手たちは、体育会系の素直で単純で明るくて感情的なノリが全く演技臭くない、素のまんまに見えました。野球の練習と演技の練習と、日本語の練習までこなした台湾の若者たち。
 永瀬正敏演じる近藤監督は今時珍しいくらい常に不機嫌そうな顔して厳しいことばっかり言っています。それでも冷たい感じは全然なくて、カノの選手たちとの絆が確かにあることをさりげなく感じさせるのも好感が持てました。
 日本人と漢人と台湾民族たちの混合チーム、泥にまみれた晴れ姿。

「劇場版 PSYCHO-PASS」2015/02/16 00:55

 エンディングが「名前の無い怪物」だったのが予想外で、嬉しかったです。作品にぴったりで、好きな曲でしたから。
 TVシリーズ二期がひどいもんだったので期待半分不安半分だったのですが、メッチャ良かったです。最初から最後まで格好良かった。劇場の大画面大音量で鑑賞するに値するアクションと演出。ヤバい、もっかい観に行きたい・・・
 巨大ロボット戦闘が派手。そんな最新鋭武装ドローンを相手に、破壊力の劣る旧式武器で堂々と渡り合うコウちゃんが素敵すぎます。強い、優しい、賢い、カリスマ。
 そんなコウちゃん相手に、不意をついたとはいえ近接戦闘で一本取ってしまうヒロイン。彼女の泳げない設定や寝相悪い設定も克服されてしまったようで、ますます有能っぷりに磨きがかかってきました。
 どこまでも万能キャラでありながら反感は無いのは、彼女の言葉の正論さとか抱えているものの重さとかもあるでしょうが、私生活の侘しい様子も描かれているのが大きいと思います。頑張ってください、としか言えません。
 ストーリー的には説明不足なんじゃないかと思う点もあって、「結局何から何までラスボスの掌の上!?」と思うと・・・。彼女たちの頑張りは何だったのか、と虚しくなるか。ラスボスなんだからそのくらい強大で手強いくらいな方が良い、と思えるか。で評価が分かれそうです。
 しかし、なんだかんだ言って、別れの言葉もなく逃亡してしまったコウちゃんが、朱ちゃんとギノさんと再会して(三年半ぶりぐらいか)くれただけでもう、十分とも言えます。
 続きも、このスタッフで、制作してくれないかなあ。

「繕い裁つ人」2015/02/21 10:41

 派手さはないけど、こだわりと品性を感じる良い映画でした。
 頑固な仕立て屋を演じる中谷美紀が、ハマり役。
 片桐はいりも、相変わらずいい存在感でした。エンディングの「切手の無い贈り物」がオシャレに温かく締めくくる。
 大切に、一生使い続けられるもの。
 使う人の顔が見える、丁寧な仕事。
 大人の、オシャレ。
 守り続けることと、
 より困難で新しい道へ踏み出していくこと。

「感じて。息づかいを。」2015/02/24 22:19

 日本ペンクラブ編、恋愛小説アンソロジー。2005年、光文社文庫。
 あんまりこういう本は読まないのですが、選者が川上弘美だったので。どんな「脱・ロマンチック」な恋愛小説集になるかと思ったら、予想以上にアレな感じの・・・・

桜の森の満開の下:坂口安吾
ご存じ、残酷幻想小説。人の首で「首遊び」をするのが趣味の美しい女と、それを妻にして言われるがまま首を刈り取ってくる盗賊が桜の散る下で消えていく狂気のお話ですが、これって恋愛小説?

武蔵丸:車谷長吉
いい年した夫婦が、ペットのカブトムシ「むさちゃん」へ惜しみない愛情を注ぐ。川端康成文学賞の爆笑小説ですが、これって恋愛小説?

花のお遍路:野坂昭如
「火垂るの墓」で知られる著者による、18禁系妹萌え小説。戦中戦後、体を売りまくって生計を立てた妹とそれに依存するしかなった兄、という結構ひどい状況での愛情ですが、これも恋愛小説っていうのかなあ。

とかげ:よしもとばなな
男が女に求婚し、お互いの過酷な過去を告白しあう。傷ついた者同士が寄り添う、ひっそりした感じ。三作目にしてようやく恋愛小説っぽいのキタ!

山桑:伊藤比呂美
 蛇姦。始末に負えない愛欲の果てに「来世で蛇と添い遂げたい」って、そんな恋愛小説あり?

少年と犬:H・エリスン 伊藤典夫 訳
第三次世界大戦後、少年たちは犬と会話し相棒にしている。殺伐した世界で銃撃戦シーンもあり、そして女に餓えている。でも精神的な部分は、犬>>>>女。動物・愛!三作目。

可哀想:川上弘美
冒頭で「DV小説か」と思ったら、SM系でした。痛くて、可哀想で、でもまったく不満がなくてむしろそこに愛情を感じている、恋愛小説。

悲しいだけ:藤枝静男
著者があちこちを訪ねて回る情景描写と、亡き妻への追想がごたまぜ。妻が死んでしまった後に生じる悲しみ。それを人は、恋愛と呼ぶのだろうか。

第38回日本アカデミー賞2015/02/28 09:30

 今年はTV放送を見つつツイッターを観察、というのをやってみたけど、けっこう気が散るなー。思ったより秀逸なつぶやきって少ないし。慣れれば楽しめるのかしら?

 そんなわけで、お祭りとしてキッチリと楽しむための授賞式。見所は大島さんと宮沢さんのド派手ドレスと、黒木さんと上白石さん若手女優の、お着物姿。お祭り的華やかさ。プレゼンターがやたら噛んで司会慣れしてないのはご愛嬌と思って。
 作品賞、監督賞、そして技術部門の数々で「永遠の0」が今年の日本映画の主役でした。
いい映画でしたからね。

 自分的に昨年観た邦画では、
1、舞妓はレディ
2、超高速!参勤交代
3、永遠の0
……上位二位にコメディーが入ってくるのは私としては珍しいです。笑いに餓えていたのか?
 次点をあげるなら、るろ剣か、松山ケンイチ主演の「家路」かなー。洋画はあんまり観てなかったけど、「ゼロ・グラビティ」「鑑定士と顔のない依頼人」なんかが印象的でした。
 主演男優陣に佐藤健の姿なかったのは残念でした。阿部寛に優秀主演(あの映画主演は吉永小百合だろうに……)出すくらいならさーって思う。「アクション部門」なんてのも作ってほしいものですが、「るろ剣」は話題賞でした。
 でも、岡田准一の最優秀主演男優は、普通というか納得というか。ジャニーズでこういう賞取るのは珍しいですが、2014年は大河ドラマに園長に紅白出演に、岡田イヤーがんばってたしね。
 佐々木蔵之助にも、最優秀主演(初ノミネートだ)ちょっと期待していたのですが。「超高速!参勤交代」は秀脚本賞で最優秀。原作なしオリジナル脚本を応援する日本アカデミーの姿勢には共感します。
 もう一本のオリジナル脚本、「舞妓はレディ」は、ミュージカル仕立てでしたし、最優秀音楽賞。これも納得というか、他にありえへんやろって感じ。
 最優秀主演女優、宮沢りえは、作品を観ていないのでなんとも言えませんが、「これなら一年後にTV放送で観てもいいかな」って思ってたんですよね。
 ベルリン映画祭で「ハル・クロキ」と呼ばれて国際的に脚光を浴びた黒木華が、これも無難に最優秀助演女優賞。彼女は昨年の「船を編む」でも最近観た「繕い裁つ人」でも好演、多彩な作品で名脇役。そろそろ、主演女優として大仕事を狙って欲しい女優さんです。
 今年もジブリが最優秀アニメ賞か、と思っていたら、大ヒットしたドラえもんできました。芸術性ばかりでなく、たくさんの人が感動しましたってことを評価するのもアリだと思います。
 池松くんの新人賞は違和感あります。「ラスト・サムライ」の子役時代から、長く頑張って高評価を得てきた役者さんなのに。
 最も異議申し立てしたいのが、助演男優の中に菅田将暉くんの姿がなかったこと!主役を食う勢いで(池脇千鶴は主演女優として呼ばれてたのに)印象的だったのに。