「裁かれるは善人のみ」2015/11/29 11:48

不思議な国です。
他国のゴタゴタに乗じて武力を以て勢力圏をひろげ。
隠しようがないのにバレバレの嘘でしらばっくれて。
こっそり国家プロジェクトとしてドーピングを推進し。
無関係な民間航空機を誤爆で撃墜し。
自国の旅客機も自爆テロで落とされ。
テロとの戦いと称していろいろ爆撃し、その戦闘機も撃ち落とされた。
よそから非難されれば「他国が自分たちを不当に叩いている」と被害者意識を持ち、自国がルール違反をしていることには目を瞑る。
強靭な精神をもった国が、広大な領土と資源と武力、使えるものは何でも使い、したたかに、なりふり構わず突き進む。
そんな国だからこそ、ドストエフスキーとかの文学が生まれたんだろうなあ。
なんて思わせる、2014年のロシア映画。
身もフタもない邦題が付いていますが、これが本当に理不尽なお話で、主人公のオッチャンは祖父の代から住み続けた土地と家を奪われ、友人を失い奥さんにも死なれ、果ては無実の罪で有罪判決を受けてしまう。
原題はLEVIATHAN。巨人も恐竜も出てこないけど、もっと凶暴な怪物が、無力な一般市民を襲う。主人公一家が日常を過ごしていた空間を文字通りに引き裂いたショベルカーを、おどろおどろしく映します。
映像的にはロケ地の自然映像も秀逸で、北方のド田舎の海辺の、大きくて荒涼とした美しさは、日本ではなかなか表現されない種類のものです。
土地の再開発を計画する市長との対決と同時進行で、主人公サイドの人々の抱える微妙で暗い人間関係も浮かび上がって来て、人間ドラマとしての側面もキッチリ見せます。
主人公が奪われた土地に新たにできたのは、豪華な教会でした。ロシアの社会批判のみならず、教会批判までぶつけてくる。よくロシアで上映できたもんです。
以前見た「顔のないヒトラーたち」もいろいろ盛りだくさんな映画でしたが、リッチャレッリ監督はさまざまな要素をキレイに整えて映画にしたのに対し、ズビャギンツェフ監督の方は、もっと荒々しく(しかし計算づくで)叩きつけてきます。
象徴的なのが、市長の手先である裁判官の読み上げる判決文。実はコメディ映画だったのかと思うくらい、ものすごい勢いの早口で棒読み。判決なんて分かりきっていて裁判なんて形式以上の意味なんてないのだと、突きつけられます。