「秒速5センチメートル」2018/01/02 23:40

2016年大ヒットの新海誠監督の、2007年作品、深夜TVで放送。
3話構成で、1話の切なさがすごく、良い。中一男子にとって、東京から栃木までの旅はとんでもなく遠距離だよねえ。しかも、電車は雪で進まない。山崎まさよしの歌が切ない。
それでも会いに行く少年、それでも待ち続ける少女。
しかしそれが、どうしてこうなった?2話の内容からてっきり彼女はお亡くなりになったのかと思ったのに、3話でちゃんと登場、しかも結構幸せそう。
逆だなあ、と思いました。「君の名は。」は二人が心通わせていく過程をバッサリカットしていましたが、「秒速」の方は二人の交流が途絶えた理由が描かれない。中一の時点ではたびたびお手紙のやり取りしていたのに、成長してケータイも持つようになってからの方が疎遠になるとか……
まあ、ありきたりに考えれば、遠くにいる人との絆を保ち続けることより身近に生じるアレコレに向き合う方を大事にしたってことなんでしょうが……
遥かな距離、ゆっくりと変化させる時の流れ、届かない思いを抱えた孤独感。

「雲のむこう、約束の場所」2018/01/03 23:52

日本は南北分断され、北海道を支配するユニオン(ソ連的な国家)と戦争間近、というSF設定。今の朝鮮半島を思い浮かべてちょっとヤな気分にもなりますが、しかしその分、色々リアルに感じることができます。
核ではなく、別次元の空間(宇宙の夢?)を持ってくるという謎のテクノロジーを研究していて、そのあたりの理論はサッパリなのですが、しかしお話の流れとしては、過不足なくって、とても完成度の高い脚本だと思いました。
前夜放送の「秒速5センチメートル」では<手に届かないどこか遠くにあるものを思う>という状況に酔ってるばかりでそれ以上前進できない感じだったのですが、「雲のむこう、約束の場所」では、壁を突破します。
主人公の少年に、頼りになるお友達がいたのが大きいですね。
少年時代の憧れ、恋愛、友情、ファンタジー、社会不安、武装地下組織に空中戦まで、盛りだくさんを美しい映像で描かれて、大満足でした。

「逃げるは恥だが役に立つ」2018/01/04 22:59

大掃除はサボろうと思っていたけど、新垣結衣がせっせとお掃除しているのを見て、窓拭きくらいはやっとこうかと。
年末年始に集中再放送されていた、2016年のヒットドラマ。
主婦の家事労働に対価を支払うべきか、なんてことを真面目に議論しているのを見たことがありましたが、ドラマではそんな素っ頓狂なことはせず普通に夫婦家事分担を模索していたのでちょっと拍子抜け。
古田新太のコメディアンっぷりといい、妄想のパロディ演出といい(元彼のシンジ君に大笑い)、面白おかしい要素もたっぷりなのですが。
本筋は、とてもマジメです。登場人物全員がそれぞれに真摯で善良。ヒロインの「仕事としてやるからには最大限のパフォーマンスを」という姿勢はつまりは勤勉の美徳。できる限りサボりたい手抜きしたいって人もいるし、そこまではいかずともほどほどの成果が出ればヨシ、と思う人だっているんだけど。
こんなにカワイくてしっかりしてて好感度高い女性が身の回りの世話してくれたら、そりゃあ嫁にしたくもなるよね。
ゆりちゃんの格好よさも印象的でした。メッチャ部下に敬愛されている上司、ステキ。
前向きで、最期はこれでもかってくらい大団円。
新しい年に楽しく視聴するのにうってつけでした。

「しんせかい」2018/01/05 23:12

昨年「やすらぎの郷」なるTVドラマが流行ったそうですが(一度も観てない)、その脚本書いた方が主催するお芝居塾があるという。著者・山下澄人氏がその塾での体験を描いた作品が、H28年下半期に芥川賞受賞したわけですが。
一ページ目から、読みにくく感じました。「○○である。否、○○ではない」といった文章が多く、「どっちやねん!」というモヤモヤ感。
特殊な状況で体験したもの得たもの感じたものを描く。と、思ったら大間違いで主題は塾での体験自体ではありません。塾時代を振り返って印象に残っている事象を、記憶があいまいで事実関係がよく分からないことまで含めてそのまま文章に転写する。
キレイな言い方をすれば、「モネの睡蓮のように」。
でも正直な感想を述べれば、「ピンボケ写真」。インスタ映えする被写体を選んでおきながらカメラの性能も撮影技術もなっていなくて写りが悪い。
もちろん、人の記憶なんてそんなに明快なモノじゃないし、明け方の夢のようにぼんやりすることだってあるでしょう。30年も前の体験ならなおさら。
でも、それ以前に、主人公=著者の現実認識のエエ加減さゆえのピンボケなのです。
しんせかい、どころかオノレ自身も良く見えていない、悩みなきモラトリアム。

「女の一生」2018/01/13 16:07

新年一発目の映画は、暗いウツ作品。モーパッサンの原作は読んだことは無いけど有名なので、暗い話なのは承知の上です。
貴族の御嬢さんが結婚した相手は、一見爽やかな好青年。暖炉の薪すらケチる、それでいて馬車に紋章描くのに拘ったり。そして浮気者。よりによってヒロインの心許した相手と不倫しちゃう下衆野郎。
さらに悲惨なのが、一人息子が父親に似て女にだらしが無く、さらに山っ気ばかりのボンクラであること。一旗揚げると家出し、事業が失敗したと言っては「ママ、お願い」と借金の肩代わりをさせる。
幸せそうに農園で作業する娘時代。
亭主と仲睦まじくデート。
息子と楽しげに戯れる様子。
温かく幸せそうな回想シーンが度々挿入されることで増々辛い。
いくつもあった農園も屋敷も失い、「ママは無一文になりました」……
ヒロインの、なにもかも他人に言われるがままに従ってしまう、己で決定できない意志の無さが気になりました。
亭主がボンクラなのはしょうもないのに引っかかってしまって可哀想なんですが、息子については子供のころからワガママちゃんだったのですから、もっとびしっと躾けてやっていたら違った成長をしていたかもしれないのに。
あんなんでも、我が息子は可愛いのか……
ラストほんのり光が見えるような描き方をしていましたが、とてもそんな風には思えない、女の一生台無しストーリー。

「嘘八百」2018/01/19 23:53

堺が舞台の、ご当地映画だから。この映画を観に行った理由の第一がそれです。撮影地・堺(ものすごく局地的ピンポイントだったけど)の映画として、以前観に行った「セトウツミ」が大満足のできだったのでこれも期待していたのですが。
中井貴一主演のコメディ映画って、あんまり当たらないなあ。
最初に気になってしまったのが、「あんな狭い道に駐車したら迷惑やん!」……嘘がテーマの作品ですが、全体的に「嘘くささ」の方が出てしまう。演出のセンスがイマイチ。
骨董品の世界を扱うのですが、「ギャラリーフェイク」ほどの洗練も無く。
登場人物の掛け合いとかは面白かったのに。最初の方は騙し、騙されるテンポも良かったのだけど。
骨董品の鑑定もそうですが、占いとかジオラマとか、実のあるような無いような、虚のイメージが盛り込まれています。そして、海とカモメに象徴される、自由。
嘘に踊らされ、騙したり騙されたりすることも含めて、楽しんでいこうとするスタンスです。