第70回正倉院展2018/11/04 13:05

平成最後の、とつけるのが流行りなのか。平成最後の日本シリーズ優勝、みたいな。
で、平成最後の正倉院展へ。前々から、一度見てみたいものだと思っていたけれど、良いお天気に誘われるように文化の日に出かけることにしたのは、例によって直前のこと。
正倉院展の前に、先月拝み損なった興福寺の中金堂へ立ち寄る。朱も鮮やかな新築のお屋根にキンピカのシビ、江戸時代初期のご本尊もピカピカに金箔貼りなおされて、御堂の中から抜群の角度で五重塔が見える。内部は撮影禁止だけど外からはレンズを向ける人々多数。現代によみがえる天平の姿はやっぱり格好良いからね。土曜で前よりも人が多く、随所に誘導用の青いポールが無粋。
と、ここまでは想定の範囲内。ついでに、と覗いた特別公開の北円堂が思いのほか素敵で。興福寺内では屈指の古さ。円いお堂の中を、運慶派の仏像群をぐるりと360度観て回れる。
そして夕闇の中奈良国立博物館へ。しかし、長い列が。閉館1時間半前からのオータムレイト待ちの列。これなら安くて空いているだろうと思っていたのだけど。……みんな同じこと考えるなあ。日が沈むと冷えてくるし、待っている間に疲れてしまう。
東大寺の倉庫だった正倉院の中から、天平時代の品々50点以上。布類はだいぶ傷んでいる(黄ばんだ白麻……)し古文書とかも、素人がじっくり見ても難しい。人気があるのは工芸品の類、あとは、麻布に描かれた当時の墨絵は面白かった。
これらを1時間半足らずで見て回るのは十分だけど、知らなかった、お隣の仏像館の展示も同じチケットで鑑賞可能とは。そうなると、ちょっと時間足りない感じ。
帰りに、中谷堂の蓬餅を買って半日天平気分を終える。

「散り椿」2018/11/10 16:44

しばらく前に見た映画。なのだけど、感想を述べにくい作品。面白い/詰らないの前に、「もったいないなあ」が出てくる。
木村大作監督は本職キャメラマンで、何気ないシーンでも完璧に美しい画に映す。雪も山も、素朴でいて静謐な日本の美。それなのに、肝心の散り椿、何故にあんな甘ったるい造花を作ったのか。文庫本やパンフレットの表紙に使われている速水雪舟の散り椿(重要文化財)はとても格好良いのに。少女マンガか結婚式場の装飾みたいな可愛らしい前で、親友同士が刃を交えるシリアス場面が、全然映えない。
この監督、変な甘さが入る。冒頭で主人公が暗い雪の中刺客を切って捨てる、そのすぐ後に奥さんとまるで新婚夫婦のようにベッタベタにイチャイチャ始めたり。
おかしい。原作が昨年逝去の葉室麟、脚本・小泉堯史、実力派俳優陣にこだわりのセット・ロケ撮影に、チャンバラもある、豪華時代劇なのに。もったいないなあ。

「あなたには渡さない」2018/11/17 17:44

キャスティングと原作・連城三紀彦が気になっていたTVドラマ。期待に違わぬどす黒いぶつかり合い。
妻が木村佳乃で愛人が水野美紀という結構なご身分の萩原聖人、これが根は悪い人じゃないんだろうけど頼りない感ハンパ無く、離婚を切り出すのも愛人任せ。亡くなった母親(ヒロインから見たら姑)にもさぞかし頭上がらなかったんだろうなあ。
こんな亭主さっさと慰謝料もらって別れりゃよさそうなものだけど、愛人にあれだけナメられてしまったら妻にも意地があるのは、わからないでもない。意地と、未練。
まずは女のイヤラシサを見せつけた愛人に対し、初回で離婚届を出した妻(元妻!)がどう逆襲するか。彼女の幼馴染の男はここで攻めていくのか。息子(大学生)や娘(高校生)はこの展開にどうリアクションしていくか。
これからしばらく、日曜の朝は録画した中年の四角関係の激突をニヤニヤ視聴することになるのだろうか。

「潤一郎訳 源氏物語」2018/11/23 11:53

イケメンは何でも許される、というお話。ただし、あまりの気高さ美しさに涙が落ちるほどのレベル(笑)。
中公文庫で全五巻。しかし思ったよりも難しくて、なかなか読み進められない。谷崎のが原文イメージに忠実って聞いたけど、やっぱり晶子か寂聴か田辺版あたりにしとけばよかったかなあ。和歌とか宮廷文化の記述は注釈あっても難しい(興味深くはあるけど)。
はかばかしく読み進められなかったもう一つの理由が、「光源氏コイツむかつくなー」。賢木の雨夜の品定めなんて、どいつもこいつも自分のこと棚に上げて言いたい放題。しかし、理想の女性を求める色好みは止まらない。
嫌がる人妻にしつこく言い寄り(空蝉)、連れ出した身分低い女が変死すると知らん顔でごまかし(夕顔)、お友達が探していると知っているのに教えず(夕顔・玉鬘)、少女を誘拐し(若紫)、父親の后と密通し(藤壷)、お兄さんの彼女にもちょっかい掛け(朧月夜)、田舎で謹慎中にも女を作り子を作り(明石)……。たくさんの女たちについて、その後についてもちょくちょくフォローを入れてくるあたり、作者と言うか編集者が神経を使っている感じ。
色々やらかしながらも、如才なく世渡りやって栄華を極め。そんなウキウキ人生で、ままならないことが三つ。六条御息所の怨と、北の方を寝取られたこと、そして最愛の人に先立たれたこと。……一番の盛り上がりが、若菜上下だねえ。
対する朱雀お兄さんが気の毒なポジションで、朧月夜にも秋好中宮のケースも煮え湯を飲まされ、紫上や柏木君の危篤と重なって五十歳の記念行事はオザナリになって、可愛がっていた女三宮も若くして出家する羽目になり。
そして、その貧乏籤体質は、お孫さんの薫君に受け継がれてしまった!彼の恋路を阻むのが、光君のお孫さんであるプレイボーイ匂宮!
宇治は「憂し」に通じる。片道六時間の遠距離、三角関係四角関係。宮廷や政治からは離れ気味に、宇治十帖は普通に恋愛小説みたいで面白かったです。