「バハールの涙」2019/02/10 00:50

戦う女。最高だ。
カラフルなスカーフを巻き銃器で武装した、女性のみの部隊。隊長は元弁護士、裕福な知的階級出身者だ。彼女たちと共に最前線を行く戦場ジャーナリストも女性で、黒い眼帯が潜ってきた修羅場を物語る。
まるで漫画みたいな設定だけど、実際にこんな女だけ部隊があってもおかしくないと思える、リアリティ。監督・脚本のエヴァ・ユッソン、気合入れて取材したのだなあ。
平和に暮らしていた町を血に染めた黒覆面の一団・IS。狂信テロリストに家族を殺され性奴隷にされた女たちが立ち上がる。被害者でいるよりも、戦いたい。
地獄を見てきた自分たちには、もう恐怖心などない。その勇敢さは、悲しい。それと同時に、誇り高く歌う彼女たちは、力強く輝いている。
女戦士たちとは立ち位置が異なる仏人ジャーナリストは、ただ使命感のみに突き動かされて危険な戦場に赴く。バハールたちを称える彼女のモノローグや、真実を伝えることの意義とか、この映画を製作した監督の真意を直球で代弁している。
メッセージ性の強い作品。でも女たちがISから逃亡するシーンや、町の奪還のため地下道を進んで行くシーンなど、緊迫感ある描写もたっぷり。BGMのドラムの盛り上げ方がすごい。

「押絵と旅する男」2019/02/14 22:28

どんよりした曇り空の日に読むのにぴったり。蒸し暑い夕刻ならなお良し。
江戸川乱歩の作品に、ゲームキャラデザインで有名(刀剣乱舞とか)だというイラストレーターしきみさんのイラスト。立東舎による「乙女の本棚」シリーズ、要は文学作品に美麗画を付けて売り出そうという戦略である。
字が大きく美しく印刷されて紙もキレイで、たまにはこういうのを図書館で借りてくるのも有りだなあ。乱歩の古風な世界に、デジタルな画風が摩訶不思議。
二次元の美少女(いや、押絵なので2.5次元くらい?)に恋い焦がれて自らも押絵になってしまった男の話。を語る、その男の弟の方がむしろ妖しいっていうか、妖怪じみているお話。
……京極夏彦を、久しぶりに読み返したくなってくる。

「ながいながいペンギンの話」2019/02/16 16:59

民放の5分アニメを視聴するのは初めて。正味3分の番組を、想像以上にクオリティ高い作品に仕上げてくれている、原作ファンとしては嬉しい限り。
ひとつだけ違和感があるのは、ペンギンってあんなにキュッキュキュッキュ鳴くものだっけ?漫画の「おこしやす、ちとせちゃん」は無声なのだけど。


そうだ、これだよ。
ペンギンは「ケオー、ケオッケオッ」って鳴くんじゃないか。
いぬいとみこの長編童話、今回はフォア文庫で読んだけど、初出は宝文館より1957年だというから、ながくながく読み継がれているなあ。
幼稚園で読んだときはながいながいお話だと思ったけれど、今読み返すと、さらっと読み終えてしまう。でも、ペンギン兄弟の愛らしさは変わらない。くしゃみのルルにさむがり屋のキキってネーミングから、もう、カワイイ。
さむいさむい南極で、やんちゃ坊主の冒険だ!

「いだてん 東京オリムピック噺」2019/02/17 23:47

ぜんっぜん、大河ドラマっぽくない。
でも、めっちゃ自由で、面白い。レトロなんだか新しいんだか、何とも言えないけど楽しいことは間違いないオープニング。
初回から、役所広司演じる嘉納治五郎先生が、熱かった。もうこの人主人公でいいんじゃないの!?
来夏の五輪盛り上げ企画としては上出来なんじゃないかと思う。
正直、この国でいまさらオリンピックやってどうするんだろうって、全く開催意義を感じなかったのだけれど。
このドラマで、ようやく、オリンピックの理想とか哲学が語られた気がします。だって、オモテナシはオリンピック精神とは関連性薄いだろうに。
体育会系の暑苦しいウザさ(天狗!)とか、勝利至上主義の醜さ(悲劇!)とか、ムチャな鍛錬(水は飲みましょう)とか、やたらお金かかる(借金まみれ)とか、そういうマイナス面をちゃんと提示してくるの公平さ。
そのうえで、でもやっぱり、スポーツは熱いね。って持ってくる。
五輪の開会式では、メダル候補を抱えた大選手団の国が目立つけれど。
少人数で母国の誇りを背負って来た人たちも、別の意味でドラマチックなんだろうなあ。
何事も、最初が大変で、その分偉大なのだと思う。
五輪にしろ、万博にしろ、やっぱり、初めての国に譲るべきだったんじゃあ……

「星と祭」2019/02/20 23:11

聖地巡礼って言い方はなんだか大仰で気恥ずかしい。でも、お目当てが十一面観音巡りならば、あんまり違和感ないかな。
私の寺社参りや仏像ウォッチングの、最初期。
分かり易く言ってしまうと、子を失った父親の「鎮魂と再生」の物語。
わりと良くあるテーマですが、井上靖のロマンチシズム要素大集合な感じ。死者との対話、雄大なヒマラヤ、月光に照らされる風景、死と隣り合わせの生、素朴な祈り、困難に遭いながらも受け継がれ守られてきた物、永劫、運命。大きなモノに心打たれ、それに比較して小さなモノに愛を感じる。……大自然とか歴史ロマンとかに向き合うと、己のちっぽけさに謙虚にもなるもんです。
その昔、琵琶湖北岸は仏教信仰盛んであったのが、幾多の戦火(織田氏!賤ヶ岳!)によって衰退する。それでも、十一面観音像が土地の人々に大切に守られてきたのは、その地が雪深い自然と惨い戦、厳しい運命と密であったことと関係あるのかもしれない。仏像には顔や手がたくさんある異形が多いけど、「困ったときの神頼み」と言うように、数の多さは「困った」の多さなのだ。
救われたい人のため、祈りがある。