「天気の子」2019/09/01 23:38

新海誠監督の新作アニメ映画。メガヒットの前作に比べれば、ボーイミーツガールの要素は丁寧で(「君の名は。」ですっ飛ばした過程を今回はちゃんと描いたなー)、それなのになぜかご都合主義観も強く感じたのでした。
たとえファンタジー要素であっても、それ以外でも、「ナンでドウシテこうなるの?」の部分が曖昧だともやもやするのです。
雨ばかりの東京、というのは今年の夏後半を象徴しているみたいである意味リアル。世界的に問題になっている異常気象をファンタジーで扱うのはどうかとも思う。自然科学については深く考えずに鑑賞しなければならない作品。
この監督特有のキリキリするような切なさは、薄め。リアルを極限まで神々しくする風景描写もは良かったけど、でもやっぱり「君の名は。」「言の葉の庭」ほどの感動はなかったかなあ。
ヒロインの弟君がたいへんたいへんイケメン(外も中身も)なのと、オッサンがいい味。

関西文化の日 プラス2019/09/08 00:05

ICOM京都開催記念で、今日は京都国立博物館入館無料!
と言うことで、特別企画「京博寄託の名宝」を鑑賞してきました。
陶器やら漆工やら色々ありますが、一番のお楽しみは絵画(中世)。狩野派初代正信による、今にも動き出しそうな鶴の、可愛いこと。
みんなの人気者「風神雷神」、対象を中心に置かず両端に配置する屏風絵は、何も無いハズの中心に何かがあるように感じる不思議。左の雷神さんは視線を下方にして下界を狙い、右の風神さんは目線進行方向で、まさにその空白と雷神さんの方へ駆けて行くところ。静と動の交差する直前の緊張。
五月に兵庫まで観に行った、河鍋暁斎作品も一つありました。足指だけチラリと見せて色気を醸し出す美人画だけど、彼女たちお衣裳や座敷の様子、座敷内にある屏風絵に描かれる田園風景、入子状の描写が盛りだくさんでいくら見ていても飽きない。
ミュージアムショップでは絵葉書の種類があんまり無くて、A4クリアファイル(こちらの方が絵葉書より単価高くて儲かるのかな)を購入。海北友松の雲竜図。デカイ、強そう、立派な角に、力みなぎる荒々しい爪。
……先週観た「天気の子」でも大雨の化身みたいな感じでドラゴンちらっと出てきたけど……ハンパに龍を描いちゃうと、400年も前に墨だけで描かれた龍と比べられて力負けイメージを持たれてしまうのがニッポン文化の宿命なのだなあ。

三十三間堂2019/09/08 00:06

京博で拝んだ仏像彫刻のひとつで、両手に乗せられるほどの塊に爪楊枝みたいなミニ地蔵が並ぶ千体地蔵菩薩像がちょっと笑える。雲竜図や大仏みたいにサイズで押すか、あるいは数で攻めてくるかっていう発想。
しかし京都で千体仏像っていえば、意外と最近国宝指定された千体千手観音像。京博近くの三十三間堂内部は冬寒く、今日は残暑の厳しさであまり快適とは言えません。障子を開けたところはお庭からいい風入ってくるけど、全部開け放つわけにはいかないから。
これも最近、左右の位置を逆にしたという風神雷神像は、直前に観た宗達の屏風絵のようにトボケタ感じじゃなくて、真面目そうだ。位置を変えてしまうと、宗達のと違って互いにそっぽを向く形になる。まあ、お堂の端から端まで遠いし、向き合う意味は特にないだろうけど。
そして、大きいの一体を中央に挟んだ、等身大千手観音一千体。ド派手に数で押します。

大阪クラシック2019、ものすごく残暑の中で2019/09/08 23:52

お昼は中之島図書館の北欧風サンドウィッチのお店で頂こうと思っていたら、順番待ちズラリ。本日図書館自体は休館なのに、京阪の広報誌で紹介されていたからなあ。
そこは諦めて土佐堀川を渡り、北浜のお店でベーコン揚げパンとジンジャエール。あまりに暑くてそれ以上の徒歩移動は困難であるが故の近場選択でしたが、川風の吹くテラス席は静かで開放的でお空青くって、リラックス。

今年で14回目の大阪クラシック、記念クリアファイルもボランティアTシャツも黄緑。
第一公演は例年どおり、中之島中央公会堂大集会室で。来年の生誕250周年を前に、今年はベートーヴェン曲多し。交響曲7番はドラマ「のだめ」で有名になった第一楽章の主題とか、フィナーレの賑やかさが印象的。音の強弱をつけて盛り上げていく曲で、小さく繊細な部分もなんかカワイイので、生でじっくり聴く方が絶対面白い。
アンコールはヨハン・シュトラウスのピチカート・ポルカ。嵐のような弦ピチカートの中、指揮者大植英次による素人感たっぷりのトライアングル演奏によって、あのシンプルな三角形の重要さを知らしめる。

音楽聴くより待ち時間の方が長い大阪クラシック。同じく中央公会堂の中集会室で第4公演当日券販売(残りわずかだった)の列に並ぶ。
グリーン、イエロー、ホワイト、のドレス。「ベルリン トリオ」として何年も活動していらっしゃるそうで、お三方息ぴったり。
ピアノ三重奏曲第一番、メンデルスゾーンらしい軽やかな、でもフワッフワにはならないでどこかに抑制と緊張がある(ニ短調の曲だし)のだ。
もう一曲はブラームスのピアノ三重奏曲第一楽章。

本日はもう一つメンデルスゾーン公演(有料、千円)があるのでどうしようかと思ったけど、結局場所移動して市役所正面玄関ホールへ。
第8公演はサン=サーンス、この人は二歳でピアノ弾き始めるとか三歳で作曲するとか話盛ってる感じで笑っちゃうけど、実際何でもこなす天才だったそうだ。五月連休に聴いたチェロ協奏曲がステキだった。
今日聴いた七重奏曲変ホ長調は、弦楽五重+ピアノとトランペットな編成ですが、実際のところ秋月さんのトランペット対その他の楽器って感じだ。明らかにトランペットの音が強くって、なんと言うか、バンドのヴォーカルみたいなポジションだけど、しかしヴォーカルが他の楽器演奏を潰す訳はなく、ちゃんと調和していて。とても格好良い、楽しい曲でした。

大阪クラシック2019、最終日は月明かり2019/09/15 01:01

昨夜が中秋の名月だったけど、月齢的には今夜の方が丸く見える。雲一つない夜空の望月涼やかな風虫の鳴く声ほろ酔い気分。

11:00から大阪市役所。大阪出身のヴァイオリニストで作曲家・貴志康一って全然知らないけど生誕110周年なら最近の人か。と思ったら、わずか28才でこの世を去っているので活躍時期は戦前戦中だ。
そのヴァイオリンソナタを聴けば、すぐに感じるニッポン風。メロディがくっきりして聴きやすく、日本の童謡・唱歌を連想する。およげたいやき君的な、明るい哀愁が魅力的。アンコールの「竹取物語」もまた素敵で、惜しい才能を早くに亡くしてしまったのだなあ。

13:00から本町でチェロ四重奏。石田聖子さんは初日のメンデルスゾーンや三日目のハープとのデュオも聴きに行ったけど、今年も大阪クラシックたくさんご出演だ。
一曲目テレマンのソナタは元々ヴァイオリンカルテット用の曲をチェロ編曲したもので、素朴でかわいいけれど、やっぱり元々チェロ用に作られた曲の方がチェロの特性・技巧を楽しめる。フィッツェンハーゲンさんは知らなかったけど、クレンゲルの即興曲はフィナーレが有名。
チェロも四本もあれば結構な音量で、特に花崎さんの技量を堪能。

15:00に中之島ダイビルでモーツァルトの弦楽四重奏「プロシャ王第二番」
そういうイベントだって分かっていますが、演奏中にお子様は叫びたいのでした。私自身がモーツァルト曲しっかり聴けてないのも、あるんだ。

18:00には市役所まで戻って、恒例の野津さんのフルート。バッハ次男のソナタイ短調に、J.S.バッハの無伴奏チェロ組曲の2番ニ短調。アンコールの「アルルの女」。
癒しの音色だ。

19:15に今年のラストは、ベートーヴェンの3番「英雄」。チェロやコンバスを指揮者の左側に配置しての演奏。
ベートーヴェンが偉大なのか、フェスティバルホールの音響技術の賜物か、コンマスの優秀さか。それらもその他も全部引っ掴んでどんどん持ち上げていく、大植英次のテンションのあの高さはなんなんだろう。二楽章なんて葬送行進曲、基本辛気臭い曲を、とっても心地よく聴かせてしまうのって……
アンコールの日本の童謡で指揮棒渡されていたのって、多分最近入団の須山さんか。慣れない振りっぷりと、周囲に頭下げすぎで笑える。そして八木節でみんなで手拍子打って、おしまい。

全81公演中、今年は12公演聴きに行って。
プロデューサーの大植さん、演奏者の皆様、ボランティアスタッフの皆様、ありがとうございました。今年も楽しませていただきました。

「妊娠カレンダー」2019/09/18 23:34

妊娠中や、妊活中の方にはお薦めできない。どちらにも該当しない自分でも、グレープフルーツを買うとき産地をそうっと確かめてしまう。
芥川賞受賞の表題作と、他二編収めた文庫。いずれも、なんか不気味な雰囲気を醸し出す。江戸川乱歩を連想したけど、そういえば著者の小川洋子氏は内田百閒のファンだったか。
物事に対する、希薄と濃厚の、差が激しい。登場人物の氏名をはじめとして、固有名詞がほとんどない。飼い犬の名前くらいか。名前の無い主人公たちには明確な意思とか動機とかがなく、あるのかもしれないけど描写されない。……明確ではないけど、妊娠中の姉に対する妹の冷めた悪意は感じられる。
その一方で、猛烈な執着が描かれる。いくらでも作るグレープフルーツジャムとか、天井の染みとか、身体機能とか、給食室とか。
ありきたりで当り前だと思われがちなことを曖昧にしたり、特殊な意味を与えたりして、別世界を作る。

「インビクタス 負けざる者たち」2019/09/22 22:35

2009年のクリント・イーストウッド作品、金曜ロードショウ。
ラグビーものっていうより、マンデラ大統領のカリスマ、高潔さの方が印象的だなあ。
かつてテロリストと呼ばれ長年投獄されていた男が、南アフリカで初の黒人大統領となった。アパルトヘイト終了後の国で、問題は山積みの中、黒人白人の心の溝を埋めるために彼が選んだのが、「白人が大好きなラグビーのナショナルチームを黒人も応援しよう」作戦。
ここで大統領のエライところは、選手は白人中心のままでユニフォームもチームの愛称も変えず、自分たちを差別してきた白人たちの誇りを傷つけることをしなかった。
これがノーサイドっていうのかな、勝った側は敗れた側にどういう態度を示すべきか。
弱小チームが自国開催のワールドカップで勝ち進んでいく。それだけで国中が一つとなって盛り上がっていくってデキすぎだって思うけど、イーストウッドお得意の「実話を元にした」ってやつで。
スポーツの巻き起こす熱狂って、何なのか。
人は闘志を抱く。戦う者たちに対する敬意、勝利をつかんだ者たちに対する賞賛は、理屈抜きで人の心に溢れてくるのだ。

「彼方のアストラ」2019/09/23 23:34

三連休何をしていたのか。
アニメ放送終了後購入の原作漫画を読んでいました。全5巻、2019漫画大賞受賞作で、アニメでは省かれていた細かい説明や小ネタを拾って楽しむ。
宇宙漂流冒険漫画。散りばめられた設定やエピソード自体は、あっと驚くほど斬新ってわけじゃないけど、見せ方つなげ方が上手い。シリアスもあればコミカルもあり、楽しくて熱い旅路を描く。
アニメの方は原作よりさらに、盛り上げ度アップで、シナリオ担当者のセンスが光ります。初回のクライマックスシーンは原作漫画の方が絶対に合理的なんだけど、アニメ版の方が画的にも展開的にも熱いもんだから少々説明がつかなくってもこれで良しと言うしかないくらい。
初回と最終回一時間の拡大放送で冒険後エピローグまでバッチリボリューム満点、オープニングとエンディング曲に毎度新規カットを入れてくれるのが楽しい。……エンディング曲「Glow at the Velocity of Light」は歌詞が抽象的でそれだけでは意味不明なんだけど、11話見た後だと、分かる、メッチャ熱い。
原作も素晴らしいけど、既に完結した作品をアニメ化した制作サイドの愛とリスペクトにも拍手だ。