「風林火山」2021/12/11 12:28

久しぶりに再読、ですが、これってこんなに長いお話しだったっけ?印象的な部分だけ記憶に残っていて、細かい辺りはけっこう忘れていたようです。
基本的に、この物語はギャップ萌えの世界だと感じています。主人公の山本勘助は軍師として戦略戦術は怜悧冷徹、非情ですらある。それが若い可愛いお姫様が相手となると、くるくるおろおろ振り回されているのが面白い。
そんな彼の「夢」である由布姫もまた、二律背反を生きた人。「父を討った人の囲い者になりたくて、はるばるやって来るとは、国は滅びたくないもの」……武田信玄(晴信)に対する執着と反感、愛憎の狭間でグラグラしながらも、己の運命を生きるのです。
物語の中では触れられませんが、そんな彼女の産んだ男児が、のちに徳川家康に大負けし、武田家没落の象徴となるわけですから、人や国の興亡ってやつは、運命的です。
勘助のもう一つの「夢」である信玄については、天才と天然は紙一重っていうか、裏表って印象です。主人公じゃないのにどこかヒーロー感が漂う人物像。例えば不利な合戦の最中でも逆転勝ちを諦めない強気な姿勢とか。比べれば、勘助はやっぱり、歴史というドラマの主役に対する脇役キャラなのでしょう。
歴史の脇役と、負け戦。井上靖作品の2大キーワードです。

「ブルー・ピリオド」2021/12/20 22:29

振り返ってみると、今年はコンサートにはあまり行かず(昨年がベートーヴェン・イヤーで盛り上がったしね)、一月のロンドン・ナショナル・ギャラリー展を始めとして、美術展には割と出掛けたなあ。

アフタヌーン原作アニメは、超絶美麗作画とか人気声優大盤振舞とか、そういう派手さはないけれど、なんか丁寧な印象で、好感が持てる。エンディングに度々描き下ろしカット(原作絵)を入れて視聴者を楽しませてくれたり。たぶん細かいエピソードは端折っているのでしょうが、無理を感じさせずに上手に凝縮させて盛り上げる。作品の空気を掴むセンスがあるのだと思う。
第一話のブルーが、大変キレイでした。
青の時代、直球の青春モノ。美大受験のお話、だけど主人公はいかにもアーティストって感じの芸術爆発型ではなく、理性的な思考と熱心な努力を重ねるタイプで、観ている側も理解しやすく感情移入もしやすい。絵の楽しさに目覚め、悩んで苦しんで、たどり着いた一枚。素直に感動的。
八虎君たちのその後も気になるし、原作も読んでみたくなる。アニメと違って白黒なんだろうけど。

「ひらいて」2021/12/26 23:03

わたしのモノになってよ。
先週は、夢に向かって苦しみながらもがんばる高校生たちの物語に感動して。
今週は、がんじがらめになって迷走暴走三角関係な高校生たち。
綿矢りさの小説はたびたび映画化されていて、テーマ的には興味深く感じるのだけど、タイミングが合わないのと視覚的には地味なイメージで、これまで観に行くことはありませんでした。
今回の作品は、ハイスペック美少女の分かり易い闇落ちビジュアル変化とか、夜の校舎の高さとか、華やかで軽い折り紙展示とか、女子高生同士のベッドシーンとか、映像的な気合の入れドコロあり。首藤凛監督は、まさに高校生の頃、原作に出会って感銘を受けたという。
ヒロインの愛ちゃんは、優等生で可愛くてコミュニケーション能力も高くて、しかしその感じの良さは、打算的な仮面。遠方に住む父親相手には、お義理でも気の利いた言葉なんて出てこない。彼女の行動を一つずつ具体的に並べていくと、かなり痛々しい。それでも完全に突き放して見られないのは、彼女が美少女だからというだけではないでしょう。
三角関係の残りの二辺は、愛ちゃんとは別の意味で、一歩引いた、閉じた立ち位置で世界と対峙する。持病やモラハラ親に縛られる二人と、おのれの渇望に突き動かされるままなりふり構わぬ愛ちゃん。ピュアと、エゴ。静と動。どこまでも相容れない、踏み込めない。しかし、それらがぶつかり合うことで、化学反応が起こります。
そうして、閉じていた何かが、ひらかれるのです。

「推し、燃ゆ」2021/12/29 09:38

女子高生もの、再び。宇佐美りん著、話題になった芥川賞受賞作。綿矢りさの受賞作もアイドルオタクが主要登場人物で、よく引き合いに出されるのは受賞年齢の若さだけではなさそう。
生きづらい人生を、何かに熱中することで満たしていく。傍からは狂気に見えても、熱中対象から逆に吸い取られていくことになっても、やめられない。
現代的な要素・用語を使用しているけれど、テーマはそれほど革新的なものではないように思います。
それでも、平易な日本語で、主人公の切実さを伝えてくるパワーがあるから、極端な展開にも説得力があります。たぶん、こういうオタク心理に親和性が無い(あんまり免疫がない)人ほど、衝撃と熱量を感じるんじゃないでしょうか。
ただ自分、つい最近綿矢りさ原作映画を見たばっかりだったからなあ。そうでなければもっと面白く読めたかもしれません。

「偶然と想像」2021/12/31 23:38

ベルリンの準グランプリのおかげか、ほとんど会話劇な短編映画三本オムニバスという興行的には当たらなそうな作品なのに、劇場にお客さんけっこう入っていました。
春に観た「花束みたいな恋をした」も、こんな出来すぎな展開あるんかいって筋書きでしたが、そういう偶然から話を組み立てるの、流行なのでしょうか。
第一話は親友の恋バナの相手が自分の元彼だった話。古川琴音が放つ、何しでかすか分からん緊張感、怖かった。
第二話はイイお話に転がっていくかと思ったら、小さなミスからヒドイことになり、ラストはやっぱり怖い感じに。
第三話になってくると、だんだん眠くなってくる。前の二つに比べて「想像」の部分が大きい感じ。ただの脳内シュミレーションじゃなくって、そこに掛け合いの相手がいるコトで人の心は癒される。
ってことなのだと思うんですが、あくまでもそれは「仮想」であって、彼女が会いたがっていた相手ではないのになあって思ってしまう。「仮想」なやりとりだと思うと、やはり緊張感が減じてしまう。私の想像力が足りないだけでしょうか…