「たそがれ清兵衛」2022/01/05 10:36

剣客もの、に分類されるのでしょうが、収録の八つの短編は全て「ごますり陣内」「日和見与次郎」など、迫力に欠ける単語が並びます。
さまざまな事情から他者に侮られがちな主人公たちは、みな素朴に善人で、戦闘能力の高さを買われて藩の権力闘争に一役買うことになる。普段冴えない人物があるとき目覚ましい活躍を見せるって、わりと日本人に好まれやすい展開だと思います。
映画化もされた表題作は、権力より病身の妻を気に掛ける清兵衛の人柄が温かくて、しみじみします。しかし、同じような筋書きを続けて読んでいると、やっぱり飽きてきますね。
その中で印象的だったのは、「ど忘れ万六」。主人公は他作品よりも年齢設定高めで、物忘れのために隠居した親父さんが息子の嫁を脅すゴロツキを懲らしめる。腰を痛めながら。彼だけは暗殺者にならず、またドロドロの権力闘争も描かれず、ほのぼのしています。
藤沢修平を読むのは初めて。人間の暗さと素朴さ、両者を描くのに、白刃の一閃が繋ぎ目となる。