「トップガン マーヴェリック」2022/09/03 23:40

前作の内容はほとんど記憶に残っていない。そのあたりを踏まえた方が面白く見られるかもしれませんが、知らずともちゃんと楽しい映画。
とにかく格好よい。もういい年齢になってきているのにかっ飛ばしちゃうトム・クルーズが格好良い。それに負けず劣らず格好良い、戦闘機の存在感。粗野でタフで陽気で強気な若い米国軍人の世界。
無人戦闘機の性能と要望が上がっていくご時世、生身の戦闘機乗りは時代遅れになっていく。作中のミッションも、どこか辻褄が合わないような気がしないでもない(目標を守るミサイル装置を先に大軍で蹴散らしてしまうことはできなかったのだろうか?)。
でもいいんです、細かいことは。あの爽快感と緊張感、わくわくする感じ。CGはほとんど使っていないのではないでしょうか、古き良きハリウッド映画感。
生身と生身がぶつかり合う、熱い映像美を堪能できます。

大阪クラシック2022、ドヴォルザーク!2022/09/04 23:05

蒸し蒸しと、残暑厳しい日曜正午から、大阪クラシック今年もスタートです。
昨年はクロージング公演のみでしたが、今年は第一公演からチケット(完売だそうですが、二階の両サイド席はかなり開いていて、どういうことなのだろう?)買いました。
オープニングは、祝祭感あふれる「こうもり」序曲。
メインはドヴォルザーク交響曲8番ト長調。この夏の甲子園応援で「新世界(9番)」演奏が格好良くて印象的でしたが、この8番もなかなか。指揮者の大植さんの思い入れある曲だそうで、楽団も熱演。野津さんのフルート素敵。
アンコールは再びシュトラウス二世で「常動曲」。これは私カラヤン指揮ベルリンフィルのCD持っていますが、生演奏の方が断然面白い。主旋律をいろんな楽器が交代で奏でていくのが視覚的に見えます。指揮者が示すし、わざわざ立ち上がってくれたりしますから。

今年は無料公演申込制で、うっかり期日を過ぎてしまった。このシステムだと暑い中並ばなくていいけど、通りすがりの人に周知することはできませんね。気まぐれに行ったり行かなかったりもできないなあ。
有料公演のみだと、ちょっと時間が半端になってしまった。

ショパンとお茶と愛の夢2022/09/10 16:40

休暇を取った、雨の木曜日。
コンサート前に、前から気になっていた北浜の英国風カフェで軽く腹ごしらえ。クラシカルな内装もさることながら、外観のインパクトがすごい。この立地・ロケーションでこのレトロ可愛い建物、独自性ありすぎて異次元っていうか、異空間が出現している。
お茶とスコーンも美味しかった。残念なのは、やっぱり、あの安っぽいアクリル板は可愛くないってこと。

おなじみの、近藤さんのチェロと河合さんのピアノ。
大阪クラシック配信版でもこのお二人の演奏(in海遊館)があったけど、どうしても、物足りない。その場、の力が大きいのは、カフェだけじゃないのだ。
昨年国際コンクールで話題になった、ショパン・プログラム。作品3のポロネーズは割となじみのある曲で、メインは晩年のチェロソナタ、ト短調。
出だしが重々しくて、でもフィナーレは華やかに盛り上がっていった。ブラボー。
アンコールはリストの「愛の夢」(カサドのチェロ編曲)。
夢の時間は、美しく儚く、簡単に消えてしまうモノなのだ。

チャイコフスキーの良夜2022/09/11 22:58

午前中買い求めた月見団子とウサギのお饅頭は、しかし夜ではなく、昼に頂いて、お月様は大阪中之島から見上げました。
そのまま、すぐに帰宅するつもりだったのに、あまりにも気分が良くて、スロバキアの甘口ワインとチーズで乾杯。

チャイコフスキーの5番、これ、こんな、すごい曲だったとは。
大阪クラシック、オープニング公演のドヴォルザークも大概格好良かったけど、最終公演はさらに大盛り上がり。何が違うのか。やっぱり、フェスティバルホールの音響が特別スバラシイのか。私の耳はそんなに繊細に音聴き分けられる性能は無いはずなんだけど、ものすごく良く、聞こえます。
地の底の真っ暗闇から響いてくるような第二楽章冒頭の、ホルンのソロが優しい。
今、力任せな争いを仕掛けているお国ですが、ロシア芸術の奥深さは、その地の自然と運命の苛烈さ故に生み出されてくるように思えます。
アンコールはしめやかな曲、マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲(コロナ死者か、もしくは英国女王への追悼か)と、大トリにおなじみの「八木節」でお祭り騒ぎ。
今年も、ありがとうございました。

「トッカン 特別国税徴収官」2022/09/17 11:15

タイトルの割に、軽い文章。著者の高殿円氏はラノベでのキャリアが長いそうです。
税務署職員――日本一嫌われる公務員、だからこそ、その使命を自覚し真摯に職務に取りくまなければならない。と、いうお仕事小説ですが、税徴収の仕事にはさほど興味は湧かず(難しい)、話の展開もどこかしっくりこない。実際のところ、そういうものなのだろうか。
このお話の特徴は、ヒロインのぐー子さんが、あんまり活躍しないことにあります。人間としても職業人としても未熟なところこそ、見所。プライベートでも仕事でもパッとしない、迷いや不安や自信の無さを抱え、きらきらライブではしゃぎ、めためた打ちのめされて自己嫌悪たっぷりに落ち込む。素直な性格のキャラなので、喜怒哀楽の率直さに共感と好感が持てます。
若い女が一人生きていく。切実に求めるのは、安定。
だけど、公務員の地位だけじゃ、職の安定はあっても、人としての安定は得られないんですよね。頑張れ。

嵐を呼ぶ2台のピアノ2022/09/18 10:38

小曽根真、ジャズとクラシック二刀流、一度聴いてみたいと思っていたピアニスト。
鈴木優人、チェンバロを弾いているイメージがありましたが、いろいろな音楽活動をやっていらっしゃるそうで、ついこの間NHKの番組(バッハ特集)にも出演していました。
お二人ともメディア馴れしているっていうか、お話もノリがいいなあ。小曽根さん、喋るとモロに関西人、神戸っ子。
近代と古典の融合。
ジャズ感のあるラヴェルのピアノ協奏曲で始まり、続いてモーツァルトの「2台のピアノのための協奏曲 変ホ長調」。2台のピアノがまさに、会話を交わしていました。お二人のノリの良さが、モーツァルトの朗らかさに合うなあ。楽しい。
アンコールは、割と有名な(でも、タイトルは分からない)ジャズのナンバーで、中にクラシック曲のフレーズが組み込まれていたり。
休憩を挟んで、これも元はムソグルスキーのピアノ曲、ラヴェル編曲の「展覧会の絵」
高らかなトランペットに、ずしりと響く重低音にわくわくしますが、この曲、なぜかいつも、途中で疲れてきてしまう。10枚の絵をモチーフにした楽曲をお散歩曲でつなぐ構成で、切り替えについて行けなくなるのかなあ。
最初の方と、終幕の「キエフの大門」はちゃんと楽しく聴けているのに、中間がぼんやりしてしまって、自分、毎度残念だぞ。

「星の子」2022/09/25 22:39

秋の気配を感じるひんやりした朝、鉢植えに青虫発見。
葉っぱを食べるアゲハの幼虫、これが春夏だったら即駆除ですが、この季節、緑の葉はもう枯れていくばかりで青虫が食べてもさほど美味しくないでしょうし、最近の台風にも負けずにここまで大きくなったと思うと、もののあはれがあります。
さて、無事にサナギ化して越冬できるか、栄養不足で干からびるか。
害虫という認識を外すと、明るい緑の体も灰青の斜めのラインも、きれいなものです。

朝日文庫、巻末に作家の小川洋子との対談(2017年)付き。
今村夏子、芥川受賞作が異様に面白かったし、昨年の映画「花束見たいな恋をした」で主人公カップルが注目していた作家だったし、「星の子」は一昨年映画版を観ていました。
そして、映画の原作小説を、今、改めて読んでみたのは、この物語の主人公、ちーちゃんことちひろちゃん中学三年生は、新興宗教信者2世だったからです。
印象だけでいうと、原作より映画の方が面白かったです。小説を呼んだ段階でストーリーをすでに知っていたからというのもあるでしょう。映像によって林家の住居生活水準が下がっていく様子や両親の宗教的習慣(彼らにはふつうのことだけど)の異様さに、文章以上にインパクトが出るのも強い。役者さんの力(主演・芦田愛菜)もあります。
もちろん、小説の方が状況や人物の説明が多く、理解しやすい。ちーちゃんは思ったよりメンクイ食いしん坊キャラでした。ラストの微妙さは原作の方が余韻を感じました。映画、もう一度見返したい。
お金に不自由し、お姉ちゃんは家出して音信不通、憧れの南先生にはドン引きされるし、困ったことも多い。
しかし、彼女は両親のことが好きで、宗教団体のイベントに参加するのも好きで、いい友達に恵まれ、けっこう楽しくやっているのです。
身を寄せ合い冬の夜空を見上げ、流れ星を探す三人の親子。
その微笑ましさと温かさと不安定さは、どこか、秋の朝の青虫に似ている気がする。