「日本沈没 第二部」2018/05/06 00:27

小松左京。と、谷甲州の合作だそうで。
第一部が大変面白かったけど、第二部の方はイマイチ思っていたのと違ってなかなか読み進めず、まとめて時間取ってやっつけるつもりでした。
できれば、沈没してから二、三年後ぐらいの生き残った彼らの姿(移住編!)を読んでみたかったんですが、これはもっと飛んで25年後の世界。
一部に比べて格段に評価が下がってしまう本書でありますが。
まず、登場人物にあんまり感情移入できない。人物描写が下手っていうかおざなり。
そして、全体的に殺伐としています。
一部は、地球規模の自然現象に対する畏敬の念と、それに翻弄されながらも懸命に抗おうとする小さな日本人たちの姿が感動だったのです。もちろんキレイごとばかりではないのですが、基本はヒューマニズム。自衛隊は命がけで救助活動をする存在だったのに、銃撃戦するようになってしまうなんて・・・・
中国と米国の印象がとってもダーティ。2006年刊行だけど、「米国ファースト」公言されるこんにちにおいて、ナショナリズムによるエゴイズムに、説得力があります。
殺伐した世界で、国土を失った日本に残された武器は、人材と、それが生み出す技術。
そして、己の利益に固執して姑息に立ち回るより、公明正大情報公開して辛抱強く他と協調する道こそが、その武器を最大限に生かせるのでした。
でも、最後にみんなで歌ってるのが「君が代」ってのが違和感ありすぎ。日本のカルチャーとして未来に残されたのそれですかっ!!

「日本沈没」2018/02/12 00:15

73年、まだ冷戦やっていて日本が高度経済成長やっていた時代に発表された作品を、95年、あの震災後に刊行した光文社文庫版。
こういうのは一月から三月にかけて地震津波報道が盛んになる時期に読むのが最適、と思ったけど、読んでいる間の、草津の噴火ニュースがすっごい怖くて。
大阪が津波に洗われ文字通りの「水の都」に戻ってしまった場面では、3.11の映像をイメージして読む。イメージなのに、悲しくてちょっと泣けてくる。でも「あそこの島はなんだ」「ばかやろう!仁徳天皇陵じゃないか」のやりとりにはちょっと笑う。
第二次関東大震災の描写も圧倒される。東京一極集中人口過密は、やばい。
映画とか漫画とかにも接することなく前情報無しだったので、沈みゆく島から脱出するサバイバルもの、「ポセイドン・アドベンチャー」のようなものを想像していたのだけれど。
もっと、大きかった。沈み始める前から、沈んだ後まで見据えての「日本人総避難・総移民プロジェクト」。
あらゆるものが詰まっている。一昨年の「シン・ゴジラ」を連想しました。国家滅亡の危機、と言う意味では「進撃の巨人」にも通じるけれど、しかしその二つを合わせたよりもまだ、大きい作品でした。

「しんせかい」2018/01/05 23:12

昨年「やすらぎの郷」なるTVドラマが流行ったそうですが(一度も観てない)、その脚本書いた方が主催するお芝居塾があるという。著者・山下澄人氏がその塾での体験を描いた作品が、H28年下半期に芥川賞受賞したわけですが。
一ページ目から、読みにくく感じました。「○○である。否、○○ではない」といった文章が多く、「どっちやねん!」というモヤモヤ感。
特殊な状況で体験したもの得たもの感じたものを描く。と、思ったら大間違いで主題は塾での体験自体ではありません。塾時代を振り返って印象に残っている事象を、記憶があいまいで事実関係がよく分からないことまで含めてそのまま文章に転写する。
キレイな言い方をすれば、「モネの睡蓮のように」。
でも正直な感想を述べれば、「ピンボケ写真」。インスタ映えする被写体を選んでおきながらカメラの性能も撮影技術もなっていなくて写りが悪い。
もちろん、人の記憶なんてそんなに明快なモノじゃないし、明け方の夢のようにぼんやりすることだってあるでしょう。30年も前の体験ならなおさら。
でも、それ以前に、主人公=著者の現実認識のエエ加減さゆえのピンボケなのです。
しんせかい、どころかオノレ自身も良く見えていない、悩みなきモラトリアム。

「おちくぼ物語」2017/12/30 23:48

きっかけや経緯は様々あるでしょうが。
相手の人格を無視して強制的に自分の支配下に置こうとする。その自己中心的な非道さに、自分では気づかない。自覚のないまま、暗い歪みはエスカレートしていき……

1979年の文集文庫の新装版。これが出版社の姑息な手段だと分かってはいても、いのまたむつみの表紙絵がカワイイことに異論はない。平安時代のお姫様がこんなお目目パッチリ美少女なわけないことなど大した問題ではなく。
作中でこの時代の生活風俗について色々解説してくれていて(石山詣でとか、結婚の仕組みとか、方違えとか)、なんか田辺聖子による平安・古典文学入門書、を読んでいる気にもなってきます。……ジャパネスクを思い出すなあ。
また、田辺聖子による人間解説(要するに、男ってやつは、女ってやつは、という)もどこか冷めた感じが面白いです。
ストーリーは単純なもので、継母に虐められているお姫様がリッチなイケメンに助けられてめでたしめでたし。
しかし、この姫様の、人は良いけど気弱すぎる部分に、ちょっとイライラしてきます。もっとガツンと言ってやればいいのに、と思う場面がいくつかあって、歯がゆい。
きっぱり自己主張しない女の方が悲劇のヒロインって感じはするのでしょうが。
現実は、素敵な殿方が助けてくれるなんてことは滅多にないのです。
人知れず、餓えて凍えて死んでしまうかもしれないのだ。
殺してしまうかもしれないのだ。

「風と共に去りぬ」2017/12/23 22:54

Gone with the Wind
今年の秋から初冬にかけて、私の夜更かしの一因になっていたのがこの大河小説。
「伊藤君A to E」で語られていたので読んでみたのですが(読了後改めて読み返してニヤニヤしたり)、これがメチャメチャ面白い。さすが。
文庫本で5巻もあるのですが、内容充実です。
まず、歴史ものとして面白い。目からウロコ、米国史って。かの国でも「欲しがりません勝つまでは」的な時代があったなんて。今の北朝鮮が二本の戦前戦中に通じるところがある、という意見を目にしたことがありましたが、南北戦争時の南部アメリカにも重なる所があるかもしれません。
アトランタ陥落までのリアル、軍隊による略奪、占領下の治安の悪化。
歴史って、時代も国家も民族も越えて繰り返されるのかなあ。
そして、スカーレットを中心とした四角関係。スカーレットっていうのはギャルのイメージ(?)
美人で勝気、虚栄心が強く何事も自己中心的。目先の欲求を追求するためには抜け目なく力強く行動するけど深い考えは持たないので結構いろんなものを失っていく。
エゴイズムって、男が描くと暗くて卑屈で重苦しくなりがちだけど、女性視点で描くとある種の活力の方が勝ってくるのはなぜだろう?
お友達になるにはちょおっと度胸がいるけど、でもこういう人ってきっといるよなあ。独自の道を歩いて成功するか、逆に何もかも失って破滅するかってタイプ。
今回は新潮文庫版だったけど、いつか岩波文庫版で読み返してみたいなあ。

「Hallowe’en Party」2017/10/24 23:12

カズオ・イシグロの受賞で思わぬ増版に沸いていることでしょう、早川書房。
でも私にとってはこの出版社は、やはり赤い表紙に黒いカラスのアガサ・クリスティを一番読んでいます。図書館で借りてきたそれはクリスティ文庫、2003年の新装版。背表紙に「ポアロ」「マープル」「戯曲集」など書いてあるのが親切。
1969年刊行なので、クリスティ作品群の中では末期の頃。
推理作家のミセス・オリヴァに相談されたポアロが、ハロウィン・パーティで少女が殺された事件の調査を始めます。
カボチャよりリンゴのイメージが強い。林檎食い競争ってなんだろう?定番ゲームらしいけどパン食い競争のりんご版ではないようです。
珍しく被害者が未成年です。クリスティにしてはなんだか不穏な種類の幻想的(横溝や乱歩っぽい?)描写があったりで。
子供でも容赦しない、殺人鬼を追い詰めるのですが、推理の方は結構ざっくりな感じです。もうちょっとちゃんと動かぬ証拠をそろえるとか欲しかったなあ。

「伊藤君A to E」2017/10/17 00:37

ドラマ版は見視聴だけど、映画の方はどうしようか……

稀に、ある。
最初の一行目、何気ない普通の一行目を目にした途端、「あ、これは面白い」と感じてしまう小説が。
イケメンで金持ちのボンボンだけど、口ばっかり言い訳ばっかりでイイ歳して中身カラッポのフリーター、伊藤君。
彼をめぐるAからEまで5人の女たちを描く、連作短編小説。
伊藤君は本当にぶっとばしたくなるような自己中心的なクズ野郎なのですが、彼のダメな部分は、どこか、彼女たちのダメな部分と重なっている。
これが、ものすごくリアリティーがある。そのイタい言動、幼稚な発想、ダメな心理。みんなが軽蔑してあざ笑う伊藤君の弱さウザさの、リアル。
そして女たち(とその友人たち)の、リアル。
あるある、そういうの、あるよねー。
女たちは行き詰った惨めな状況から、どうにか前進しようと踏み出すけれど。
伊藤君だけは、変わらない。それどころか、ますますクズをこじらせていく……

「コンビニ人間」2017/10/09 00:17

昨年話題になった、芥川賞受賞作。
自分もこの年で独身で派遣社員やっているし、36才コンビニバイトのヒロインに対する周囲の反応には、身につまされる部分もあります。
ただ、彼女は明らかにもっとはっきりと異常者でもあります。他者への共感力が極端に低い。真面目で他者を気遣うこともできるのに、「あちら側」に合わせようと注意を払う様子は、なんだか痛々しい。
しかし、異常な彼女の目で見た正常な「あちら側の人々」だって、結構不条理でけったいなモノたっだりします。
テキパキと意欲的にコンビニ仕事に従事する彼女の姿はプロフェッショナルとして頼もしくもあり、その合理的にマニュアル化された場所だけが彼女に理解でき世界と繋がれる場所だと思うと寂しくもアリ(世界のどことも正常に繋がれない人もいるけど)。
異物はすぐに排除される、という文章がありました。修復される、とか削除される、とか。
そういえば最近できた新党でも「排除する」って言った人がいました。一理あるとは思いながらもどこか、もやもや感を覚えた。その理由が分かりました。
そういう人がトップにある集団は、きっとひどく、冷たいのだろう。

「東慶寺花だより」2017/09/30 00:37

一昨年観た映画の原作、ていうか原案小説。
井上ひさしの作品を読むのは初めてです。縁切り寺の御用宿に身を置く新人戯作者が、亭主と別れたい女たちの事情を、判じ物形式で解き明かしていきます。
でも、どっちかと言うと作中に触れられる鎌倉という土地説明(鎌倉観光を思い出す)や、江戸時代の庶民の風物(お寿司の流行はじめとか、おろし金を使い始める日!?とか)や、巻末の井上ひさしによる東慶寺と江戸時代の離婚の仕組み説明の方が興味深かったりしました。
映画の方はこの連作小説集からアイデアだけ借りてもっと色々詰め込んだ感じだったのですが、東慶寺院代の法秀尼様の貫録はそのまんまなイメージです。格好良い。
おんな、強し。

「かたづの!」2017/09/03 16:59

戦国末~江戸時代初期のおんな城主、寧々様の物語。セリフの中にちょこっとだけ、直虎様のお名前も出てきます。
ですが、歴史ものというより歴史ファンタジー。語り手は一本角(片角)のカモシカだし、大蛇とか絵から出てくるペリカンとか河童とか座敷童とか、妖怪世界はさすが遠野っていうか。
しかし、とぼけたカモシカの語りによるほのぼのストーリーとは言い切れない。
けっこう、ハードな目に遭います、寧々さま。夫と嫡男を謀殺され、女の身で八戸南部家の当首になり、次から次へと難題が突きつけられます。
寧々様の基本方針は、とにかく血が流れないように死人が出ないように、戦に一番大切なことは、やらないこと!……であるので、理不尽な状況でもぐっと我慢です。
辛抱強く我慢することで、多くを守り、しかし代償として大切なものを失っていく人生、とも言えます。短気を起こさず耐えることに、鬱屈を抱える人も出てきます。孤独な戦いの中でキセルをふかすことが多くなってくる寧々様。途中で読むのがつらくなってきます。
賢く理性的な寧々様を傷つけていくのは、人の支配欲であり、狡さであり、同情心であり、自尊心であり、連帯感であり、理不尽に対する嘆きと憤りだったのでした。
戦を避けることはできても、苦しみを避けて通れない人生。
それでも、知恵を絞れば、強い思いがあれば、必ず道はある。