「獣の奏者 外伝 刹那」2017/07/24 00:10

舞台設定がファンタジーなだけで、中身はガッツリと恋愛小説でした。
恋愛モノではあっても、その底に「生とはいかなるものか」「生き物の性」みたいな哲学が息づいているのが「獣の奏者」シリーズらしい。
短編二つに中編二つ。
各お話の主人公たちはみな、何かを欠いています。どうしようもない事情ではあるのですが、その欠落の苦しみは否応なく彼らの人生に影を落とす。
だからと言って、影ばかりの人生と諦めてしまわない。選んだ道があって、その上には愛するモノもあって。
刹那でないものなんて無い。
移り変わり失われていく人生の中で、自分は何を見つけられるだろうか……

「鴨川ホルモー」2017/06/21 07:07

せっかく京都府民になったのでKYOTOっぽい小説を。ちなみに宇治に関する物語、となると源氏関連か平家物語か、あとは京都アニメーションの原作になったヤツくらい。
万城目学の2005年デビュー作。洛中で一千年に渡って繰り広げられてきた「ホルモー」なる競技が、なぜか京都に実在する大学の学生サークルに受け継がれているという設定。
お話の核は、「設定」。この競技の解説が主な内容で、主人公たちの青春小説っぽい要素もないことはないけどほとんどどうでもいいって言うか、この特異な設定の前では無いも同然であったりします。
同じく京都を舞台に大学生が怪異と遭遇するハチャメチャ小説といえば「夜は短し歩けよ乙女」。似た印象もありますが、しかし「夜は短し」との決定的な違い、怪設定の説明に頼りすぎて人物描写が比較的弱い気がしました。
これが世にいう「中二」というやつなのか。
あまりに説明を引っ張って途中飽きがくることもありましたが、でもやっぱり上手いなあって思います。お話の都合に合わせて設定作っていけばいいもんなあ。
漫画やアニメではそういうトンデモ設定あるあるですが、日本の真面目な小説界にもそんな自由な発想が登場してきたのでした。

「アトミック・ボックス」2017/06/10 16:09

作品に合わせてGW期間中に読めたらより旬な感じだったかもしれません。
読めば瀬戸内国際芸術祭に行ってみたくなります。実際わたし第二回の芸術祭に行きましたし。
再読です。新聞連載中も毎日楽しみに読んでいたのですが、連載終了後、国家機密を「保護」し情報漏えいを罰する法案について話題になり、「この作中でそんな法が存在していたらどうなっていただろう!?」なんて思っていました。
要するに、一般人であるヒロインが明らかに「特定秘密」に属する情報(戦後日本の原爆製造計画)を得てさて公表しようかどうしようか、というストーリーです。世間様はもうすでに特定秘密保護のことなんて忘れ去った感じですが、北朝鮮の核開発問題が熱い時期に読み直すのもまたヨシ。
そんな風に言うと小難しい小説みたいですが、基本的には冒険小説です。警察が権力と組織力とシステムで捜査・追跡するのに対して、ヒロインが知恵と勇気と友達の輪で切り抜けるのがとても小気味よいのです。
大きな社会と個々の人間性を切り離すことなく描く、それが池澤夏樹の小説の魅力なのです。

「伊豆の踊子」2017/03/07 23:45

新潮文庫、表題作の他に「温泉宿」「抒情歌」「禽獣」と計4編。
昔読んで、どこが面白いのかさっぱりわからなかった小説を、大人になって再読して。
やっぱり、読むのしんどかった、川端康成。
ストーリーを読もうとしてはダメなのでした。わずかな状況説明と、登場人物たちの哀歓を表わす抒情的な小説なのです。
筆者が描こうとしたのは、人の清らかなで純粋素朴なこころ。それだけなら単なるロマンチストさんなのですが、清純が白く煌めくその舞台は、人の非情さ世知辛さ寂しさだったりします。
掃き溜めの中の鶴。
作品によって、鶴の方に焦点があったり(「伊豆の踊子」「抒情歌」)、掃き溜めの方の描写に言葉を費やしたり(「温泉宿」「禽獣」)するので、だいぶ印象が違ってきます。

「秘密」2017/01/22 15:59

作っている製品は全然違うのですが、今の私の勤め先も自動車部品作っているので、主人公の勤め先の空気がなんとなく分かります。他の小説にはあんまり出てこない単語とか。製造業、工業男子たちの世界。理系作家・東野圭吾だ。
しかしながら職場シーンはちょびっとで、ほとんどが、秘密の夫婦の物語。「君の名は。」みたいな人格入れ替わりモノだと思っていたのですが、事故死したお母ちゃんの魂が小学生の娘さんに入ってしまう、一方的な憑依状態。
はたから見たら父娘、実質は夫婦!?な奇妙な生活が始まるのですが。
つまらないわけじゃないけど、なんか読んでいてモヤモヤしてしまいます。人格憑依という状況も特殊ですが、専業主婦から若い娘に変身!な直子さんの、デキスギっぷりもまた特殊に思えて。
勘が良くて強い意志を持ち、頑張り屋さん。人生が激変した状況で、勉強を頑張り受験戦争に打ち勝ち、学生として優秀、主婦として家事もこなす。言うことも至極まっとうで、最善の結果を手に入れる。……つけいる隙がない感じが、読んでて引いちゃうんです。
こういうしっかりした人間が、稀にいるのは分かるんですが。
全部夫からの目線で語られているので、彼の目に映らない彼女自身の苦悩や苦労がしっかり描かれれば、また印象が違っているかもしれません。

「みをつくし料理帖」シリーズ2016/12/25 22:43

料理漫画はとんと読まないのですが、この小説は「料理漫画や!」……今、4巻目まで読んでいます。とにかく真っ直ぐなおはなしで読みやすく、気軽に読めるシリーズ。
ヒロインの澪ちゃんが、いろんな困難に遭いながら料理人として成長していく。
こてこてのストーリーながら、人情アリ、身分違いの恋愛アリ、料理勝負アリ、仲良し幼馴染アリ、料理屋経営モノでもアリ。ど真ん中直球の王道とも言えます。巻末のレシピとかお江戸地図がついていたりで、刊行元の読者へのサービス精神がうかがえます。
ヒロインたちが上方出身というのもちょっと面白いです。東西食文化の違い指摘。興奮すると大阪弁の出る澪ちゃん(時代劇なんかでは江戸っ子言葉ばかり聞きますが、本当は多様なお国ことばがあるはずなのです)。そして常日頃から(接客中でも)上方の喋り方を押し通すご寮さんが、大変格好ヨロシイ。
大店の女将をやっていた自負、気品、厳しさ。一本筋の通った、オトナの女や!

「怒り」2016/11/07 00:17

日曜日の昼に買った玉葱が、月曜の夜にどろりと腐っていた、10月末日。
これって、怒っていいとこですね、ムカつくべきところですよね!
しかし、適切な怒り方って、なんなんでしょうか?
ブログ炎上させること?裁判で倍賞勝ち取ること?土下座させること?デモ行進すること?世界各地に慰安婦像立てること?それで、相手に怒りを伝えられる?



吉田修一原作の映画はこれまでに4本観て4本とも自分内で大当たりだったので、5本目も期待していたのですが。
なんだかよく分からない。役者陣はみんな熱演で坂本龍一の音楽も最高なのに、「悪人」のような緊張感がない。それでも終盤にかけて徐々に盛り上げていって、でも最後に肩すかしな感じ。凶悪殺人犯は、何をそんなに怒っていたのか、単に常軌を逸した狂人の犯行としか解釈できません。
釈然としない不完全燃焼さを解消するため、原作本も読みました。(映画みてからすぐ原作読むのって私には珍しいことです)
結局、どういう回路で怒りに火がつくのか、他人からはその内情はなかなか見えないんだってことでした。
怒りのあまり、人を殺害せざるを得なくなるお話。
なのですが、序盤は、不満はあるけど怒れない、怒っても仕方がない何も変わらないという、諦めた人々の物語でした。それぞれ不安な現実を抱えながらも、徐々に明るい方向に向かいそうでいて・・・・それが破られる。
内情はなかなか見えない、そんな他人を信じるとは、どういうことか。
この作品の特徴は、相手を信じたパターンでも信じきれなかったパターンでも、どちらも破局を迎えるということ。
しかし、結果として、自分の弱みに付け込まれ相手を信じきってしまった方が、自身や周囲に与えたダメージが大きい。怒りという名の、魔に付かれてしまって。
逆に、信じたいけど信じきれなかった方が、戦う力を持つことになります(ここら辺が、映画では描写不足だったと思う)。衝突や後悔という苦難を伴っても、そこから何かが生まれてくる。
作中で、疑ってるっていうのは信じてるってこと、っていう逆説がちらりとありましたが。
なんか、分かります。

「おれがあいつであいつがおれで」2016/10/23 23:49

「君の名は。」で唯一物足りなく感じたのは、シリアスに入る前の入れ替わり編を、もうちょっと長くやってほしかったなあ、というコト。
その補完、というか。
小学生のときに読んだ「山田ババアに花束を」、最近のドラマで「民王」などなど。
中身入れ替わりものって、エンターテイメントやるなら必ず通らなければいけないかのごとく、たくさんの作品があります(でも外国ものでは聞いたことがないなあ。宗教観の違い?体を乗っ取るのは常に悪魔の役目)が、私の知る限り最も古いのが、山中恒作の、児童小説。映画「転校生」の原作?
序盤から、仲良し幼稚園児がババアをぶっ殺し、小6で再会して男女入れ替え生活、という、なんかこう、突き抜けきった感じのコメディです。

ほんとに男っていいなあ。前のボタンをはずして、ちょんとつまんで、シャーッとやって、あとはブルンブルンとやって、さっとしまえば、もう、それでいいんだものなあ―


描写が、リアルすぎて爆笑。小6男子の一人称って、バカっぽさと遠慮のなさとその源となる根の真っ直ぐさが最高です。女子視点で描いたら、もっと悲観的だったでしょう。
混乱や不安を共有することで二人の絆を深めるのは、お約束です。

「復讐はお好き?」2016/10/09 22:54

先月まで放送されていた「91Days」、オリジナル脚本による、なかなか渋くてハードな物語で毎週ハラハラと楽しんでいました。復讐のために友を殺せるか!?
で、こちらの小説はもっとライトな復讐劇。一ページ目からヒロインが真っ逆さまに海へ落下していくシーン(笑)です。シニカルなユーモアのある文章で、何とか助かった彼女が、自分を突き落した夫に対する復讐を決意する……
と、ここまでは面白かったのですが、だんだん、飽きてきてしまうのです。……みみっちいのです、全体的に。まず、復讐相手であるチャズがどうしようもなく小者で、クズ野郎すぎて。ヒロインのジョーイも、窮地から生き延びるところまでは根性を見せるのですが、それ以降は大したことしていなくて。夫にネチネチと精神的苦痛を与えていくっていうのも、なんか陰湿に思えてきます。ある程度追いこんだら、あとはさっさと警察に訴えたらいいのに。
復讐劇そのものよりも、環境破壊についての描写のほうが印象的でした。作者のハイアセンさんは、もともとその分野を追求するジャーナリストさんだったそうで。垂れ流される農業排水、それを誤魔化す企業とお抱えエセ学者。
……たまたまなんですが、ニュースで新市場の汚染について盛り上がっている時期に読みましたからねえ。

「坊ちゃん」2016/09/20 17:40

夏目漱石没後百年記念で。子供のころ読んで何が面白いのかさっぱり分からなかった作品に再チャレンジです。
何故かつて、面白く感じられなかったのか。
男の愚痴? 不平不満が並べ立てられます。松山へ数学教師として赴任したぼっちゃん、なんだかんだと江戸と引き比べて田舎田舎とバカにする。不浄の地!扱いです。……漱石先生、よほど松山で嫌な思いをしてきたのでしょうか?
冒頭の、親譲りの無鉄砲で子供のころから損ばかりしてきたって有名な書き出しも、無鉄砲も損ばかりなのも親のせいだと言わんばかりに思えてきます。そして、やたらと子供のころから可愛がってくれた老いた下女のことを引き合いに出してくるのも、なんかマザコンっぽい。
イタイ人です。うらなり君に同情したり山嵐と仲直りするあたりから、多少印象も変わってくるのですが。
独自の価値観を持って、それに反することは受け入れがたい。イイ歳して世間知の低い、坊ちゃんのままでいる主人公。
欺瞞に満ちた世間に喧嘩を売る姿は、多分、漱石先生がやりたかった、でも出来なかったこと。憧れなのでしょう。