「伊豆の踊子」2017/03/07 23:45

新潮文庫、表題作の他に「温泉宿」「抒情歌」「禽獣」と計4編。
昔読んで、どこが面白いのかさっぱりわからなかった小説を、大人になって再読して。
やっぱり、読むのしんどかった、川端康成。
ストーリーを読もうとしてはダメなのでした。わずかな状況説明と、登場人物たちの哀歓を表わす抒情的な小説なのです。
筆者が描こうとしたのは、人の清らかなで純粋素朴なこころ。それだけなら単なるロマンチストさんなのですが、清純が白く煌めくその舞台は、人の非情さ世知辛さ寂しさだったりします。
掃き溜めの中の鶴。
作品によって、鶴の方に焦点があったり(「伊豆の踊子」「抒情歌」)、掃き溜めの方の描写に言葉を費やしたり(「温泉宿」「禽獣」)するので、だいぶ印象が違ってきます。

「果断 隠蔽捜査2」2015/11/28 15:06

本格的な警察小説は「新宿鮫」以来かもしれません。
「隠蔽捜査」で吉川英次文学新人賞(ベテラン作家なのに新人賞!)、続編である本書「果断」によって山本周五郎賞と日本推理作家協会賞。著者・今野敏の出世作。
二年くらい前にTVドラマ化されて、わたくし大ハマりしていました。「相棒」と「半沢直樹」を足して2で割った感じ。キャストも「相棒」と色々かぶっていましたし。
杉本哲太と古田新太の掛け合いが面白く、二人そろって、上司になってもらいたい権力者です。
ドラマの方はかなり展開が早くて、端折られた部分を楽しむつもりで原作第一巻を手に取り、数ページで、全巻読むの決定です。対PTAとか、対アイドル一日署長とか、端折られエピソードも面白かった。
頭カチカチ、友達おらんっぽい「変人」キャリア警察官僚が、がんがん正論を吐いて世の矛盾をついていくのが小気味よい。
小学生時代のいじめ経験をいつまでも苦々しく思い返したり、奥さんが入院してお風呂をわかせなかったり、息子に勧められた「風の谷のナウシカ」を観て素直に感動して勇気づけられる46歳東大法学部卒警察官僚……なんか、とっても。
カワイイのですよ。
そう、まぎれもなくこれは、中年のオッサンの成長物語に萌える小説なのです。
シリーズ二作目の本書からは、ドラマでお気に入りだった戸高刑事(態度はワルイがやることはやる。署長に競艇の面白さを熱弁)も本格的に活躍してきます。それから、SITとSATの違いもこの小説で初めて理解できました。
残りのシリーズも、ドラマになっていなかった分もまだまだありますし、楽しみ。

「ジェネラル・ルージュの凱旋」2015/10/01 01:18

表紙にデカデカとヘリの絵がありますが、作中災害報道ヘリは飛んでも医療ヘリは、とびません。
理由:お金が無くて。

チームバチスタ・シリーズとか田口・白鳥シリーズとか言われる、海堂尊著の医療コメディ。映画で堺雅人が主演やっていたヤツです。
シリーズとしては三作目、なのですが、二作目の「ナイチンゲールの沈黙」と時間軸が同じ。この病院、同時進行で二つの事件抱えてるよ……という構成で、だいぶ前に読んでうろ覚えな二作目のおかげで変なデジャヴが!
事件としては別モノなのでかえって、これ単体で読んだら何の意味があるのか分からんシーンたっぷりです。
ストーリーは、「事件は会議室で起こっている」って感じのダラダラ感。
救急医療のシーンとか、現代医療の問題点を真面目に突いている作品でもあるのですが。
基本的には、キャラクター小説っていうか、こういうのを「チューニ」っていうのだろうか。ほとんどの登場人物に大仰な二つ名がついていて、なんだか芝居がかった喋り方する。普通医療小説に「将軍の近衛兵団」なんて言い回しが出てくるだろうか。医療業界このノリが通常運転だと誤解する人が出てきやしないだろうか。
前半は、変なコッテリ文章に食傷気味みなのですが。
後半になると、一気に読めます。
それまでウダウダ会議やってきたのをグッと盛り上げる仕掛けが上手い。
そして何よりも、厚労省官僚・白鳥のみんなからウザがられる言動によって何か、風穴がブチ開けられる感じ。医療コメディが普通のコメディになる!?面白さが別次元にシフトします。不思議というか、便利なキャラクターです、白鳥。
他のキャラクターは個性的だけどなんか胡散臭くって作り物っぽくて、白鳥はそもそも胡散臭さが個性だから「そういうもんだ」とすんなりと受け入れられるのかなあ。

「妖怪アパートの幽雅な日常」2015/07/19 00:13

ラノベだと思ったら、児童書だった!
妖怪とそれ関係の人たちが集まる愉快なアパートに暮らすことになった夕士くんが、一年かけて成長する物語。
若いうちから苦労してきた割に、主人公の語りが幼い感じで高校一年生っていうより小学生みたいなんですよね。高校生ってこんなものかな?「裏番」などという単語は今時ギャグ漫画でしか使われていないと思ってました。
本作は10巻完結で、2巻以降は普通の子だった主人公がラノベっぽく能力持ちになっていくそうですが、続きを読むかどうかは未定。

「回帰祭」2014/12/14 15:33

 汚染された地球から逃れた避難船。三百年に渡って避難民たちはその閉鎖空間で暮らしてきた。物資も情報も乏しくストレスにさらされる環境。そこで出会った三人の少年少女たち、そして謎の「喋るウナギ」が、避難船の秘密に迫っていく。
 早川文庫のSF。小林めぐみを読むのは初めてでしたが、本格的なSF設定を盛り込みつつもライトノベルのノリで読みやすい。
 ウナギさんのユーモラスな感じも良いですし。
 そして、少年少女たちが、なんていうかカワイイ。もう、お前ら甘酸っぱいよ、青春だよ、何その爽やかな三角関係。
 良いラノベでした。

「abさんご」2013/11/18 00:44

 平成24年度下半期の、芥川賞受賞作。
 横書き、漢字を避けてわざわざ平仮名表記、一語の名詞ですむモノを回りくどく表現(たとえば「死者が年に一ど帰ってくると言いつたえる三昼夜」って、何のことかと思ったら「お盆」のことでした)・・・・・
 そんな感じで、文字数をたくさん費やし詳細に説明されていながら、ごく簡単な事象が読解しづらく、薄ぼんやりしたイメージになってしまう小説です。
 読みにくさのあまり最初の数行で一度本を置いたくらいですが、幸いなことに、思ったよりも早くこの文体には慣れました。
 慣れなかったのは、語られている内容の方でした。
 主人公(たぶん女性)が、自分の幼少期や親(おそらく父親)の死について、断片的な回想を述べています。述べているっていうか、夢に見ているっていうか、ぼやぼやと漂わせているというか。
 輪郭のはっきりしない、印象派絵画のようです。人の記憶って、そんなものかもしれません。
 印象が甘ったるいのは、特異な文体のせいだと思います。
 しかしきちんと読めば、語り手の思考は意外と冷静で論理的で、なんか冷たいのです。
 びっくりするほど体温の感じられない、好きになれない主人公でした。

「冥土めぐり」2012/08/25 22:34

死んだような過去の思い出をたどり、新たに生まれ変わる主人公。
図書館の文芸春秋で読んだ、鹿島田真希の芥川賞受賞作。
ですが、読み始めて数行で「これ、ニガテ」と思いました。主人公の「自分、不幸なんです」って主張が強すぎて。
実際、ダメな母とダメな弟のせいで、ひどい目にあっていて、お気の毒ではあるのですが。
そこまで嫌なら、唯々諾々と振り回されてないで逃げるなり抵抗するなりイイのにって思ってしまいます。
親兄弟のコトなので、そうそう割り切れるものではないし、こういう気持ち悪い依存関係にある親子がこの世にあることも重々承知しているのですが、それにしたって「どうしてそうなっちゃうのか」って部分をもうちょっと追求しないと説得力に欠ける気がします。
説得力がない、といえば、常軌を逸するほどイイ人な主人公の夫の存在。体は不自由だけど魂は聖人のように清らか。著者はクリスチャンらしいので、意図的にそういう人物として描いているのでしょう。この夫のおかげでヒロインは不幸の沼から抜け出す希望を得るのですが、ここまで天然にイイ人の存在がなければ人生をやり直すことができないのかって思うと、逆に希望が感じられないなあ。
平成版「斜陽」って説明を読んだことがありましたが、全然違いました。没落した金持ちってところは同じでも、「斜陽」のお母様と比べて、あまりに精神が貧しいです。
お金の有る無しが、人間のすべて。
あまりに古い価値観なのに、未だにそこか離れられず、現実を見ない母と弟。
これを現代日本の縮図であるかのように見るのは、やっぱり、無理があるよなあ。

「ナイチンゲールの沈黙」2012/04/08 16:34

 今日の「題名のない音楽会」は、録画しておけば良かった。平原綾香のボイスパフォーマンスが、格好いい。ベーシストさんとのデュオ。もともとジャズの勉強していた人なんやなあ。
 人の声は、美しい楽器である。

 医療ミステリーのふりしたキャラクター小説、「チーム・バチスタ」シリーズの第二弾。大げさなあだ名をつけて気取った修辞で綴られるのは、この作者の特徴のようで、前回は一人称だったから「語り手がそういうキャラクターだから」と思えたわけですが、三人称でもこういう文章で突き進むようです。
 それだけならまだしも。
 歌によって、聞く人に鮮明なイメージ映像を見せることができるってのは、やりすぎなんじゃないでしょうか……
 医療ものであり、ミステリであり、キャラ小説であり、ファンタジーであり、さらにショタ(年の差……アカンやろ、小児科ナース)にまで領分を広げるとは。
 重い運命を背負った小児科病棟の子供たちと、ネグレクトな父親が殺害された事件ってのが本筋なので、そこに絞ればよいものを。いろんな要素が含まれる小説は嫌いじゃありませんが、この作者にはそれらをバランスよく配置しきれないんじゃないでしょうか。
 だから、前半はかなりタルいペースで、それを突き破るキャラクターが登場してくる後半から、ようやく話に引き込まれてきます。
 子供相手に大人げない白鳥捜査官に加え、型破りエリート警察官僚も登場。もちろん愚痴外来のグッチーも前作と変わらずイイ人です。
 そして、ほんのチョイ役でしか出てきてない「ジェネラル」速水医師が、ホントにほとんど出番がないにも関わらず、格好良い……
 このシリーズ、第三弾もそのうち手を出すことになりそうです。

「螺鈿迷宮」2012/01/21 22:13

 バチスタ・シリーズのグッチーも、いわゆる総モテなキャラでしたが、同じ作者による医療ミステリなのに、この落ちこぼれ医学生がどうしてこんなにも周りからチヤホヤされるんだか、さっぱりわからない!
 病院が舞台で、最初から事件も提示されているのですが、どうも、医療ものとしても、ミステリとしても、しっくりこない。
 古い病院にまつわる伝説とか、桜宮一族の血脈とか、過去の因縁とか、設定は金田一ちっくかもしれない。
 主人公である医学生・天馬君による一人称が、どうにも中途半端で覇気がなくて。モラトリアムってやつなんでしょうが、妙に甘ったるい言い回しで、ユーモア小説としても、微妙。
 他の登場人物たちも、なんだか芝居がかった喋り方でウサン臭くって。
 慢性期、終末医療の在り方とか、真面目な問題提示もあるっていうのに、非現実感が強くって。
 ターミネーター・ナースの姫宮も、痛々しかった。ありえないレベルのドジッ娘ですが、動作のトロイ点で、私自身に身につまされる感じがして、笑えない……
 同じありえない系でも、バチスタ・シリーズの白鳥なんかは、面白いのになあ。
 続編がありそうなラストでしたが、続きを読むかどうか、未定。

「チーム・バチスタの栄光」2012/01/01 00:30

 前の職場がアレだったもんで、評判が良くてもなんとなく、医療ものを避けていたのですが、たまには、もうそろそろ。

 キャラクターがとても良い小説でした。ポジとネガって何のことかと思ったら、ポジティブとネガティブやったんですね。
 実は、最初は、ちょっと読みにくかったんですよね。グッチーの一人称は、出世コースから外れていることに開き直っているようで、でもトコロドコロ拗ねている、皮肉と卑屈の混じった視点。そんなグッチー、キライではないし彼の考えに共感できる所も多々あるのですが、なんか、ハツラツとしない。状況説明のための細切れのエピソードで話の流れが悪く感じたり、事件解決の道がさっぱり見えなくて、手詰まり感があって。
 それが後半、白鳥の登場によって、物語は一気にスピード感を増します。グッチーが、手足を縮めた亀のようであれば、白鳥は正に、翅を広げどこへでも無遠慮に這いずり回るゴキブリの如き傍若無人っぷりです。
 この二人のほかにも、ひょうひょうとした病院長とか、高潔な志を持つ桐生医師とか、みんないい味だしているんですよね。
 ただ、ミステリーとしては、少し残念でした。容疑者たちの人物像を炙り出していくのが捜査の中心であり本書の面白味なのですが、肝心の犯人特定にはあんまり関係ないんですよね。手術中の殺人トリックも、「それって医学の知識がないとわかるわけないやん」て思ったし。
 病院ものとしては、大学病院独特のシステムが、私立病院と違ってて、面白かったですね
 私立病院では医師の論文の数なんてコレッポッチも意味ないですし、救急病院としては嫌がらずに救急患者受け入れて夜勤にも入ってって医師が尊敬されますし、事務職員としては救急受け入れと並んで書類を溜めずに書いてくれる医師が有難がられます。
 でも、電子カルテの導入を進めにくいのは、どこもオンナジですね。