「魔女の宅急便」2019/05/06 22:55

子供のころ、第1巻だけ読んだことがある。今回は全6巻角川の文庫シリーズで読んだけど、前の黄色い表紙の方が好き。
有名アニメ映画の、落ち込むこともあるけれど私は元気ですってフレーズが、本当にピッタリくる。基本的には、魔女っ娘キキちゃんの活躍を描くのだけど、実は、主題は、もっと広くて深い。
空を飛べて親元を離れて学校にも行かず、という特殊条件でありながら、思春期の女の子の、ウキウキやモヤモヤがあるのです。しばしば、自分の立ち位置を見失って不安になって己自身に振り回されている。では、そこからどうやって、立て直すか。
最終巻では、キキの二人の子供たちが主役になって、それぞれの向かう道を見つけていく。世界の何かに導かれていく、不思議。
角野栄子が描く魔法って、そういうものなんだろうな。

「魍魎の匣」2019/04/30 22:53

初版は、震災やらテロやらで激動の1995年。自分が読んだのは大学に入ってからだったか……。当時は個性的なキャラクターそれぞれに固定のファンがついたりして、異様に目立つ「レンガ本」に大いに人気が出たのだった。
TVでも新聞でも平成振り返り企画満載。自分的にそれやろうとなったら、こんな感じかな。

なーんていうのは後付けで、今年の建国記念日に読んだ乱歩作品から、この作品を連想したから。連休中に夜更かしして読み返すのにもうってつけ。
電車で乗り合わせた男が抱える、異様な美少女との邂逅。やはりこのイメージはインパクトが大きい。京極流に言うならば、「あちら側」の人びとを描いている。
愛情故に「あちら側」に行っちゃうっていうのも共通点。狂おしいまでの、執着。
しかし結末は、乱歩は薄気味悪く、京極夏彦は後味悪く。
こんな、いっぱい人が死んでみんなが不幸で得るものほとんどないダラダラ長いお話をみんな嬉々として読んでいたのだなあ。
京極堂博識で理路整然として押しも強くて格好良いなあって思った昔の自分。改めて読むと、ひどく理屈っぽくて長話で人をケムに巻く印象。
物事の複雑さを、複雑なままに(単純化せずに)理解しようとする理性と根気が失われつつあるあるのかと思うと、ちょっと己を省みる。

「日本沈没 第二部」2018/05/06 00:27

小松左京。と、谷甲州の合作だそうで。
第一部が大変面白かったけど、第二部の方はイマイチ思っていたのと違ってなかなか読み進めず、まとめて時間取ってやっつけるつもりでした。
できれば、沈没してから二、三年後ぐらいの生き残った彼らの姿(移住編!)を読んでみたかったんですが、これはもっと飛んで25年後の世界。
一部に比べて格段に評価が下がってしまう本書でありますが。
まず、登場人物にあんまり感情移入できない。人物描写が下手っていうかおざなり。
そして、全体的に殺伐としています。
一部は、地球規模の自然現象に対する畏敬の念と、それに翻弄されながらも懸命に抗おうとする小さな日本人たちの姿が感動だったのです。もちろんキレイごとばかりではないのですが、基本はヒューマニズム。自衛隊は命がけで救助活動をする存在だったのに、銃撃戦するようになってしまうなんて・・・・
中国と米国の印象がとってもダーティ。2006年刊行だけど、「米国ファースト」公言されるこんにちにおいて、ナショナリズムによるエゴイズムに、説得力があります。
殺伐した世界で、国土を失った日本に残された武器は、人材と、それが生み出す技術。
そして、己の利益に固執して姑息に立ち回るより、公明正大情報公開して辛抱強く他と協調する道こそが、その武器を最大限に生かせるのでした。
でも、最後にみんなで歌ってるのが「君が代」ってのが違和感ありすぎ。日本のカルチャーとして未来に残されたのそれですかっ!!

「日本沈没」2018/02/12 00:15

73年、まだ冷戦やっていて日本が高度経済成長やっていた時代に発表された作品を、95年、あの震災後に刊行した光文社文庫版。
こういうのは一月から三月にかけて地震津波報道が盛んになる時期に読むのが最適、と思ったけど、読んでいる間の、草津の噴火ニュースがすっごい怖くて。
大阪が津波に洗われ文字通りの「水の都」に戻ってしまった場面では、3.11の映像をイメージして読む。イメージなのに、悲しくてちょっと泣けてくる。でも「あそこの島はなんだ」「ばかやろう!仁徳天皇陵じゃないか」のやりとりにはちょっと笑う。
第二次関東大震災の描写も圧倒される。東京一極集中人口過密は、やばい。
映画とか漫画とかにも接することなく前情報無しだったので、沈みゆく島から脱出するサバイバルもの、「ポセイドン・アドベンチャー」のようなものを想像していたのだけれど。
もっと、大きかった。沈み始める前から、沈んだ後まで見据えての「日本人総避難・総移民プロジェクト」。
あらゆるものが詰まっている。一昨年の「シン・ゴジラ」を連想しました。国家滅亡の危機、と言う意味では「進撃の巨人」にも通じるけれど、しかしその二つを合わせたよりもまだ、大きい作品でした。

「遠い声、遠い部屋」2017/08/06 23:42

確かに昔読んだはずなのに内容が一個も頭に残っていない。
T・カポーティの処女作、1948年刊行。
空想壁のあるジョエル君13才は、母親の死をきっかけに父親と暮らすためにニューオーリンズからスカリイズへやってきたのですが、「病気」だという父親にはサッパリ会わせてもらえないばかりか、屋敷の人たちは父親の話題を避ける。郷里への手紙は握りつぶされるし謎の女(幽霊?)を目撃したり。
えらく辺鄙な地にあるらしいそこでは、大人たちは皆、過去の中に生きています。空想ではない、リアル「遠い部屋」であり、閉ざされた世界。
もちろん、未来ある若者たちが、そんな環境に留まってなどいられない。
出ていく機会を掴んだのは、ジョエル君を含めて三人。しかし、いずれも散々な目に合って戻ってきてしまう。
なんて閉塞感だらけで救いのない話なんだろう。
少年は、あの環境で、本当に少年時代から脱することができたのだろうか?

「伊豆の踊子」2017/03/07 23:45

新潮文庫、表題作の他に「温泉宿」「抒情歌」「禽獣」と計4編。
昔読んで、どこが面白いのかさっぱりわからなかった小説を、大人になって再読して。
やっぱり、読むのしんどかった、川端康成。
ストーリーを読もうとしてはダメなのでした。わずかな状況説明と、登場人物たちの哀歓を表わす抒情的な小説なのです。
筆者が描こうとしたのは、人の清らかなで純粋素朴なこころ。それだけなら単なるロマンチストさんなのですが、清純が白く煌めくその舞台は、人の非情さ世知辛さ寂しさだったりします。
掃き溜めの中の鶴。
作品によって、鶴の方に焦点があったり(「伊豆の踊子」「抒情歌」)、掃き溜めの方の描写に言葉を費やしたり(「温泉宿」「禽獣」)するので、だいぶ印象が違ってきます。

「果断 隠蔽捜査2」2015/11/28 15:06

本格的な警察小説は「新宿鮫」以来かもしれません。
「隠蔽捜査」で吉川英次文学新人賞(ベテラン作家なのに新人賞!)、続編である本書「果断」によって山本周五郎賞と日本推理作家協会賞。著者・今野敏の出世作。
二年くらい前にTVドラマ化されて、わたくし大ハマりしていました。「相棒」と「半沢直樹」を足して2で割った感じ。キャストも「相棒」と色々かぶっていましたし。
杉本哲太と古田新太の掛け合いが面白く、二人そろって、上司になってもらいたい権力者です。
ドラマの方はかなり展開が早くて、端折られた部分を楽しむつもりで原作第一巻を手に取り、数ページで、全巻読むの決定です。対PTAとか、対アイドル一日署長とか、端折られエピソードも面白かった。
頭カチカチ、友達おらんっぽい「変人」キャリア警察官僚が、がんがん正論を吐いて世の矛盾をついていくのが小気味よい。
小学生時代のいじめ経験をいつまでも苦々しく思い返したり、奥さんが入院してお風呂をわかせなかったり、息子に勧められた「風の谷のナウシカ」を観て素直に感動して勇気づけられる46歳東大法学部卒警察官僚……なんか、とっても。
カワイイのですよ。
そう、まぎれもなくこれは、中年のオッサンの成長物語に萌える小説なのです。
シリーズ二作目の本書からは、ドラマでお気に入りだった戸高刑事(態度はワルイがやることはやる。署長に競艇の面白さを熱弁)も本格的に活躍してきます。それから、SITとSATの違いもこの小説で初めて理解できました。
残りのシリーズも、ドラマになっていなかった分もまだまだありますし、楽しみ。

「ジェネラル・ルージュの凱旋」2015/10/01 01:18

表紙にデカデカとヘリの絵がありますが、作中災害報道ヘリは飛んでも医療ヘリは、とびません。
理由:お金が無くて。

チームバチスタ・シリーズとか田口・白鳥シリーズとか言われる、海堂尊著の医療コメディ。映画で堺雅人が主演やっていたヤツです。
シリーズとしては三作目、なのですが、二作目の「ナイチンゲールの沈黙」と時間軸が同じ。この病院、同時進行で二つの事件抱えてるよ……という構成で、だいぶ前に読んでうろ覚えな二作目のおかげで変なデジャヴが!
事件としては別モノなのでかえって、これ単体で読んだら何の意味があるのか分からんシーンたっぷりです。
ストーリーは、「事件は会議室で起こっている」って感じのダラダラ感。
救急医療のシーンとか、現代医療の問題点を真面目に突いている作品でもあるのですが。
基本的には、キャラクター小説っていうか、こういうのを「チューニ」っていうのだろうか。ほとんどの登場人物に大仰な二つ名がついていて、なんだか芝居がかった喋り方する。普通医療小説に「将軍の近衛兵団」なんて言い回しが出てくるだろうか。医療業界このノリが通常運転だと誤解する人が出てきやしないだろうか。
前半は、変なコッテリ文章に食傷気味みなのですが。
後半になると、一気に読めます。
それまでウダウダ会議やってきたのをグッと盛り上げる仕掛けが上手い。
そして何よりも、厚労省官僚・白鳥のみんなからウザがられる言動によって何か、風穴がブチ開けられる感じ。医療コメディが普通のコメディになる!?面白さが別次元にシフトします。不思議というか、便利なキャラクターです、白鳥。
他のキャラクターは個性的だけどなんか胡散臭くって作り物っぽくて、白鳥はそもそも胡散臭さが個性だから「そういうもんだ」とすんなりと受け入れられるのかなあ。

「妖怪アパートの幽雅な日常」2015/07/19 00:13

ラノベだと思ったら、児童書だった!
妖怪とそれ関係の人たちが集まる愉快なアパートに暮らすことになった夕士くんが、一年かけて成長する物語。
若いうちから苦労してきた割に、主人公の語りが幼い感じで高校一年生っていうより小学生みたいなんですよね。高校生ってこんなものかな?「裏番」などという単語は今時ギャグ漫画でしか使われていないと思ってました。
本作は10巻完結で、2巻以降は普通の子だった主人公がラノベっぽく能力持ちになっていくそうですが、続きを読むかどうかは未定。

「回帰祭」2014/12/14 15:33

 汚染された地球から逃れた避難船。三百年に渡って避難民たちはその閉鎖空間で暮らしてきた。物資も情報も乏しくストレスにさらされる環境。そこで出会った三人の少年少女たち、そして謎の「喋るウナギ」が、避難船の秘密に迫っていく。
 早川文庫のSF。小林めぐみを読むのは初めてでしたが、本格的なSF設定を盛り込みつつもライトノベルのノリで読みやすい。
 ウナギさんのユーモラスな感じも良いですし。
 そして、少年少女たちが、なんていうかカワイイ。もう、お前ら甘酸っぱいよ、青春だよ、何その爽やかな三角関係。
 良いラノベでした。