「猫道楽」2023/07/30 01:17

時代は昭和の半ばぐらいのイメージ、和風建築に洋風の豪華内装の〈猫飼邸〉には、姿の良い兄弟たちが猫と遊ぶ。リアル猫も登場するけど、猫とは、男色のお相手を指す隠語だった。
お久しぶりの長野まゆみワールド。五話構成の、最初と最後だけ同じ男の子が主人公で、この梓一朗くんが一番男らしくて可愛い。彼ら四人のゲストたちは、〈猫飼邸〉の駒形兄弟たちの道楽相手というだけではない。それぞれの今は亡き身内がこの屋敷や兄弟の父親と縁があって、ちょっと運命的雰囲気があります。
咲きこぼれる桜、雨の日の鈴蘭、盆の提灯、紅瑪瑙のカメオに菊の綿、高速豆電球。
雰囲気を味わってナンボの作品。華美で、哀愁とエロチックが漂う。

「コドモノクニ」2010/10/06 11:22

 長野まゆみ、珍しく少女が主人公で、全部で三篇。大阪万博に行く、という話が出たので、その頃の時代設定なんでしょう。新幹線を珍しがり、ケータイとゲームが無い昭和の子供たち。でもノスタルジーって感じはあんまりしません。コドモ目線なので情緒的に書いてるわけじゃないんですね。
 作者の子供の頃考えていたことかエピソードとか、そのまんま書いてるんじゃないかと思わせる、具体性バリバリな世界。

「小鳥の時間」は、マボちゃんは中学生。オンナノコのしゃべりの取り留めのなさ、話の飛んで行き具合に付いて行くのが大変。表題どおり、愛らしく元気な小鳥の成長を見守るところもあるのですが、ピーチクパーチク、少女たちのお喋りのイメージが強いです。
 可愛いものを収集して、男の子の噂して、ちょっとでもオシャレしようとして鈴やら刺繍やらが流行り、それを先生が禁止して。
 中学時代、周りの子はそんな感じだったけど私自身はそういうのに疎くって、横目で眺めていた。
 
「子どもだっていろいろある」ではマボちゃんは小学校四年生。これもまた小学生女子の書いた日記のような、でもこちらの方がまだ出来事単位でまとまっているので読みやすいです。
 香りつきの鉛筆とか、あったなあ。クラスの男の子は確かにアホやったしスカートめくりとかしてた。
 でも、黒板に男子の名前を並べて相合傘を書くことはなかったよなあ。

「子どもは急に止まれない」マボちゃん五年生のお話ですが、どちらかというと、悪ガキのバンと転校生のセイちゃんのお話。セイちゃんは町から町へ旅を続ける見世物小屋の子で、この子の存在が特殊で、先の二編に比べてフィクションっぽい。

「箪笥の中」2010/09/23 16:11

 古い家具って、人を招ぶんだよな。
 長野まゆみの短編連作、再読です。一遍がごく短いのですが、その中に夢と現、子供時代の回想や大家さんの昔話まで物語り世界が飛んで行き、長野まゆみワールドでおなじみの宮沢賢治モチーフや小鳥とか貝とか蝙蝠とか猫とか卵とか原爆とかがギュギュっと入っています。
 ちょっと詰め込まれすぎてどのキーワードがどこからどこへ繋がっているのか読み飛ばしそうになるのですが。
 映像向けなお話です。他は蝶の形なのに一つだけ蝙蝠の金具が付いた抽斗や、瓢箪の中の阿弥陀仏や、海でコハクを取るアメフラシや、降り注ぐ桜の花びらが砕けた窓ガラスの破片に変わるような、印象的な造形や情景。

 主人公は私と同年代の女性で、絵描きを生業としています。五つ年下の弟に手伝ってもらって親戚の家から古い箪笥を譲り受けたのですが、それを運ぶ途中で、彼は言います。箪笥が重くなった、四、五人は乗り込んでいる。
 この弟というのが霊感の強い体質で、死んだ祖父と交流したり、この界ならざるものを招いたり、姉ともども異界(それは道路の迂回路から入ってしまったり、名前の思い出せないバスの停留所だったり)へ踏み込んでしまう。
 登場人物は主人公の五人家族と、弟の嫁さんと生まれたばかりの息子、古家の大家さんと、この世ならざる者たち。子供の頃の海水浴、お彼岸には墓参り、正月飾りを神社で焚きあげ、春に雛人形を飾り、お花見。季節ごとの普通の日常の中で、みんな仲良く交流しています。

「あめふらし」2010/09/14 11:46

 長野まゆみの物の怪モノ、再読です。
 コウモリの装丁からして私好みなんですが、なんか、雰囲気がいいんですよ、長野まゆみは。
 何でも屋のウヅマキ商會でバイトを始めた市村。しかし社長の橘河は、魂が見えて、それを捕らえることのできる「あめふらし」だった。常識人のようでけっこう天然な市村は、橘河の下で呪術がらみの仕事に就く事になり、海蛇と結婚したり、死んだ子供を拾ってきたり……アヤカシにやたらとモテる体質なんですが……
 やがて、ウヅマキ商會の橘河たちも気付いてくる。爽やかな一般人のように見える市村とその兄に、ある秘密があることを。
 夢幻と現世が交叉して。
 登場人物たちがみんないい味しているので(特に橘河が格好良い)、続編も書いて欲しいのですが。まあ、この話自体、別に発表された短編小説の続編なのですが。