「クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い」2014/01/09 15:08

「たいへん有名な作家さんでありながら一作もまともに読んだことないのに挑戦してみよう」シリーズ、今度は西尾維新。2002年メフィスト賞受賞の、デビュー作です。
 漫画とコラボしたり作品がアニメなったりと精力的なお仕事をされている方でありますが、随分昔に、最初の2ページ程を読んで書棚に戻してしまった本書を、再チャレンジしてみました。
 漫画やなあ。
 最近のラノベって、みんなこんな感じなんでしょうか。世界観がSFとかオカルトとかいうのは昔からありましたが、本書の場合世界観は普通で、登場人物の設定と人間性がいちいち飛びぬけて極端。「人間」ではなく「キャラ」を描いているなあ、と思いました。
 殺人事件が発生してからは、普通にミステリとしてすいすい読んでいきました。
 肝心の謎解きが「キャラ設定の特異性」が肝になっていて要するに「そんなん普通の人間ではありえないですね」っていうのは反則な気もするんですが、もう、そういう作品なのだと納得するしかないのでしょう。

「李陵・山月記 弟子・名人伝」2011/01/23 19:34

 李徴はどうして虎になってしまったのでしょうね。彼の中の「尊大な羞恥心」が虎だったのだ、ということですが、でも虎って、そんなこと考えながら生きてるんでしょうか。羞恥心だの自尊心だのいうのは大脳の膨らんだ猿の一族に特有のものだと思うのですよ。ある意味、李徴は完全に虎になってしまって初めて、それらの性情から脱することができるのではないでしょうか。それと同時に、夢や家族や友人も失ってしまうわけですが。

 学生の頃古本屋で購入した角川文庫は、作者年譜や解説が豊富で、参考文として中国古典も書き下し文で掲載していてお得感があります。ちなみに「人虎伝」によれば、李徴は人だった頃放火殺人をやったと告白しています。こちらの方が虎っぽい。

 「山月記」以外では、
「李陵」
 ご存知、李陵が可哀想すぎるお話。どんな苦難の中でも匈奴に屈せず武帝の死に涙する蘇武は、儒教的君臣論では申し分ない立派な人なのかもしれません。しかし親近感が持てるというか、共感できるのは李陵のほうですよ。
 ただし、もう一人の主人公・司馬遷が「身を全うし妻子を保んずること」をのみ考える者を批判していることからも、己の都合ばかりで大儀のない行いは人としてダメだってことなんでしょうね。理屈は分かるのですが。人間らしくって、如何に?
「弟子」
 まっすぐすぎる<大きな子供>な子路。なんだかんだ言って現実主義な孔子との対比が面白い。というかこの話では、己の保身より正道を行くことを選ぶ子路のほうが好感もてるんですよねえ。
「名人伝」
 ありえない系の落語のような。弓の道を極めようとした男が、極端な修行の果てにありえない境地に行き着くこと。この話にしろ、蘇武や司馬遷にしろ、立派な人ほどドコか変な感じ。
「悟浄出世」
 かの「西遊記」主要メンバーの中で最も影の薄い彼は、三蔵の弟子になる前はかなりウツ気味な妖怪。<自己および世界の究極の意味>などというたいそうなモノを知るために妖怪世界の哲学者たちを何人も何人も訪ねてゆき、それぞれのテンでバラバラな思想を聞いて返ってわけ分からなくなり・・・・・最終的には「考えるより、動け!」ってことで。
「悟浄驚異-沙門悟浄の手記-」
 思索家・悟浄による西遊記メンバーのキャラクター紹介。それぞれの良いも悪いもよくよく考察した上でいずれもただならぬ人物であると評価するのですが、そういう悟浄自身もなかなかステキな人だと思う。

「箪笥の中」2010/09/23 16:11

 古い家具って、人を招ぶんだよな。
 長野まゆみの短編連作、再読です。一遍がごく短いのですが、その中に夢と現、子供時代の回想や大家さんの昔話まで物語り世界が飛んで行き、長野まゆみワールドでおなじみの宮沢賢治モチーフや小鳥とか貝とか蝙蝠とか猫とか卵とか原爆とかがギュギュっと入っています。
 ちょっと詰め込まれすぎてどのキーワードがどこからどこへ繋がっているのか読み飛ばしそうになるのですが。
 映像向けなお話です。他は蝶の形なのに一つだけ蝙蝠の金具が付いた抽斗や、瓢箪の中の阿弥陀仏や、海でコハクを取るアメフラシや、降り注ぐ桜の花びらが砕けた窓ガラスの破片に変わるような、印象的な造形や情景。

 主人公は私と同年代の女性で、絵描きを生業としています。五つ年下の弟に手伝ってもらって親戚の家から古い箪笥を譲り受けたのですが、それを運ぶ途中で、彼は言います。箪笥が重くなった、四、五人は乗り込んでいる。
 この弟というのが霊感の強い体質で、死んだ祖父と交流したり、この界ならざるものを招いたり、姉ともども異界(それは道路の迂回路から入ってしまったり、名前の思い出せないバスの停留所だったり)へ踏み込んでしまう。
 登場人物は主人公の五人家族と、弟の嫁さんと生まれたばかりの息子、古家の大家さんと、この世ならざる者たち。子供の頃の海水浴、お彼岸には墓参り、正月飾りを神社で焚きあげ、春に雛人形を飾り、お花見。季節ごとの普通の日常の中で、みんな仲良く交流しています。

「あめふらし」2010/09/14 11:46

 長野まゆみの物の怪モノ、再読です。
 コウモリの装丁からして私好みなんですが、なんか、雰囲気がいいんですよ、長野まゆみは。
 何でも屋のウヅマキ商會でバイトを始めた市村。しかし社長の橘河は、魂が見えて、それを捕らえることのできる「あめふらし」だった。常識人のようでけっこう天然な市村は、橘河の下で呪術がらみの仕事に就く事になり、海蛇と結婚したり、死んだ子供を拾ってきたり……アヤカシにやたらとモテる体質なんですが……
 やがて、ウヅマキ商會の橘河たちも気付いてくる。爽やかな一般人のように見える市村とその兄に、ある秘密があることを。
 夢幻と現世が交叉して。
 登場人物たちがみんないい味しているので(特に橘河が格好良い)、続編も書いて欲しいのですが。まあ、この話自体、別に発表された短編小説の続編なのですが。