「劇場版 響け、ユーフォニアム」2024/01/28 12:20

宇治市在住者にとって、見知った景色が多数。川沿いの虫まで描かれていた。
民放局で放送されていたアニメ作品の、劇場版。最近そういう流れが多いですが、新作はNHKで作成されるそうで、それに先立ち、正月に連続四作品を放送してくれました。
京都の吹奏楽部の部員たちが、全国大会を目指す部活モノ。吹奏楽って打楽器と管楽器だけかと思っていたら、ハープもあるのですね。
高校生たちの繊細な心情、人間関係がストーリーの軸ですが、真の見所はクライマックスの演奏シーンでした。
言葉は、要らない。
モノローグもイメージ映像も無い。
奏でられる音楽と、登場人物たちの姿、表情。
それだけで十分感動的に盛り上げられる。京都アニメーションのクオリティが素晴らしい。
一つだけ残念だったのは、原作と違って、台詞が京都弁じゃないところかなあ。

PERFECT DAYS2024/01/02 15:33

役所広司がカンヌで男優賞を取った、トイレ企画ムービー。
気になったのが、自転車の描き方。あそこに駐輪して大丈夫なのか、行きつけの店で晩酌後に乗るのは今時ポリコレの意味で問題ないか。細かいかもしれませんが。
一人暮らしの初老の男、平山の、シンプルで端正な日々の営みを描く。早起きして丁寧にトイレ掃除業務をこなし、銭湯の一番風呂、晩酌、就寝前の読書。彼はしばしば空を見上げ、フィルムカメラで木漏れ日を撮影し、若木の鉢植えを育て、カセットテープで音楽を聴く。
アナログで質素で穏やかで、文化的に豊かな生き方。
SF的なスカイツリーに、公衆トイレの最新機能とデザイン。
両者が対立することなく共存する東京が描かれる。非常に地味で淡々としていますが、飽きません。石川さゆりが歌い、田中泯が踊る(似合っているけど、あんな身体表現格好良いホームレスがいるのだろうか、いるのか?)。繰り返しの日々の中に挟まれる断片が豪華というか、ほんの少しの登場でも印象的な人々。
ただし、あくまでも断片で、主人公を含めた人間たちを深掘りはしません。
役者たちの表面的な姿からほのかににじみ出る内面。そういう表現ならば、平山の就寝後の夢らしき、心象風景映像は余計だったかと思います。
ヴィム・ヴェンダース監督(ドイツの巨匠ということですが、観るのはこれが初めて)は淡々と、主人公の日々をドキュメンタリー風に描きましたが、しかし、どこかファンタジーめいている。
実際にトイレ清掃業務をなさっている方のご感想を聞きたいです。映画には、決定的に汚れた光景は映されませんでしたから。見るに堪えない光景は、掘り下げずほのめかすのみ。自転車の件といい、浮世離れした美しいイメージ映像、夢の理想像なのでしょう。
ユニクロや電通関係者や渋谷区などが絡んでいますし、「さあどうです、イイでしょう」と力説しているところはあるかもしれません。
そんな世界像が浮き上がらないようにしているのが、主演男優の地に足着けた佇まい。最後、目を赤くした彼の表情の意味は、観る者に委ねられます。美しくイノセントで充実した平山は、淡々としているようでその目に様々な感情が宿る。
彼の完璧な日々は、生きる悲しみと孤独な世界を知るが故に生まれてきたのだ。そんな風に、私は感じました。

「PLAN 75」2023/01/04 00:02

京都みなみ会館は数年前にリニューアルオープンし、おしゃれな外観に上映作品も企画も結構魅力的。ただし、封切りからちょっと遅れて上映。
「PLAN 75」は2022年カンヌで評価され、ざっとした設定は知られていました。早川知恵監督のオリジナル脚本は、近未来型「姥捨て」物語。若者が老人を虐殺する冒頭が、リアルにあり得そうで怖い。繰り返される惨劇に、老人施設では来訪者に対しボディチェック、政府は老人に積極的な死を選んでもらうための手厚い制度を定めた。
しかし、姥捨てっていうのは、年寄りを送り出す側の哀切の物語でもあります。制度に関わる若者たちの、割り切れない、暗い目。最終的な仕事に関わるのはお金に困っている外国人っていう、そういう細かいところが、リアル。
主演の倍賞千恵子は、さすがの貫禄、存在感。か弱い老人のリアル、芯の強さと親しみやすさを兼ね備える。
慎ましくも整頓され清潔感のある生活を送るミチ、78歳。仕事も住む家も見つからず、生活保護に頼ることも考えたけど、いずれ一人でひっそり死んでいくことを思うと。
ミチの選ぶ、未知の道。

「ブレット・トレイン」2022/11/06 01:37

原作は日本の小説で、でも舞台はナンチャッテ日本で、主な出演者もほとんど外国人なアクションコメディ。
ブラッド・ピッドがツキのないエージェントを演じ、次々とお話が展開していく。
でも、なぜか、あんまり面白くない。ドタバタコメディ感が強くて、登場人物たちみんなその道のプロなはずなのに、間抜けすぎる。場面が細切れにされるのは小説的には問題ないのでしょうが、映画ではしんどい、いくらスピード感が出るよう演出されても。
真田広之はイイ役で出演していて、でもやっぱり、物足りない。るろ剣の佐藤健剣劇の方が断然格好良かった。
見所は、レモンとオレンジの凸凹コンビでした。喧嘩しながらも仲良し。

「箱入り息子の恋」2022/05/15 17:03

もう十年前くらい前、劇場でこの映画のポスターを見た時には「ずいぶん地味な男が銀幕デビューしたもんだ」なんて思ったもんですが、それがどんどん出世して日本のポップス界でも役者業でも大活躍。
何年か前に大ヒットしたTVドラマの制作陣は、絶対この映画観て主演に選んだよね。って思わせる、「ムズキュン」でニヤニヤしちゃうラブコメ映画。
真面目で几帳面で上がり症で友達いない35才が恋した相手は、彼以上に箱入りなお嬢様。彼女のために、箱入り息子は一生懸命で、不器用で、優しくて、微笑ましい。
演技力的には、ヒロイン役の夏帆が素直で可愛くて、守ってあげたい感じで、ホント上手い役者さんだ。

「xxxHOLiC」2022/05/06 17:37

原作未読、しかしTVアニメ版は観たし、有名な作品なのでなんとなく筋は知っている。役者さんの年齢的にもう五年早く撮ってもらいたかったものの、登場人物4ショットの強いオーラに「これはこれでアリか」とも思わされる。
漫画っぽいコミカルな感じはほとんどない。前髪うっとうしい感じのワタヌキ君は卑屈で自己肯定感の低さが際立ち、そこから「自分の大切なモノ」「代償を負ってでもかなえたい願い」を知っていく。原作のようにエピソードを積み重ねきれないのは致し方ないのでしょう。
ストーリーよりも、装飾と色彩が妖しげな世界観を楽しむ映画かな。異世界感たっぷりのセット、キャラクター、化け物、衣装などに、原作の持つ雰囲気と蜷川実花監督の美意識が注ぎ込まれる。「xxxHOLiC展」とかで展示されたりしていないかしら。
映像よりも舞台作品向きかもしれない、極彩色。

「ひらいて」2021/12/26 23:03

わたしのモノになってよ。
先週は、夢に向かって苦しみながらもがんばる高校生たちの物語に感動して。
今週は、がんじがらめになって迷走暴走三角関係な高校生たち。
綿矢りさの小説はたびたび映画化されていて、テーマ的には興味深く感じるのだけど、タイミングが合わないのと視覚的には地味なイメージで、これまで観に行くことはありませんでした。
今回の作品は、ハイスペック美少女の分かり易い闇落ちビジュアル変化とか、夜の校舎の高さとか、華やかで軽い折り紙展示とか、女子高生同士のベッドシーンとか、映像的な気合の入れドコロあり。首藤凛監督は、まさに高校生の頃、原作に出会って感銘を受けたという。
ヒロインの愛ちゃんは、優等生で可愛くてコミュニケーション能力も高くて、しかしその感じの良さは、打算的な仮面。遠方に住む父親相手には、お義理でも気の利いた言葉なんて出てこない。彼女の行動を一つずつ具体的に並べていくと、かなり痛々しい。それでも完全に突き放して見られないのは、彼女が美少女だからというだけではないでしょう。
三角関係の残りの二辺は、愛ちゃんとは別の意味で、一歩引いた、閉じた立ち位置で世界と対峙する。持病やモラハラ親に縛られる二人と、おのれの渇望に突き動かされるままなりふり構わぬ愛ちゃん。ピュアと、エゴ。静と動。どこまでも相容れない、踏み込めない。しかし、それらがぶつかり合うことで、化学反応が起こります。
そうして、閉じていた何かが、ひらかれるのです。

「ハドソン川の奇跡」2021/08/08 17:07

イーストウッド監督映画は、着眼点は興味深いし映画的盛り上げドコロも心得ていて、まず、ハズレない。でも深々と突き刺さるほどのインパクトも無い(実話を基にし、ストーリーのネタバレ多め、安心感重視なのだ)ので、劇場に観に行くよりは、専ら、土曜プレミアムとかで視聴。
これだけ科学技術が発達していても、飛行機は鳥を避けられず、エンジンを止められてしまう。そんなトラブルが起こった時、どうするか。トム・ハンクス演じる機長は、空港に戻るのは無理だと判断し、ハドソン川に不時着水、危機を乗り切り、死者0名。
一躍ヒーローとして扱われることにも違和感を覚える彼の身に、一つの疑惑がもちあがる。危険を冒して川に着水せずとも、空港まで戻れたんじゃないか。
人為的ミスを調査するなら、人間的に。
問題点を合理的に徹底的に洗い上げるスタイルは、物事をあいまいにしがちな日本と違って、アメリカの美徳だと思う。
しかし、実際の事故と、シミュレーションとを比較するときには、条件設定をきめ細やかに配慮する必要があるのでしょう。
いろんな要素が絡んでくるのだ。

「花束みたいな恋をした」2021/03/22 10:45

映画の後、飲みに行くでもお茶をするでもなく珍しくラーメン屋へ行ったのは、ヒロイン(有村架純、カワイイ)がラーメンブログをしているのがひっかかったからでしょうか。
引っかかったっていうのは、始めの人物紹介モノローグ以降、影も形も無くなってしまった設定だったから。
恋愛映画を観に行くことはあんまりないのですが、これはネームバリュー(監督、脚本家、主演俳優)と話題性に釣られた感じで。土井裕泰監督は昨年も「罪の声」で人気脚本家と組んでいた。
映画の序盤は微妙な違和感があって、自分も二十世紀の終わりごろに大学生をしていたはずなのに、十数年後の大学生たちの様子にあまり共感が持てない。個人の差なのか、時代の違いなのか、東京と地方の違いなのか。
リアリズムを追求した映画ではないのは間違いないでしょう。実在する固有名詞もたくさん出てくるのですが、時代性を含めた若者たちの状況を、象徴的パーツを積み重ねて作り上げる。その世界は、きわめて記号的です。リアリティがないのにある種の真実が浮かび上がってくるのは、記号を理論的に並べた数式をイメージしました。若い男女の出会いと別れとその後までが、カッチリと組み上げられています。
趣味の合うカルチャー系大学生が同棲を始めるも、生活のために就職してから感性にズレが生じてくる。ピタリと合っていた過去が美しかったからこそ喪失感は大きく、それを抱えたまま共にはいられなくなってしまうお話。

「Princess Principal Crown Handler 第1章」2021/03/20 16:15

かわいい、かしこい、かっこよい。
TVシリーズが大変良かったので、劇場版も観に行きました。歴史改変型SF世界のロンドンで、美少女スパイチームが嘘をつく。
英語だらけのオシャレ感。劇場の大スクリーン大音量で、アクションシーンはおおいに満足。どちらが表か裏かこんがらがってくるのは私の頭が悪いからでしょう。
嘘をつき裏と表の自分を演じる。
それは己を崩壊させるか。
覚醒させるか。
TV版では後者のイメージの方がやや強かった。今回の第一章は前者のストーリー。
それがこの先どう転んで行くのか。明らかにされていない謎や伏線がてんこもりなのに、次回上映がだいぶ先なのがなあ……。ただでさえコロナの影響で上映時期を引き延ばされているのに。タイミングは大事だ。そう言う意味での消化不良と、やはり一時間弱の容量では食い足りなさも感じる。
もう少し、まとまった分量でみたい作品。