「僕たちと駐在さんの700日戦争」2020/10/18 17:11

夏、昭和の田舎の物語。700日ってあるけど本編で語られるのは三カ月間くらいかな。
2008年の映画で、主演の市原隼人が、高校生。佐々木蔵之助も麻生久美子も若い。しかし、竹中直人だけは今とあんまりイメージ変わらない。
イタズラ大好き高校生たちが、交番の駐在をからかって、駐在がやり返す。成人式でいらんハシャギかたするのってこういう奴らなんだろう。今どきの高校生たちが、共感を覚えるものだろうか。今時の中年たちが、ノスタルジーを感じるものだろうか。
それでも、この調子でくだらない攻防を貫いてくれたほうが良かったなあ。クライマックスを作るために、不良少年と病気の子供とか、なんかベタな展開を持ってきてしまった。
コメディと割り切ればゆるく鑑賞するだけだったのに、友情と絆の物語に持って行くと返って引いてしまった。

「星の子」2020/10/16 23:35

ワケわからん。世の中には、そう言いたくなることが、いっぱいある。
中学三年の数学、昔やったはずなんだけど、きちんとしたロジックでできてるんだってことも理解しているけど、やっぱり謎のお経だ。
たとえ、数学教師がイケメン・岡田将生だったとしても。

大森立嗣監督は、今年は「MOTHER」に続いて、またも特異な親子関係を扱ってきました。でもこちらの方が、もっとずっと、優しい狂気である。
映像的には、起承転結の「転」の盛り上がる所でアニメーション表現は、賛否分かれそう。主人公の少女の夢見がちな気質に合ってるといえば、合っているんだけど。
ちゃんと、芦田愛菜さんの演技で表現して欲しかった気もする。数年前にも彼女の主演映画観に行って、上手いなあと思いましたが、今の方がもっとずっと、可愛いっていうか、印象的だ。幼いころから大人世界でもまれていくと、こんな、知性と感受性を兼ね備えた目をするようになるのかなあ。
親が宗教にハマって姉ちゃん家出、と言う特殊な家庭で育ったちーちゃん。それでも、両親に愛され、友達がいて、宗教行事は怪しげだけど楽しげでもあって。特殊で不可解ではあっても、大事なところはちゃんと押さえているのは、伝わる。
全身に赤い発疹、泣き続ける赤ちゃん。これがどういうわけか奇跡的に治癒したのだから、親御さんが謎の水の力を信じてしまうのも無理ないかも。
何よりも、教団若手幹部が黒木華と高良健吾って、強すぎるぞ。彼が焼きそば作ってくれるんなら入信したくもなるよ。

「The Public」2020/08/29 16:32

監督・制作・主演がエミリオ・エステベス。
邦題に「図書館の奇跡」って副題がつきますが、言うほどミラクルなお話ではないように思います。むしろ、地味なくらいリアリズムな描き方です。図書館は立派で魅力的だけど、ホームレスたちのお話なので絵面的美しさには欠ける。
図書館あるある理不尽、ホームレスたちの結束、勝手なこと言うマスコミ。司書をやっているスチュアートは、真面目だけど口下手で同情心と押しの弱さで騒動に巻き込まれていく。雄弁で無い分、歌や文学作品からの引用を使うのは、納得できるけどちょっとズルい。
体臭を理由に市民を図書館から追い出すのは人権侵害なのか。凍死するかもしれないホームレスたちが避難場所を要求して図書館に立てこもるのは不法占拠なのか。「公共」の有り方を問う着眼点も、個々のキャラクター造詣も、非暴力なラストも興味深いのですが、何か物足りない。
あるいは、逆に色々詰め込みすぎて散漫になってしまったか。テーマ性よりも、巻き込まれた主人公が貧乏クジで気の毒に思うほうが強く残ってしまう。行政がホームレスたちに避難場所を用意すれば、それだけで解決できるお話なのに、それができない。
メガネをかけて、視界がクリアになる演出。ほんの少し目先を変えるだけで、大事なところは見えるはずなのです。

「八年越しの花嫁 奇跡の実話」2020/04/06 23:34

2017年のヒット映画。普段こういう難病お涙頂戴的恋愛映画はあまり見ないのだけど、ノーカットTV放送だったから。
ドラマの「恋つづ」では計算されつくされた圧倒的な色気を出していたけど。この映画のような素朴系でも、ただ何気なく立っているだけで絵になる。佐藤健の格好良いこと。
しかしより難易度の高い演技を見せたのがヒロインの土屋太鳳ちゃんでした。彼女は「るろ剣」の操ちゃんでもイイ味出すなと思っていたけど。元気な状態の勝気な姿と、脳の病気を患った姿の落差。昏睡状態でもただ寝ているだけじゃなくて、手に不随意運動があるのだねえ。奇跡的に意識が回復してからも、定まらぬ視線、回らない口で歌い、動かない四肢でリハビリ。
女優としての美しいポーズをかなぐり捨てて、リアル難病患者を演じる。
そんなピンポイントな記憶喪失あるのかしら?とも思ったけど(この物語がどの程度実話に忠実なのか……)
難しい病気で先の見えない状態でも。
常に心にある、相手への思いやり、愛情。

「Fukushima 50」2020/03/13 00:03

正真正銘の危機。東日本壊滅の可能性。
福島第一原子力発電所は、正に戦場だった。大地震からの津波で、非常電源ストップ(地下の電源が大水でダメになるって、関空でもあったなあ)。中央制御室には窓が無いらしく、真っ暗な中でライトの明かりを頼りに作業する。防護服にテープグルグル巻いて酸素ボンベ背負って決死隊。そのさなかにも余震でグラグラするのだ。
現場の臨場感がスゴイ。状況確認するために計器類だけでも復活させようと車のバッテリー提供(たぶん、職員の自家用車の)があったり、水が無いので男子トイレが酷い状況になっていたりとか、不眠不休で疲れ切った感じとか、恐怖と絶望とか。ワケの分からぬまま自宅から避難していく大量の地元住民の皆様の様子もちゃんと描き出される。
主役を張った佐藤浩市に渡辺謙、二大俳優はさすがの存在感。他には、火野正平の安心感頼もしさが光っていました。
たった九年前のことで、結果がどうなるかも現場で殉職が出なかったことも知った上での鑑賞で、それでも緊迫した空気がヒシヒシ伝わる、実録もの映画として一級品。
ところが、残念なのが、終盤は人情ものになってしまったこと。
大きな危機に立ち向かう、「シン・ゴジラ」では主要メンバーの家族の様子とかほとんど無くて物足りないような気がしましたが、今考えると、それが正解だったのでしょう。キャラクターの個人の事情があんまり前面に出されると、緊張感が削がれる。
ただ、フクイチの場合は、最後に盛り上げる手段が他に見当たらなかったのかもしれない。原発の皆さんは頑張ってその時出来る最善を尽くしたけど、打つ手がなくなってしまう。絶望ムードの中、どういうわけかよく分かんないけど色々幸運が重なったおかげで最悪の事態を回避できました、というのが本当のところなのだ。
復興庁が協力していることだから、不穏な感じで終わらせられなかったのかもしれないけど、ギリギリの綱渡りは、実は今でも続いているのだ。

「パラサイト 半地下の家族」2020/03/01 21:40

就職先と書いて、PARASITEと読む。パルムドール受賞もなっとく。韓国映画は着眼点もストーリーも興味深いのになんかアクが強くて苦手だったけど、これは文句なしに面白い、ポン・ジュノ監督すごいや。
ドタバタ喜劇だったのに、いつのまにかホラーが始まってしまった感じだ。
お正月に観たのは貧困家庭テーマでしたが、こちらは貧富の差の描き方がエグイ。格差社会は今年も世界の主要テーマなのでしょう。

「ひとよ」2019/12/01 23:16

暗い作品だ。
しかし、傑作だ。
このところ日本映画の大当たりを引かないなあと思っていたけど、私が観損なっているだけで実際は素晴らしい作品は公開され続けているのだろう。
舞台作品の映画化は、たいがい脚本が練り込まれていて面白い。
白井和彌監督の作品鑑賞は、昨年の「孤狼の血」以来で、そこに見られた激しい暴力は、狂ったような虐待シーンやクライマックスのクラッシュに通じるものがある。
でもこの映画の何がイケてるかって、役者陣の演技力だ。メインの四人だけでなく、サブストーリーの面々も含めて。一口で説明しきれない、微妙で多面的で矛盾したキャラクターを、どういうわけか問答無用で説得力のある存在として成り立たせている。ヤサぐれていても素敵な佐藤健や、シリアスなんか天然なんかな田中裕子、そして佐々木蔵之助の絶望の慟哭にぐっとくる。
つい最近観た「IT」では大人になった主人公たちは27年前のトラウマは記憶の底に沈めたうえでけっこう成功した人生を送っていた。
「ひとよ」では三兄弟たちは15年前の事件から逃れられず、子供たちを守るために殺人を犯した母親にとっては15年前から時が止まったまま。
面倒くさくて愛おしい、辛くても苦しくても断ち切れない繋がり、家族。

「ひろしま」2019/08/25 15:25

人々は精神が極限状態になると、それを分かち合い一体となるために共に歌うのだ。
しかし同じNHKで放送されながら、「いだてん」のメダルラッシュで歌われる君が代と、原爆で焼かれて川に逃れた少女たちの君が代の、なんという落差。
怖いもの見たさもあって視聴したので、わかってはいたけど怖い映画だ。
そして、傑作。公開は原爆投下からたった8年、まだ人々の記憶も生々しい時期に広島で撮影(広島や宮島は自分昨冬行ったっばかりだ)、当時は朝鮮戦争の頃で自衛隊の前身も生まれ、翌54年にはビキニ沖で漁船が核実験被爆。
朗読劇から始まり、高校の教室(被爆体験のある人とない人の入り混じる)で彼らの思いが語られ、1945年8月に舞台は移り、地獄絵図。それぞれの地獄を描く群像劇からやがて一人の少年に焦点が絞られ、月日が流れて、最初の高校へ繋がる。
ヒロシマを扱った作品は絵本に童話に漫画にアニメに、さまざまあるけど、「ひろしま」実写の絶望的な生々しさは、凄い。白黒映画なのがかえって実録映像みたいで。もちろん作りモノなのは分かっているのだけど、当時この映画観たひろしま人のみなさんどう思ったのだろう。
高校パートになると説明や語りが増えてくる。それでも語りつくせはしないのだろう。
死者たちの行進が、止まる日がくるのだろうか。

「バハールの涙」2019/02/10 00:50

戦う女。最高だ。
カラフルなスカーフを巻き銃器で武装した、女性のみの部隊。隊長は元弁護士、裕福な知的階級出身者だ。彼女たちと共に最前線を行く戦場ジャーナリストも女性で、黒い眼帯が潜ってきた修羅場を物語る。
まるで漫画みたいな設定だけど、実際にこんな女だけ部隊があってもおかしくないと思える、リアリティ。監督・脚本のエヴァ・ユッソン、気合入れて取材したのだなあ。
平和に暮らしていた町を血に染めた黒覆面の一団・IS。狂信テロリストに家族を殺され性奴隷にされた女たちが立ち上がる。被害者でいるよりも、戦いたい。
地獄を見てきた自分たちには、もう恐怖心などない。その勇敢さは、悲しい。それと同時に、誇り高く歌う彼女たちは、力強く輝いている。
女戦士たちとは立ち位置が異なる仏人ジャーナリストは、ただ使命感のみに突き動かされて危険な戦場に赴く。バハールたちを称える彼女のモノローグや、真実を伝えることの意義とか、この映画を製作した監督の真意を直球で代弁している。
メッセージ性の強い作品。でも女たちがISから逃亡するシーンや、町の奪還のため地下道を進んで行くシーンなど、緊迫感ある描写もたっぷり。BGMのドラムの盛り上げ方がすごい。

「ひまわり」2019/01/04 16:00

地平まで広がるひまわり畑に、哀愁のメロディ。この映画知らない人でも、この曲は聴いたことあるはず。
I Girasoli  1970年。50年近く前の名画だけどデジタル技術のおかげか、クリアな映像。
戦争に行ったきり戻らぬ夫を探しに、ソフィア・ローレン演じるヒロインがロシアの地へ。
という人探し映画と思ったら、半分くらいは過去回想で、短くも幸せな新婚の日々に、雪に覆われた戦場の行軍。緑の大地にたくさんの、たくさんの、墓標。
恋愛映画でもあり、戦争ものでもある。戦争で運命を引き裂かれた男女は多くあったのでしょう。でも「ロシア中を歩いてでも!」とヒロインが異国へ乗り込んでいくのは、少数派かな?。
パッと思い出したのが名作漫画「はいからさんが通る」で、これも紅緒さんが満州まで恋人探しに行く。作者絶対「ひまわり」見て、ジョヴァンナとアントニオの運命のすれ違いに心を痛めたことあるよ。
映画の方は、漫画のようにはいかない。戦場がロシア、というか、当時のソ連っていうのもよろしくなかった。ジョヴァンナがようやく見つけ出したのは、ロシア娘と一緒になって子供までいる、アントニオの今の生活だった。
その後、アントニオはイタリアまで会いに来るが、すでに何もかも、遅すぎた。
観終わってからもう一度、オープニングのひまわりの映像と音楽を味わう。