君の名前で僕を呼んで2018/06/10 23:25

パンフレットが通常版の他に豪華版¥2200があって、どこが違うのか尋ねたら「写真が多い」とのこと。写真集かあ……美しい北イタリアの風景の中にある、イケメン映画。しかし、夏の休暇を、室内パン一で過ごすのは日本男児も西洋の美少年も変わらないらしい。(でも、パン一の美少年がエレガントに?ピアノ弾くってなんかスゴイ)
経済的にも文化的にもレベル高そうな環境で、エリオ君17才は気になる人がいる。最初はイケスカナイと思っていたのに、目が離せない。気の置けないガールフレンドもいるのに、本当に触れ合いたいと思っているのは、同居人のオリヴァー24才だった……
ひと夏の出会いと別れ、男同士版。
なのですが、筋書きそのものは王道っていうか普通っていうか。
イチャイチャと絆を深め、二人きりで旅行したりもするけど、やがて訪れる、夏の終わりと別れの時。……BLにも不倫小説にもありそうな感じです。
普通っぽくないのは、エリオ君の両親がもの凄く息子の同性愛まっしぐらに理解が深く、むしろ応援しているところ。時代が80年代なのに。
美しい風景、ピアノを基調とした美しい音楽、美しい男たち、夏の恋。あらゆる意味で理想郷な夏と、それが閉ざされる冬を描く映画でした。

「家族はつらいよ 2」2018/06/03 14:27

休日の昼間にダラッとTVで観るのにおあつらえ向きな映画。
カンヌでは特殊な家族関係を描いた作品がグランプリ取りましたが。
古典的な三世代同居家族を中心にした映画を面白く撮るって、山田監督は逆に新しいんじゃないかと思えてくる。
思った以上に面白かったです。前作もTV放送されているの観ましたが、それよりもパワーアップした印象。
中心にあるのはサザエさんやちびまる子ちゃん的な古風な大家族。しかし、年寄りの運転免許問題というテーマを設け、前作で熟年離婚を考えていたおばあちゃんは離婚はしないものの亭主をおいて友達とオーロラ観に行くってウキウキ。寝たきり老人を抱える家族、貧困老人の孤独な生活……
配置されているアレコレは、ちゃんと現代的。娘の習い事にどこまでお金かけようか(ピアノ)とか。シビアなテーマでも、コメディチックに、そして優しく描く。
山田洋次作品に特徴的なのが、寅さんの妹さくらさんとか、小さいおうちのお手伝いさんみたいな、可愛くて善良でしっかり者で理想的な女性像。このシリーズでは蒼井優が演じる一家の次男の嫁さん。こんなイイ娘いるもんかい、と思いながらも可愛いなあ、と癒される。

「孤狼の血」2018/05/21 00:02

米国では学校での発砲事件が今年に入ってもう22件も発生しているとか。
銃で撃たれるシーンはどんなに血が噴き出してもさほど恐ろしさを感じない。なのに、ユビツメはそれがはっきり画面に出なくてもとっても痛そうで怖いのはなぜだろう?
暴力にモノを言わせるのもヤクザ映画も趣味じゃないのに、何故これを観に行ったかと言えば、そんなバイオレンスな原作小説の作者が女性だということで興味を持って。
物語はテンポが良く、役者の皆さんもそれぞれ楽しげに熱演で面白かったです。
だけど、何かが足りない気もする。
昭和の終盤(天皇陛下病状ニュースとか流れてた)、ケータイも無くポケベルで連絡とか……。なぜ今、そんな時代のヤクザの抗争を描くのか。単なる懐古趣味以上の意味が見出せなかった……
昭和のヤクザもののイメージ、な始まりですが、実体は警察もの。役所広司演じる大上刑事は違法行為全開の不良警官で、しかしその行動は目的がはっきりしていて、やること滅茶苦茶だけど、結構理性的。
江口洋介演じる若頭はメッチャ格好良い。だけど惜しい、スマートすぎてこの人だけがなんか平成っぽい。
もう少し狂気が欲しい。そして主人公側の魅力だけじゃなくってヤクザ側の義理人情ももう少し出してほしかった。あれじゃ勢力争いとメンツばかりを気にする集団。せっかく大ボスが伊吹吾郎なのに、刑務所で大人しくしているばっかりでもったいない、凄みをきかせてほしかった。
なんか惜しいトコロばっかりな感じですが。
敵ボスの石橋蓮司がもう、ホンマにその筋の人にしか見えない。
数少ない女性キャラ、真木よう子の美しいこと。
可愛い豚ちゃん。
そして、もう一人の主人公である松坂桃李、真面目な新人刑事なんだけど空手の使い手でちゃんと強いのがツボ(ギャップ感大事)。そしてこういうキャラがうって変わって「仕掛け」ていく、そこをもっと押してほしいと思うのは、私が登場人物の「成長要素」が好きだからだろうなあ。

「言の葉の庭」2018/03/21 12:34

なかもずにいた頃飲みに行っていたお店のお姉さんは、「君の名は。」より断然こちらの方が好みだと言っていた。完全に中高生ターゲットの作品か、もう少し大人向きか、の違いはあると思います。
再視聴。「君の名は。」公開前にもTV放映されていたのを見て大いにビックリ+感動したけど、今度は新海誠展に合わせての放送だ。
少年と、女性。鬱屈を抱えた二人が、雨の日に安らぎの時間を共に過ごす。
万葉集の恋歌が美しい。
アニメーションが美しい。公園の緑が、飛ぶ鳥視線の都会の景色が、足が、降る雨の粒が。溢れる感情が。
なんてことない、普通にそこにあるものを美しく描き出す。絵だからこそ写真以上に思い切って美化できるのかもしれない。
音楽もいい。
辛いこともあるけれど、優しい気持ちになれる。

「雲のむこう、約束の場所」2018/01/03 23:52

日本は南北分断され、北海道を支配するユニオン(ソ連的な国家)と戦争間近、というSF設定。今の朝鮮半島を思い浮かべてちょっとヤな気分にもなりますが、しかしその分、色々リアルに感じることができます。
核ではなく、別次元の空間(宇宙の夢?)を持ってくるという謎のテクノロジーを研究していて、そのあたりの理論はサッパリなのですが、しかしお話の流れとしては、過不足なくって、とても完成度の高い脚本だと思いました。
前夜放送の「秒速5センチメートル」では<手に届かないどこか遠くにあるものを思う>という状況に酔ってるばかりでそれ以上前進できない感じだったのですが、「雲のむこう、約束の場所」では、壁を突破します。
主人公の少年に、頼りになるお友達がいたのが大きいですね。
少年時代の憧れ、恋愛、友情、ファンタジー、社会不安、武装地下組織に空中戦まで、盛りだくさんを美しい映像で描かれて、大満足でした。

「こころに剣士を」2017/01/24 09:58

The Fencer
強いて気になったところを上げるなら、「ラブシーンはもう少し削っても良かったなあ」。
中学生の見ている前で長々いちゃつく体育教師ってどうなのっていう、日本人的発想。
しかし、めっちゃこころに残る映画です。
ストーリーはシンプル。いわゆる「部活系」で、熱心な指導者、熱心な生徒たち、そして晴れの舞台で大活躍、というパターン。閉塞感漂う寂れた田舎町が舞台って意味では、「フラガール」に近い印象です。
ただ、閉塞感のレベルが違います。スターリン時代のソ連に支配されるエストニア。結構な人数の子供たちがあんまり笑わない厳しい先生の指導でフェンシングにハマるのは、単に田舎で娯楽が少ないってだけではありませんでした。
当局の顔色をうかがう大人たち、家族を強制連行される子供たち。そんな中で、「お前は、剣士だ」の一言が、少年を勇気づけるのです。
主人公の体育教師も元ナチス関係者(エストニアというのは、ナチス支配下にあったりソ連支配下にあったり、小国の悲劇の典型)で当局から隠れるために田舎にやってきて、ずっと暗い影をしょっていましたが、子供たちを指導するうちに、熱を帯びてくる。画面上には寂れた印象だったパーシバルという町の、美しい自然の姿も映されます。
最初に主人公を動かした少女・マルタが素晴らしかったです。とても可愛い娘さんですが、キャピキャピしたかわいらしさじゃなくて、強い意志・誇り・闘志を秘めた真っ直ぐな瞳。小柄な彼女が剣を手に、都会の学校の生徒に立ち向かう。

「この世界の片隅に」2016/12/04 23:03

間違いなくいい映画、それも「ものすごく良い」、と言えるのですが、でもどこがどうそこまで良いのか、説明しにくいです。
ストーリーは、女の子がお嫁に行く話で、性格キツメのお義姉さんがいたり幼馴染の男の子が絡んだりと、ちょっと「ごちそうさん」っぽい?
淡い色彩の絵が、とてつもなく優しい。その優しい絵に、爆弾やらキノコ雲やらが現れる悲しさ恐ろしさ。
ヒロインのすずさんは、表面的には、天然ドジッコ癒し系設定の女の子なんですが。
でも、そんな単純なところではおさまらない。明るく飄々と生活しているようでいて、実は頭に禿げ出来るようなストレス溜めていたり(結婚って大変だ)。
現実の厳しさの中で翻弄され、消耗して傷ついて、それでも精一杯生活して行こうとする人々の姿、その心の機微の描き方に説得力があって、大きく心揺さぶられます。

そして、観終わった後パンフレット購入時の、そのお値段の高さに別の意味で心揺さぶられました。これが現実感ってやつです。

「君の名は。」2016/10/23 01:06

公開前のTV放送「言の葉の庭」があまりにも美しい映画だったので、このイメージが崩れたら嫌だなあ、この作品観に行こうかどうしようか……
なんて思っていたら、ジブリアニメ並の大ヒット、話題騒然作品になって。
自分が十代の時に観に行けていたらなあ……。決して大人の鑑賞に堪えない、というわけではなくって、とっても魅力的なエンターテイメント作品なのですが。「時をかける少女」を見た時も同じように思ったのですが、あのひたむきな純粋さ、切なさ、青春って感じは、完全に少年少女たちの、どストライクでしょう。
リピーターが多いのも分かります、エンディング後にもう一度オープニングを見たくなる。
曲がバカ売れなのも分かります。映画の音楽っていうか、RADWIMPS音楽の長大なイメージ映像にすら思えてきます。
3.11や「シン・ゴジラ」と並べられるのも分かります。大きな被害に立ち向かう物語。
そのために、時をかけるファンタジーの力を借りるわけですが。構成(伏線)が周到なうえに昔々の神事の継承役を市原悦子に担わせるのだから、胡散臭さやご都合主義を感じず、やはりこれもなんか分かってしまう。
キャストでは、神木君はもともと実力派で名を馳せていましたが、もう一方、上白石さんが「舞妓はレディ」以来の主演で、どんと知名度を上げた(CDまで出した!)のは嬉しいです。
そして、それ以上に、一躍ビッグネームとなった監督・新海誠。こうした新しい波が起こるのも、わくわく感があります。

「消えた声が、その名を呼ぶ」2016/02/13 16:18

先月観た「海難1890」とセットで観ようと思っていた作品。「海難1890」がヒューマニズム映画なのに対し、同じトルコを舞台にしていながら、こちらは、大虐殺が行われます。
映画の前半がオスマン・トルコ内の少数民族ジェノサイド、後半が主人公の娘探しの旅、という構成ですが、虐殺シーンがひどすぎて娘探しの方の印象が薄まったかなあ。
100年前のこの蛮行についてはこの映画を知るまで全く無知でありましたが、パンフレットによると、アルメニア人側は150万人が犠牲になったと言い、そして現在のトルコ政府はせいぜい死者5万人くらいで戦争中の不幸な出来事、みたいな扱いで、両国の関係に暗い影を落としているという……なんかどっかで聞いたことあるような。負け戦で落ち目な政府ってのは常軌を逸した非道をやってしまうようです。
何でこんなことしたのか作品内では説明されませんが、イスラム教のトルコ帝国内で、キリスト教のアルメニア人が暴動起こすんじゃないかって思われていたようです。「死の行進」の意味もよく分からなかったのですが、その目的はなんと、「飢えと渇きと疲れで死ぬまで歩かせ続ける」だそうで、その結果の死屍累々シーンだったのでした。ガス室作っただけナチスが人道的だと錯覚するほどの非道で、なるほど、トルコのタブーだなあ。
私の勉強不足のせいもありますが、映画見ていて「なんで?」て思うことが多かったのがなあ(疑問点が多すぎてパンフレット買ったようなもの)……娘探しで北米の南の辺りにいたはずだったのに、何故か、いつの間にか雪国に……どうやら、アルメニア人というのはユダヤ人や華僑みたいにあちこちの国にコミュニティを作っているらしくって、娘の手掛かりを失ったナザレットさんは北米のアルメニア集落をかたっぱしから探し回ったみたいです。かたっぱしから、といえば、トルコ周辺の孤児院を訪ねまくったりもしましたが、「これって手紙で問い合わせても良かったんじゃあ(この時代の郵便事情はどうなんだろう)……」なんてことも思ってモヤモヤしたり。
ファティ・アキン監督による「愛・死・悪」三部作の「悪」テーマのお話で、民族浄化という大悪と、「羅生門」的な普通の人の悪(正義の心も無いわけじゃないけど自分の都合で悪事もやってしまう、という)。キリスト教徒だったナザレットは神に祈るのをやめ、他者をひどい目に合わせることもありました。
しかし、悪を描くには、その対となるものも描かれなければなりません。彼が生き延び、娘とめぐりあったのは、悪いこともやっちゃう人々の、良心や義侠心のおかげだったのでした。

「海難1890」2016/01/24 23:31

困っている人苦しい思いをしている人に対して、手を差し伸べるのが人の道。
一言で簡単に言ってのけられるほどテーマは単純で、ストーリーもけっこう宣伝されているので意外な展開なんてものは無い。
だから話の筋以外の要素でどれだけ観客をひっぱってこられるか、が(私的には)重要だったのですが。
タイトルにもあるトルコ船の難破シーンに力が入っていたのが良かったです。この怒涛のシーンがあったからこそ、その前、使命を果たしてようやく故国へ帰れる皆さんが家族への土産物を大切に見つめるシーンが生きてきますし、事故の悲惨な結果と和歌山の皆さんの献身的な救助活動も説得力が出てきたと思います。
時代が変わって、空爆予告されたテヘランの混乱した様子も、ドキュメント映画みたいで緊迫感がありました。そんな中で、日本人に飛行機を譲るトルコの皆さん……なんて良い人たちなのだろうって、素直に思いますよ。イスラム教徒の、持たない人たちに分け与える精神って貴いなあ。どこまでが映画的演出なのか分かりませんが、これは時代が新しい分その時の現場証人もまだまだ居る話なので、極端な改変はないかと思います。
ヒューマニズム映画らしい「感動の演出」が鼻についたら嫌だなあ、と思っていたのですが、そういうのが無いわけじゃないけど、それ以上に全体的に細かい部分を丁寧に積み重ねてあって、いい映画だったと思います。
ただ、最後。
しみじみしたエンディングテーマが流れ終わり、いきなり画面に現れた現職のトルコ大同僚!あまりにびっくりしたのでどんなメッセージだったんか全然頭に入らなかったのですが、この人は今はシリアに空爆したりクルド人ともめたりロシア人ともめたり国内のテロ対策でテンヤワンヤなハズ。
美しいヒューマニズム映画を見ていたのに、いきなり生臭くなったというか政治臭くなったというか。日本上映版でトルコ大統領が出てきたというコトは、トルコ上映版では日本の総理大臣のメッセージもあったんだろうか・・・なんて考えちゃうと、映画の余韻も何もあったもんじゃないです。