「自虐の詩」2020/05/05 22:23

MBSの「おうちにいようよ」プロジェクトで、10年も前のドラマを編集して「JIN-仁-レジェンド」と題して放送している。時を経ても面白いものは面白いし、こういう時代だからこそ、感染症と戦うお医者さんたちの姿にはぐっとくるものがある。

中谷美紀と言えば、格好良い花魁とか、知的で強くて華やかな役柄のイメージが強いのですが。
この映画では、東北の田舎から大阪に出てきてダメ男に尽くす幸薄いヒロインになっている。ドラマの花魁と同一人物かと疑うほど地味で、痛々しい。
2007年、堤幸彦監督。
スローモーションちゃぶ台返しが印象的で、コメディ路線と思ったら、後半まさかの感動的展開。ダメ男な阿部寛のビフォーアフターの差が激しすぎるっていうかキャラクターが違いすぎ。気が短くて乱暴で不器用で、一途。こんな格好良かったら、薄幸のヒロインがメロメロになって尽くすのも納得してしまう。
幸せを願うコト、願ってくれる人がいるコトが、幸せ。

「JOKER」2019/10/26 01:24

観終わった後、猛烈に悲しくなってきて気分悪くなって、パンフレットの冒頭の「SMILE」(チャップリン!)の歌詞の前向きさがまた悲しくて。
笑う門には福来るっていうけど、ムカついたら怒って、失敗したら落ち込んで、つらい時には泣かなきゃねえ。しかし、感情表現が笑うことオンリーなのが、主人公のアーサー。
気の良いピエロ、だった彼だけど、実はちょっとずつ闇溜めこんでたんじゃないか。
精神を病んだ人間が、社会から見放されたらどうなるか。ピエロの仕事を失くし、母親への信愛は消え、恋人の愛も幻で、夢を叶える才能も無く、好きだったコメディアンへのリスペクトも憎悪に変わる。
そして、ただひとり。
守るモノ=好きなモノ、それを失くした時、凶暴な獣が目覚めるのだ。
ゴッサム・シティの貧しく荒んだ風景に、そこに住む荒んだ人々。
悲しい獣たちが、笑う。

「PSYCHO-PASS SS Case2,Case3」2019/03/23 00:54

劇場版製作を知った時から予想はしていたけど、思ったより早くTVシリーズ第3期が始まる。嬉しい。
でも主人公が新キャラに代わってしまう。不安だ。
脚本は誰が担当になるんだろう。

やっぱり、脚本大事。Sinners of the Systemシリーズ、Case1に比べると2,3の方がずっとまとまっていて。
「First Guardian」は須郷さんがTVシリーズ二期に続いて強烈な精神的ダメージを食らわされる気の毒なお話しがメインで、そんな酷い目に合いながらも新たな己の道を真面目に進んでいく須郷さん、ハイスペックで人柄も良い、幸せになってほしい。けど不幸が似合う人なんだなあ。
過去編なので、お亡くなりになった方々も含めて一期キャラ登場が嬉しい。軽いあんちゃんな石田彰さん、神経質なメガネさん、猟犬時代のコウちゃん。
で、何と言っても、とっつあんの渋さ、強さ、弱さ、熱さが……。公開直前というタイミングで有本欽隆さんの訃報。悲しいことですが、このカッコよさが遺作っていうのは役者冥利かもしれない。
「恩讐の彼方に―」で傭兵コウちゃん。舞台はチベット!アジアの風物映像は素晴らしかったけど、最後の戦闘シーン以外は全くSF感無い!
しかも、一話限りのゲストにするにはもったいないくらいの美少女登場。「約束のネバーランド」で主演やっている、旬の人キャステイング。
さらに、有能巨乳お姉さん、外務省職員戦闘能力高すぎ、コウちゃんとの会話も知的。
美少女と美女と同居して仲良く夕餉をいただく、コウちゃん勝ち組。
ところが、彼の中は空虚だった。復讐を果たしたかわりに、全てを失った。やるべきことも帰る場所もなく、「やりたいことだけをやる」
そんな彼が、復讐から四年以上も掛けて、ようやく、踏み出す。

「アラン・ドロンのゾロ」2019/03/13 10:47

1974年、伊・仏。ラテンの香りむんむん。
南米植民地の総督として赴任するはずだった友人が謀殺され、現地の悪者と対峙することを決意した主人公。
という導入はシリアスで、あとはドタバタアクションヒーロー活劇。気弱で愚鈍な男を演じつつ、裏では黒覆面黒帽子黒マント黒い馬、の民衆の味方・ゾロとして暗躍する。賢くて格好良い黒ワンコがステキ(アラン・ドロンより!?)。
不正を働く奴らを懲らしめて人々が喝采を送る。同じ勧善懲悪でも、水戸黄門みたいなお上品なのでなく、なんか南米っぽい陽気さを楽しむ映画。
クライマックスは意外にもラスボスとの一対一の勝負で、権力者が大勢の部下を差し向けるパターンでもない。王道の対決シーンだ、敵が相当な剣術の使い手であることは序盤から示されていたので、黒と白のチャンバラアクションに気合が入る。
こういう、難しいこと無しのシンプルなヒーローものも、たまにはいいなあ。

「女王陛下のお気に入り」2019/03/02 00:25

THE FAVOURITE
幼馴染で耳が痛いことも気安くポンポン言ってくれる賢い人と。
こちらの気持ちを汲んで調子よく合わせてくれる楽しい人と。
友達(あるいは恋人)にするなら、どちら?冷静に考えれば前者だけれど、身体に病を心に孤独を抱えた人ならば……
スペイン継承戦争中(1701~13)のイングランドが舞台、でもどの辺までが史実なのか。
ユリ映画、主人公はそれぞれ個性的な女三人。「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーンやオスカー女優のレイチェル・ワイズを支配したり支配されたりする、アン女王。このキャラが一番不安定で複雑で悪い意味で人間的で、オリヴィア・コールマンがアカデミー主演女優賞。
豪華な宮殿(実物)、衣装、うさぎちゃんたち。いずれも、醜くグロテスクに映し出されてしまうマジック。男たちは滑稽に浮かれるピエロ。女たちは愛と快楽と地位と権力を掴むために冷徹に動く。
最初は、没落貴族娘が使用人から「女王のお気に入り」へのし上がって行くのに感情移入していくけれど。使用人でも心はレディ!と言っていたのに、結局のところ……
人間関係、感情の変化は面白いけれど、後味悪いお話。

「PSYCHO-PASS SS 1、罪と罰」2019/01/31 01:04

長く使ってきてそれなりに愛着もあるけど、袖口などの傷みが気になってきた衣服を処分する。厚みのある冬服が抜けて、クローゼットにゆとりが生まれる。
モノを簡単にゴミにしてしまうのは、もったいないような、残念な気がしてしまう性分だ(古い下着なんか小さく切って汚れ物拭いたりするタイプ)。愛着があればなおさら。
手放す気持ちを多少軽くするため、リサイクルボックスに投入。お店の前のその箱から先、どんな道を行くのか。ゴミよりは有為なサイクルに入ってくれることを祈る。

TVアニメからハマったこのシリーズを今後も楽しむコツは、むやみに残酷なばかりでコジツケ臭いお話になってしまったTV第2期を、無かったものとするコトだろう。
あなたが情報漏えいしなかったら何の罪もないお年寄りが酷い目に合わないで済んだかもしれないのにね。……ということをこれっぽっちも触れてこない。サブタイトルが「罪と罰」なのに。
ストーリーの都合上ひどくネガティブな役回りになったキャラクターを、視聴者の印象的な意味で救済するためのお話なのだろうけど、簡単に正義の味方役にしちゃったなあ。彼女はけっこう闇があるのに、私が脚本書くならほんのり漂わせるくらいはするのに。
色々ツッコミどころはあるけど、面白くないわけじゃないのだ。
もともと私好みの世界観で、劇場アニメにしては約1時間で短いけど要素は詰まっている。刑事たちが連携して事件を追う中で、洗脳と集団心理、優越感と差別意識、都合の悪いことは暗闇の中で処理する未来社会(あれ、今と変わんない!?)を描き出す。
アクションシーンは、二足歩行ロボット相手にケンカしちゃうのはあまりにも生身頑丈すぎると思ったけど……
こんな感じの、本編主人公とは別のキャラに焦点を当てたサイドストーリーを、もうあと2篇劇場公開するそうなので、それも多分観に行くと思う。脚本が深見さんに戻るし。
期待半分。もう半分には、どこか、リサイクルボックスから先の古着の行方を思うのに通じるものがあるような気がする。

「三度目の殺人」2018/10/18 22:04

土曜プレミアムを録画。
ホームドラマのイメージな是枝監督、こんな作品も作るのかー。
物語の構成要素一つ一つは、よくあるサスペンスもの2時間ドラマみたいなのに。
特異なのが、役所広司演じる被告人のキャラクター。カラッポの器。
彼が語るのは真実ではない。
彼の行動に積極的意思はない。
相手が望んでいること、そうであってほしいと期待していること。
誰かの都合に沿って動く。たとえそれが犯罪でも。殺人でも。
それでいて(だからこそ、かな?)他者の生殺与奪を握る強者に憧れていたり。
そんな人物を作り上げておいて、そのバックグラウンドについて分かり易い説明を用意していない。
ただし、その対極として、逆境覚悟で真実を述べようとする少女を置いている。
逆に言えば、真相なんて取るに足らないものと、斜に構えて流されっぱなしな生き方を突き詰めれば、あんなカラッポな人物像ができあがるってことなのだろうか。
分かるような分からないような微妙なモヤモヤのある映画だ。

「娼年」2018/05/03 16:37

R18、観客の9割女性、尻・乳・太腿、パンフレット完売の文字。
これ、以前は舞台で上演されていたって凄いなあ。
何が面白くないのか、暗い目をした無気力大学生が、ある夜オバちゃんに誘われて娼夫になり、なんかイキイキしてくるお話。
あんなにいい娘が尽くしてくれてるのに、熟女好みとは……
人間の持つ原始的欲求のひとつ、性愛がテーマで濡れ場シーンだらけで、でも色気とかエロスとかはあんまりないです。都会の景色や音楽はオシャレですが、ゴム必至とか、生々しさを目指しています。
でも、私痛いシーンは苦手だあ。
松坂桃李くん演じるリョウ君は、人々が求める様々な形の性愛に対し、びっくりしながらも引いた様子はなく受け入れる。それでいて、お金を頂くためのビジネスに徹した態度でもなく、ちゃんと相手に敬意と慈しみを持って接する。
……こういう商売に需要があるっていうのは納得できる感じです。
それでも、主人公は最後には夜の世界からカタギに戻るのだろうと思っていたのに、まだまだ続けていくんだ。

「THE SHAPE OF WATER」2018/03/16 00:15

“まとも”って、なんなのか。
ヴェネチア国際に続いて、米アカデミー賞も。たとえば「E.T」とか、「アバター」とか。どんなに高評価でも異形系はアカデミー賞取りにくいって話だったのですが、それを覆して。
美女ではなく声も出せない中年清掃婦、でも生々しく「女」であるヒロインと、半魚人のロマンス。「反・美女と野獣」の視点としては大成功。半魚人のグロテスクで獰猛な面と美しく神聖さを感じさせるデザインも秀逸だと思いました。言葉もなく名も知らずただただお互いだけを求める二人。
周到に計算された、間違いなく良い作品。
と、思う一方で、なんか、釈然としない、何故だろう?
差別や偏見や血みどろグロテスクはリアルなのに、話の展開はご都合主義的(ラブストーリーはお互いのすれ違いが無いと盛り上がらない)で結末は後味悪く思えたからか。
日本にある異種婚姻譚って、鶴にしろ龍にしろ狐にしろ、たいてい人の形を取っているイメージ。そしてみんな美形。その辺まで含めてファンタジーだと思う。「八犬伝」は人間に化けたりしませんが、だからといって交尾するシーンとかは無い(たぶん)。
それを、この映画は映像化してしまう。グロイと思うか美しいと思うか。そういえば「魔法使いの嫁」も骨男への輿入れ(こちらは美少女だけど)だ、異種婚姻譚ブームなのかな。
イライザさんは美人ではないなりにチャーミングさも持っていましたが、半魚人と近づいていくにつれ、なんかエキセントリックなパワーが出てきます。
他の登場人物は、ゲイの老絵描きさんも、ロシアのスパイ学者さんも、話好き世話焼き黒人女性も、米国的マッチョリズムの嫌な男も、それぞれの立場・性質からその言動はおおむね理解できて、言い換えればそれはある種の類型ってこと。
でもイライザさんだけは異色。でもそう感じるのは私だけで、異種婚姻譚ブームだし、異形ロマンスありですっていう人は案外多いものなんだろうか。

「関ヶ原」2017/10/14 23:44

勝利するのは誰だ。まっすぐ筋を通す義か、巧妙な野心家の利か。
日本全国で刃も火薬も使わない「戦」が繰り広げられている今だからこそ、観たい映画。
なーんて、たまたま偶然のタイミングですが。
400年以上前の大合戦も、本当は刃も火薬も使わない時点から始まっていたのですが、それでも、やはり圧倒的なのは合戦シーンでした。ぶつかり合い転げまわる兵、槍衾、爆発、戦場を駆ける軍馬の蹄の響きとか、スクリーンで観る価値はあったと思います。
原田眞人監督と言えば美しい映像。それと芸達者な役者さんをふんだんに使った群像劇のイメージも強いです。でも登場人物多すぎて、ちょっと、「シン・ゴジラ」を思い浮かべました。あそこまでではないけど、セリフ早口でどんどん進めていって、余韻が薄い。まあ、大河ドラマみたいにジックリ人物描写はできませんからね。
豪華俳優陣で印象的だったのが、
主演・岡田准一。この人は男前だけど背があんまり高くないから時代劇向きだなあ。大河ドラマで鍛えられてますし、乗馬姿がキマっている。
対照的に、ひょろ長い東出昌大。大きいのに何故かちょっと頼りない情けない系が似合う彼が、戦場の悩める若者・小早川秀秋。
平岳大さんの島左近がものすごく強そうで頼もしさ抜群。
あんな太った役所広司観たことない、野心家・徳川家康。
有村架澄が可愛すぎる。お姫様ですかってくらい。甘いラブ・ストーリー要素を入れたがるのも原田監督らしい。
松山ケンイチ演じる直江兼続のシーンは演技も演出もサイコーに格好良かったのですが、にもかかわらず「別に省いても良かったんじゃないの」と思ってしまうのはこのシーン以外は全く影も形もない空気なキャラになっているから。役者のせいじゃない、脚本のせい。