「沈黙―サイレンス―」2017/02/14 23:56

物忘れが激しくいろんなことが曖昧になっているものだからあんまり自信がないのですが、確か2月14日はキリスト教の聖人殉教記念日だったような……


マーティン・スコセッシ監督/脚本で主演も外国人で使われている言語も9割英語なアメリカ映画なのですが、日本映画な気がしてなりません。
暗く貧しく厳しい、地獄のような国、日本。
161分もある大作、遠藤周作の原作に対するリスペクトがびしびしあります。
イッセー尾形のイノウエ様がイメージ通りすぎる。
通辞役の浅野忠信の、いやらしい感じが絶品。
窪塚洋介のキチジローは、みんなから軽蔑されて弱さより気の毒さを感じます。
やっぱり、主演の宣教師たちより日本人キャラの方が印象的です。
クライマックスの踏み絵に至るシーンがあんまり盛り上がらなかったのからなあ。

凄い小説なのに、細部は結構忘れています。近く原作再読しよう。

「ディストラクション・ベイビーズ」2016/06/19 22:07

TVドラマの「ゆとりですが何か?」も毎週楽しく観ています。
それから、昨夜のスイッチインタビューも見ちゃいました。

菅田くんの小者感たっぷりな演技が素晴らしい。ものすごいセコクてチッチャイ高校生。こういう若者いてそう。深く考えずにノリで動いて、あとで酷い目にあう。
この映画の凄い所は、「小者役」にペラペラ喋らせて薄っぺらさを強調して、主役のセリフをそぎ落としまくったことだと思いました。柳良優弥演じる泰良も、何も考えずにただ「楽しい」ってだけで目についた強そうな人に喧嘩を売りまくっているイカレタ人なのですが、でもこちらは、何故か薄っぺらさは感じないのです。
他人を殴って、殴られて。はた迷惑だけど、それが彼にとっての生きる道、外せない真理だということが、多くを語らなくても伝わってきます。なんか、この役者の、理屈抜きの存在感をめいっぱい有効活用した映画。
闘争本能が全て、というまるで道理の通らない異様な主人公がどっしりと重みを持っていて、周辺の、いかにもどこかにいそうな人たちが小さく見える不思議さ。
あと、主人公の弟役に村上虹郎を持ってきたのが秀逸。似てるよ、全然性格設定違うのに、同じ空気だよ。

「太陽」2016/05/09 23:51

吸血鬼・ゾンビものって、古くからありながら無数のアレンジが可能な設定だなあ。

ストレートな感情表現。神木隆之介君が、叫ぶ叫ぶ。
もともと戯曲だった作品の映画化。
ちょっと、手塚治虫っぽいなあって思いました。物語の、奥行きが。
支配者と被支配者に二分された近未来。古典的設定です。
一方は、太陽光で死んじゃったり子供ができにくかったりと欠点もあるけど、普通の人間より頑健な肉体と高い知能と冷静な合理的判断を持つ(だからこそ、社会の支配者の側になっていい暮らしをするでしょう)新人類。
もう一方は、普通の人間。四国で独立政府を作ろうとするも、さっぱりまとまらずに無法地帯になってしまう。粗暴で感情的で貧しい暮らしをしていて、でも心揺さぶられる生き方をしているのは彼らの方だったりします。
愚かで混沌とした彼らには、「迷い」が生じる余地がありますからね。賢い方の人たちの、言ってることは間違ってないけど人形みたいな機械的な喋り方が、うまい。
二つの陣営の間で。
反発があったり憧れがあったり共感が生まれたり。
人の幸せってなんだろう。良き生き方ってなんだろう。
見る人によって、感じ方が違ってくる映画だと思います。

「独裁者と小さな孫」2016/01/08 00:13

タイムリーに、って言い方は変ですが、独裁国家がまた、イタイことやっちゃったよ。
この国は早う、誰かが革命を起こさにゃいかんのですが……



難しいことを易しく、易しいことを深く。って言ったのは誰だったかしら。
まさに、そんな感じの映画です。クーデターで追われる身となった大統領が見たのは、煌びやかな首都から一転、貧しい風景。腐敗した軍隊、自分を憎む民衆たち。
そこに、小さな孫が加わって、映画に奥行きが出ます。5、6歳くらい、大統領をミニチュアにしたような小さい軍服を着てとっても可愛らしいのですが、甘やかされたワガママくそがきでもあります。こういう話にイタイケナ子供を使うのはちょっとズルいと思うのですが、でも彼の存在のおかげで、自分勝手な独裁者も普通に孫を守ろうとするオジイチャンであるってことがすんなり入ってきます。
直接心情が語られることはありませんが、独裁者の心情にも変化が出てきます。
独裁国家はロクでもない、民主主義万歳。
という分かりやすいメッセージでありながら、しかしその先があります。
独裁者を倒した、その後どうするのか。みんなが怨嗟の声を上げるのは当然だけど、憎しみと暴力のみで何が生み出されるか。……「アラブの春」の失敗を意識しているのが伝わってきます。
テヘラン生まれのモフセン・マフマルバフ監督ご自身が、イラン政府に狙われて外国で様々な活動をしているという、結構ドラマチックな人生を送っていらっしゃいます。
ジョージア、フランス、イギリス、ドイツと多国籍資本のジョージア語映画で、固有名詞は一切使われず、あらゆる国の独裁者を連想させる、寓話となって、観客に問いかけてきます。

「天の茶助」2015/07/05 14:38

「デスノート」////書かれたことは必ず実現してしまうダークファンタジックサスペンス。松ケンと藤原竜也が大変ハマリ役だったので、実写ドラマ化は(好きな役者さん出ているけど)ちょっとヤダな。



ファンタジックコメディかと思っていたのですが。B級映画ってやつ?人間の運命を描く脚本家がいて理不尽な運命はヘボ脚本家のせいで、でも強い意志があれば脚本通りにはいかない、というトンデモ設定のおかげで、あらゆるご都合主義が許されてしまう。
主演の松山ケンイチの解説ナレーションとカオスな沖縄カルチャーと、私の苦手なグラグラ画面、やっぱりカオス。

「繕い裁つ人」2015/02/21 10:41

 派手さはないけど、こだわりと品性を感じる良い映画でした。
 頑固な仕立て屋を演じる中谷美紀が、ハマり役。
 片桐はいりも、相変わらずいい存在感でした。エンディングの「切手の無い贈り物」がオシャレに温かく締めくくる。
 大切に、一生使い続けられるもの。
 使う人の顔が見える、丁寧な仕事。
 大人の、オシャレ。
 守り続けることと、
 より困難で新しい道へ踏み出していくこと。

「超高速!参勤交代」2014/06/29 23:02

 なんっも難しいこと考えずに笑って観られる映画。このタイトルだけでおもしろい。人気小説や漫画やドラマを原作とする映画が多い昨今、オリジナル脚本で勝負していることにも敬意を表して。
 あれってぜんぜん、参勤交代じゃないんですけどね。フンドシ映画でした(笑)。
 佐々木蔵之介演じる主人公の殿様が、ありえないくらい庶民に対して気さくで、お人好しで、しかも武芸達者で。
 でも笑いをかっさらっていったのは、西村雅彦演じる家老さんでした。この役者さんはシリアスな役よりも、コメディアンの方が断然輝いて見えます。
 湯長谷藩の面々が、みんな磐城弁なのもよかったです。
 困難な道のりも、みんなで走れば、楽しい。

「チョコレートドーナツ」2014/06/21 12:01

 今月最初の日曜日に観に行ったのでずが、朝一の上映は満席、次のお昼の回も満席で、わざわざ梅田まで出て行ったのにとんぼ返りという残念な思いをしてしまった映画。マイナー映画と思っていたら、朝のTVで紹介されていたのだそうです。
 それから半月ほど待って再度映画館へ行ったわけですが、結構座席埋まっていました。

 ゲイカップルが施設からさまよい出てきたダウン症の少年を保護し、「家族」として愛情を注いで楽しく暮らしていく。しかし差別と偏見に満ちた世間様とお役所は、同性愛者が「親」になることを認めなかった・・・・
 70年代米国で実際にあった裁判を元にした脚本だということ。お話として脚色した部分も多いようです。
 アラン・カミング演じる主人公の愛情深くてエモーショナルな人柄、実際にダウン症の少年をマルコ役に起用、ラストも切なくてすすり泣きが聞こえてきました。
 上手くまとまったいい映画だったと思います。でも、思ったより薄味でした。一般受けにまとめすぎちゃったのか、衝撃が薄くて普通っぽくなってしまった感じです。
 普通でなかったのは、作中にたびたび登場する歌唱シーンだったと思います。結局、この映画は主人公の魅力が大きいのです。ゲイバーの舞台での明るい強さも、失われた愛すべき日々を歌う、哀切も。
 ある人が流行りの「アナ雪」(私はまだ観てない)を、ミュージカル化確実、と言っていたのを思い出しました。
 血のつながりのないゲイの父親は、薬物中毒の実の母よりも「親」として劣っているのか。子供が「親」を慕う気持ちは、大人の判断の前で退けられてしまうのか。
 人間の本当の姿を。本当の居場所を。
 ありのまま受け入れられれば、悲劇は起こらなかったのに。

「小さいおうち」2014/03/08 21:54

ダブルヒロイン映画で、ベルリンで女優賞取った時には「どっから切っても華のある松たか子よりも、絵にかいたような田舎出の娘さんな黒木華の方が外人には受けるのかー」なんて思ったものですが。観て、納得。
時子奥様は女性としての美しさ華やかさと同時に感情的になる面もあって、ある意味これも典型的な女性像。劇中で「風と共に去りぬ」を読むシーンがありましたが、なるほどスカーレットを日本風に縮小させたと見えなくもないです。
女中のタキちゃんは大人しくて地味に見えても、純朴で良く働いて奥様に一途にお仕えしますって感じで、みんなから愛されるタイプ。控えめなところが、好感度高い。
黒木さん、昨年は「船を編む」とかドラマ「リーガル・ハイ」とか、「おおかみこどもの雨と雪」で声優もやってたり、大いに活躍中な若手女優さん。今回は東北娘でしたが、大阪出身ですしいつか関西弁キャラもやってほしい。
しかし、華やかなダブルヒロインが及びもつかないほど円熟の存在感だったのが倍賞千恵子さん(平成時代のタキちゃん。「永遠の0」といい、戦争中と現代の若者を交互に描く形が今の流行っていうかやりやすいのかなあ)でした。さすがでした。
ストーリーは、不倫モノとも百合映画とも見えるのですが、私には戦争映画のイメージが強かったです。物語の中心は小さいおうちの中の小さい出来事、なのですが、それに影響を与える大きなもの、戦争の存在感。「戦勝大売出し」とか浮かれ騒いでいるのが、日本が泥沼に転がり落ちる入口だったと、現代に生きる我々には分かっているわけですが。
女性たちの着物や、昭和モダンの調度がオシャレ。それなのに、時々画面が人形劇のセットみたいに見えるのが不思議でした。小さいおうちも、なんかママゴトみたいに。
終盤に絵本が出てきて、そういうコトなのかなあ、と思いました。小さいおうちの、絵本のイメージで撮っていたのか、と。

「大統領の料理人」2013/09/30 09:36

残念なことに、歌うように流麗なフランス語でレシピを唱えれれているのを聴いていると、眠たくなってきてしまいます。
もっと、小気味の良い映画化と思っていました。
主演のカトリーヌ・フロのチャーミングな笑顔に騙されてしまいそうですが、結構、しょっぱいお話だと思います。
男社会のフランス料理界で、エリゼ宮でミッテラン大統領のプライベートキッチンを預かる身となったヒロイン。オルタンスは素材の味を生かした素朴な家庭料理で大統領の心をつかんでいくのですが。
しかし、ニッポンの料理漫画のような華々しい展開にはなりませんでした。
熱心に、自分の最高の仕事をしようとするオルタンスですが、制約の多いエリゼ宮で、ストレスがたまっていきます。気苦労が多く、報われることの少ない職場。
過酷な環境でこそ、やりがいがある。なんて大統領は言っていましたが。
結局、二年で、彼女はエリゼ宮から去っていきます。
で、その後の再就職先が、「南極料理人」!
同じ男ばかりの職場でも、エリゼ宮よりもっと過酷なイメージです。しかしそこでのオルタンスはイキイキした表情で、基地の男たちからはオフクロさんって感じで慕われています。
むしろそっちの方をメインに描いた方が面白かったんじゃないかと思うんですが。
でも、描かれていなくても、なんとなく、分かります。
彼女は持ち前の明るさと、熱心さと、美味しい料理で、自分の居場所を確立していったんだろうなあ。