「プラスマイナスゼロ」2012/05/13 11:47

 このふたりには、たぶん、わからない。
 でも、それはどうでもいいことなんだ。平凡なわたしが言いたくても言えず、やりたくてもできないことをやれるカッコイイ女と知り合えたことにくらべれば、どうでもいい。とてつもなく不運なのに前向きで、ちゃんと他人をかばったり思いやったりできる女と仲良くなれたことにくらべたら、どうでもいい。

 軽いモノを読みたくなると、やっぱり若竹七海です。短編連作学園モノ。ミステリや幽霊も出てきますが、本書はやっぱり、個性的な女子高生三人の愉快なやり取りが楽しいです。昔読んだ「スクランブル」みたいな。
 プラスとマイナスとゼロ。全然タイプの違う三人がなぜか一緒につるんでいるわけですが、「ゼロ」である平均的平凡少女が、一番言うことキツくってイイです。
 アル中DVの夫に深夜にお酒を買いに行かされてひき逃げにあってしまった可哀想な主婦に対しても、本気でどうしても嫌なら逃げたり離婚したりすればいいのにそれでも一緒にいたんだから当人も納得してたんでしょ、てな、辛辣さ。
 可哀想な人に対してもバッサリ!な毒の要素と、それをユーモアで包んでしまう、このバランス感が、読んでいて安心できます。
 今回はお気楽な高校生が主役なので、毒の部分は薄目で、ばかばかしいお笑い感が多め。
 文章もリズムのある一人称で、通勤時にサラッと読むのに最適でした。

「死んでも治らない」2010/10/21 23:52

 短編ミステリの面白さがギュッと詰まっていて、伏線の張り方がきっちりしていて、シニカルで、読後感は全然すがすがしくないのです。でもハマッたら病み付きです。
 大道寺圭は元警察官。警察官時代に遭遇したマヌケな犯罪者達の話を本にして出版したのだが、それをきかっけに、次々とトラブルに巻き込まれて……
 犯罪者たちのマヌケっぷりを描く、というとユーモラスな感じがしますが、この作者の特徴は人間の醜い行動をさらーっと、しかし容赦なく文面に叩きつけるところ。ユーモアをまぶしてあるので暗い話にはならないのですが、犯罪者たちよりも何よりも、主人公である大道寺が一番コワイ人物に思えてならない……
 書き下ろしの「大道寺圭最後の事件」は微妙でした。彼が警察を辞めるきっかけとなった事件で、各短編になんとなくリンクしてはいますが、ちょっと苦しいというか。ぶっちゃけ、話を五つに分断して各短編の間に挟んであるのが、読み辛いのです。何度かページを後戻りして筋や伏線を確認せねばなりませんでした。
 警察辞めてからも事件続き(というか辞めてからがタガが外れたように本領発揮)なので、全然「最後の事件」じゃないっていう若竹流の皮肉なんでしょうね。

「ヴィラ・マグノリアの殺人」2010/10/03 01:18

 若竹七海の特徴は、作品内にちりばめられた「毒」です。この世の「悪」「不愉快」「下劣」といったマイナス要素を「皮肉」でまとめ上げつつ話が進行していくのですが、しかしその中に、独特のユーモアが漂う。
 犯人追跡シーンなんか、異様にハイテンションな喜劇として描かれて、ここは小説より映像向けな感じがしました。
 この黒いバランスを味わいつつ、事件発生と謎解きを楽しむのです。
 事件のあった住宅地の個性豊かな人々を調べていくうち、彼らの抱えるあれやこれやの問題ごと、人間関係の渦が次々と発覚していくサマは、クリスティーの作品(特に、マープル物)に通じるものがあります。
 最後はちょっとヒネリすぎ(というか、うまくいきすぎ)な気もしましたが。