「横道世之介」2017/08/16 00:19

吉田修一は、暗いミステリだけでなく、こんな、明るい青春小説も書く。
映画版も良かったのですが、原作も楽しい。田舎から上京してきた大学生の、バイトとかサークルとか里帰りとかデートとか、瑞々しくも普通な12か月を描きます。
主人公は、これと言って特技とか特徴とかがあるわけでもないのに、人々になんか忘れがたく、ほのぼのとした好印象を与えてしまう。
主人公の元カノが、こう評す。「いろんなことに、『YES』って言っているような人だった」
そう、そんな、図々しくも前向きな人。彼のそんなノリに乗っかって、読んでいる方もお気楽に。

「怒り」2016/11/07 00:17

日曜日の昼に買った玉葱が、月曜の夜にどろりと腐っていた、10月末日。
これって、怒っていいとこですね、ムカつくべきところですよね!
しかし、適切な怒り方って、なんなんでしょうか?
ブログ炎上させること?裁判で倍賞勝ち取ること?土下座させること?デモ行進すること?世界各地に慰安婦像立てること?それで、相手に怒りを伝えられる?



吉田修一原作の映画はこれまでに4本観て4本とも自分内で大当たりだったので、5本目も期待していたのですが。
なんだかよく分からない。役者陣はみんな熱演で坂本龍一の音楽も最高なのに、「悪人」のような緊張感がない。それでも終盤にかけて徐々に盛り上げていって、でも最後に肩すかしな感じ。凶悪殺人犯は、何をそんなに怒っていたのか、単に常軌を逸した狂人の犯行としか解釈できません。
釈然としない不完全燃焼さを解消するため、原作本も読みました。(映画みてからすぐ原作読むのって私には珍しいことです)
結局、どういう回路で怒りに火がつくのか、他人からはその内情はなかなか見えないんだってことでした。
怒りのあまり、人を殺害せざるを得なくなるお話。
なのですが、序盤は、不満はあるけど怒れない、怒っても仕方がない何も変わらないという、諦めた人々の物語でした。それぞれ不安な現実を抱えながらも、徐々に明るい方向に向かいそうでいて・・・・それが破られる。
内情はなかなか見えない、そんな他人を信じるとは、どういうことか。
この作品の特徴は、相手を信じたパターンでも信じきれなかったパターンでも、どちらも破局を迎えるということ。
しかし、結果として、自分の弱みに付け込まれ相手を信じきってしまった方が、自身や周囲に与えたダメージが大きい。怒りという名の、魔に付かれてしまって。
逆に、信じたいけど信じきれなかった方が、戦う力を持つことになります(ここら辺が、映画では描写不足だったと思う)。衝突や後悔という苦難を伴っても、そこから何かが生まれてくる。
作中で、疑ってるっていうのは信じてるってこと、っていう逆説がちらりとありましたが。
なんか、分かります。

「おれがあいつであいつがおれで」2016/10/23 23:49

「君の名は。」で唯一物足りなく感じたのは、シリアスに入る前の入れ替わり編を、もうちょっと長くやってほしかったなあ、というコト。
その補完、というか。
小学生のときに読んだ「山田ババアに花束を」、最近のドラマで「民王」などなど。
中身入れ替わりものって、エンターテイメントやるなら必ず通らなければいけないかのごとく、たくさんの作品があります(でも外国ものでは聞いたことがないなあ。宗教観の違い?体を乗っ取るのは常に悪魔の役目)が、私の知る限り最も古いのが、山中恒作の、児童小説。映画「転校生」の原作?
序盤から、仲良し幼稚園児がババアをぶっ殺し、小6で再会して男女入れ替え生活、という、なんかこう、突き抜けきった感じのコメディです。

ほんとに男っていいなあ。前のボタンをはずして、ちょんとつまんで、シャーッとやって、あとはブルンブルンとやって、さっとしまえば、もう、それでいいんだものなあ―


描写が、リアルすぎて爆笑。小6男子の一人称って、バカっぽさと遠慮のなさとその源となる根の真っ直ぐさが最高です。女子視点で描いたら、もっと悲観的だったでしょう。
混乱や不安を共有することで二人の絆を深めるのは、お約束です。

「ジョーカー・ゲーム」シリーズ2016/07/03 23:27

この小説は前から気にはなっていたのですが、アニメ版の1、2話を見て、文庫全巻購入決定です。
化け物、と呼ばれるほど優秀なスパイ組織の物語。例えるならば、「暗殺教室」の理事長先生を複数名集めたような感じ。暗示能力が非常に高いところとか。
小説は短編集で、アニメは基本的に一話完結型。どちらもすとーり粗っぽい所もあるのですが、全体的な雰囲気……妙にスタイリッシュでスマートな感じが持ち味で、それで色々誤魔化されてしまいます。
小説は第一巻が最もクールで、ミステリーとしての完成度が高いです。後になってくるほど「化け物度」が高くなるっていうか。スパイが記憶喪失になったら業務に支障が出ないわけないやん、いくらなんでも。
アニメは、全員モブ顔のイケメンというのが斬新。スパイだから個性的じゃダメなんです。性格だって全員似たようなっていうか、彼らのボス、結城中佐を若くしたよな感じで。顔と名前が全然一致しなくても、それで良しという……、むやみに「キャラ」を立てようとする昨今、かえって新鮮な設定です。
ストーリーを原作と変えているのもありますが、「誤算」なんかはアニメの方がすっきりして分かり易いとおもいました。それから、「柩」は、原作通りなんだけど原作より感慨深い……キャラに絵が付くことによる効果がビシビシです。
原作で細かい時代背景の説明、アニメで情景描写や人物描写。両方合わせてより多くを楽しめる。メディアミックスというやつの、これは理想形だと思いました。

「とかげ」2015/11/22 23:58

評価も人気も高いのに、いまひとつ、その良さが分からない。
私にとってそうした作家のひとりが、よしもとばなな。
今回読んだ短編集は、いずれも主人公たちが心の奥に錘のようなものを抱えていて、それが彼らの人生・精神に影を宿している。それが、何かのきっかけを以てして、日を遮る雲が霧散するかのように、晴れ晴れしちゃうお話ばかり。
理解できないわけではない。意識下あるいは無意識下に暗い思い出を抱えた人なんていくらでもいるでしょう。普通のことです。その影響下から抜け出す瞬間があるってことも、わかる。
でも、なぜか、ひどく、彼らの救われかたが安易に思えてしまう。段階を踏んで癒されていく方が私好みなだけなのか。
トコロドコロに、妙にポエムっぽい甘ったるい表現が混じるせいかもしれません。
いっそ、これが童話とか絵本とかだったらもっと受け止めやすかったと思う。
世の中に、いくらでもありえそうな痛みのお話を、あえてフワフワした世界に構築されているのが、なんだかしっくりこないなあ。

「PSYCHO-PASS ASYLUM 1」2014/12/20 21:16

 2020年中国のバブルがはじけ、世界経済は大混乱、全世界規模で暗黒時代に突入!
・・・・・なんか、普通にありえそうな未来予想図。

 PSYCHO-PASSの2期は色々残念な感じでした。
それでも映画に期待したいと望みを持ってしまうのは、1期が超私好みだったのと、1期の漫画版と過去編の小説版(PSYCHO-PASS/0 名前の無い怪物)も良かったからです。
そんなわけで、もう一冊、PSYCHO-PASS LEGENDシリーズを買ってきました。

「無窮花」 チェ・グソン
 外国人からみたPSYCHO-PASSワールドの歴史観やシビュラ・日本の姿がなかなか興味深かったのですが。
マッキーさんの傍らでなんか楽しげに悪事を働いていたグソンさんが、まさかこんな過酷な経歴の持ち主だったなんて。
とにかく痛い。残酷シーンのナマナマしさに、電車内で気分悪くなってくるほどでした。愛情も憎悪もあまりに激しく、狂気の領域。
その極度な純粋さが、マキシマさんの目を引いたのだなあ。マキシマの旦那の立ち位置のオイシサ、格好よさは流石です。
韓国映画の好きな人にはお勧めです。

「レストラン・ド・カンパーニュ」 縢秀星
 一転して、シュウ君の明るくて前向きなお話で色相をクリアに。
 あんたのせいで女が泣いた。そいつに恋していた男がブチ切れるには十分すぎる理由なんだ。
 幼少時から隔離施設で過ごしてきたとは思えない、人間に対する理解があるなあ。格好良いぜ。とっつあんの安定した頼りがいも良かったです。
 朱ちゃん配属の一年ほど前の飯テロ(異物混入)事件を通して、PSYCHO-PASSワールドの食事事情の歴史と、ご飯は大切だ、というおはなし。
 残酷シーンでビビらせてくれた描写力を料理の場面でも発揮してくれて、ちゃんとおいしそうでした。

初出が14年8~10月号SFマガジンなわりに、主に技術方面で「そんなんアリなん?」と思わされたのが残念だったのですが、まあ、世界観とキャラクターを描くのが主題なので、真面目にSFテクノロジーを考えるべきではないかな。

「大地の子」2014/11/05 22:49

香港の学生デモのニュースを頭の片隅に置きつつ読書。
 色々難しいものだと思いますが、どうにか、頑張ってほしい。
 切に思いました。

 山崎豊子作品は初めて読んだのですが、もう、圧倒的でした。魂籠った力作。こういうヒドイことがあったのだと、歴史の知識としては知っていましたが、そんな薄っぺらい予備知識を蹴散らすような、リアリティです。
 文庫本で四冊。
 第一部は、戦後の逃避行と虐殺、国民党VS共産党内乱、文化大革命の狂気の中で、異国で孤児になった日本人孤児が、たくさん辛い目をみるお話。初っ端から狂ったような吊し上げシーンで、人間のキモい部分が全開です。
 第二部で、主人公の陸一心はようやく冤罪が晴れ、養父と涙の再会。そして物語は日中の製鉄所プロジェクトに移っていきます。
 第三部では、第一部であれほど苦悩した主人公が、実は超恵まれた境遇だったということが判明。一心の場合は養父母が出来た人間性だったおかげで大学教育も受けられ出世もできたのですが、大学どころか文字も読めない孤児たちが大勢。もっとも悲惨な例が、生き別れの妹ちゃんで、たった五歳で家族と離れて、貧しい農村でこき使われ、長じると嫁という名の奴隷として、妊娠出産夜のオツトメがある分幼少時よりヒドイ有様。病気になっても治療もゆるされず、一目でもお母ちゃんの国を見たいと願いながら、しかし、女の子らしい幸せを何一つ味わうことなく辛いばかりの生涯を閉じるのです。
 第四部で、主人公は子供を探し続けていた実父と再会するのですが、そのためにスパイ疑惑をかけられ、またも冤罪で地方に飛ばされてしまいます。
 中国人として生きてきたのに、出自が日本人である限りいつまでもマイナスがついてくる・・・・
 はっきり言って、中国社会と中国人のイメージがメチャメチャ悪い小説です(日本帝国軍や日本政府の対応も相当嫌な感じですが)。語りが冷静な分、週刊誌の嫌中企画よりもよほどインパクトあるでしょう。
 権力闘争が、人々の運命を振り回す。
その苛酷さの中で、懸命に生きていく。

「さよなら妖精」2014/07/14 22:47

 90年代の紛争による地雷は、未だ処理しきれずに旧ユーゴスラビアに残されている。

 青臭さ万歳!な青春小説。ミステリ・フロンティアの出版ですが、謎解き要素はほんのオマケみたいなもんです。
 ボーイ・ミーツ・ガール、なのですが、ガールはワールドでもあった。
 薄くて温い平和の中で生きていた高校生が、全く未知の世界から来た外国人の少女と出会って、刺激を受けるお話。
 このマーヤちゃん、最初のうちは「なんて胡散臭い人物なのだろう」と思っていたのですが、お話が進んでいくとだんだん納得ができてきます。そういう国に生まれ育ったら、そういう考えや行動を持つ人間性が生まれるのかもしれない、と。
 そういうのって、重要です。他者に対する理解を深めることで、自分自身を深めることができるんじゃないかって思うのです。
 世界は、自分たちの知る範囲だけで構成されているのではなく、その範囲だけで生きていく義務などなく、その範囲だけで生きていく権利もある。
 すべての選択肢が残されている者と、
 失ってしまった者。

「春季限定いちごタルト事件」2014/06/28 10:36

 山本賞とりました、「満願」。直木賞候補にもなって。ラノベでいいモノを書ける作家は、大人向け小説でも評価されるものを出してきます。

 米澤穂信の「小市民シリーズ」。なんか、読んでてイライラしました、主人公二人が、性格悪くて。
 自分の性格に問題点があるのなら素直に「○○しすぎないように気をつけよう」でよさそうなものを、なぜか「小市民になろう」と決意するのが不可解で、「小市民」を強調すればするほどかえって小市民を小ばかにしているように感じるのですね。
 主人公のお友達(?)が似たようなことを指摘していて、この人はとても頼りがいのある好人物なのですが、でもいい人すぎて「こんな高校生いないよなー」って心のどこかで思ってしまいます。
 人物造形や話運びやタイトルのつけ方とか、全体的に机上の空論っぽいシリーズです。
 そんな小鳩君と小佐内さんが、小市民目指して高校デビューして、でも全然実態がそぐわないのが「春季限定いちごタルト事件」。
 そんな二人が一緒にいてやっぱり不協和音が起こってしまった「夏季限定トロピカルパフェ事件」。
 そんなふたりだからこそ一緒にいる意味はやっぱりあるんじゃないかとヨリをもどしちゃうのが「秋季限定栗きんとん事件」。上下巻の長編であるこれが、一番おもしろかったです。もう一人追加された主人公。瓜野くんが、主体的に動いているようで終始踊らされっぱなしだったのが良かったです。とんでもなくショボくて好感度の低い人物なのですが、でも「こういう人は、いそう」と思えて。
 順当にいけば「冬季限定○○事件」で小鳩君と小佐内さんは今度こそ叩き潰されて真に謙虚な人格に目覚めるか、あるいは観念して自分たちの性格と前向きに付き合っていくようになるかするはずです(予想)。
 でも、どうやったらこんな歪な人格が形成されるのか、彼らの中学時代のお話の方が、気になります。

「ふたりの距離の概算」2014/04/13 09:31

 平成22年刊の本書の前に、同シリーズが四冊あるのですが、そちらは未読。TVアニメシリーズで観たからまあいいか、と。
 普通はそんな中途半端な読み方はしないのですが、「省エネめんどくさがり高校生が校内マラソン大会走らされる」というシチュエーションがとっても面白かったもので、図書館で借りちゃいました。
 走りながら、推理していくお話。学園ミステリに分類されるのかもしれませんが、血なまぐさいモノではなく、学園生活の中での「何で?」を突き詰めていくモノで、ジュブナイル小説という方がしっくりきます。
 後ろめたいことがあると疑心暗鬼になって色々誤解を生んでしまうね、というオチなのですが、ちょっと強引な気もします。
 しかし、久しぶりに、スゴク面白いライトノベルを読んだ感じです。
 主人公による一人称が、淡々として理路整然。である一方で、同じ部活の女の子に対して微妙にモジモジと、距離感をはかろうとするあたりが微笑ましい。
 お友達との会話も、セリフの端々からそれぞれの個性がうかがえて楽しいです。
 すいすいと読めて、後味すっきり。

 何年か前に大学時代の友人M君が、筆者の米澤穂信さんによる別シリーズ作品をえらく推していたのを思い出しました。機会が有ったらそっちも読んでみようか。