「キャラクター」2021/07/03 22:18

タイトルの地味さで損をしている気がする。でも最後の殺人鬼のセリフの、アイデンティティ欠落な感じには、合っているかな。
映画作品で監督よりも脚本家の名がクローズアップされるのは、この方が某有名サスペンス漫画のストーリー制作に携わっていたから。主人公の漫画家と、猟奇殺人鬼がベッタリと対決するサイコサスペンス。とてもTVで放送できそうにない残酷血みどろ映像を大スクリーンで観ても大丈夫!な人にはおススメの作品。
菅田将暉くん主演の映画は今年二本目、ドラマ「コントがはじまる」も面白かったし、ホント、才能にも出演作品にも恵まれている。
ストーリーもキャスティングも十分な力があり、事件は幕を閉じてもまだ危機は完全に過ぎ去っていない不穏さも、余白も残してあるので、続編とかスピンオフ作品も作れそう。

「茜色に焼かれる」2021/07/11 21:45

映画の後、お昼に喫茶店でカレーを食べる。尾野真千子演じるヒロイン・田中良子が、コロナで経営していたカフェを閉店させたって設定で。

石井裕也監督のオリジナル脚本で、自粛の嵐吹き荒れる20年に撮影した嵐のような逆境映画。スマートな作品ではないし、希望とか清々しさとかも感じられませんでした。ポスターでは美しい夕暮れのシーンが、スクリーンで観ると嘘っぽくて、美しいのはヴァーチャルだけだと言わんばかり。
登場人物の一人(風俗)が、「ナメられてる」と繰り返す。そうだ、男たちは立場の弱い女をナメている。政治家たちは日本国民をナメている、IOCや欧米は日本やアジアをナメている。ないがしろに扱われる屈辱の現実を、田中良子は薄ら笑いで受け止める。受け止めきれなくなったとき、凶暴に爆発する。
昨年観た「MOTHER」も異様な母親と息子との絆の物語でしたが、今回のヒロインは、逆の方向にエキセントリックでした。信念に純粋で頑なすぎてみんなから「理解できない」と言われちゃう。自分のルールを貫いて負担を背負う。不本意だけど○○だから仕方がない……ああ、コロナの社会っぽい。彼女の繰り返す「がんばりましょう」が、虚しすぎる。
たった一つ残された灯は、息子が将来楽しみないい男であること。読書家中学生(設定)とは思えないスタイリッシュな身のこなしを見せてくれた和田庵くんは今後も俳優業(スケボーも)がんばって活躍ほしい。

ハルカス美術館、パリの女たち2021/07/17 23:51

ミュージアムショップで購入した絵葉書を並べてほくほく。
土曜でそこそこ人出はありましたが、ポスターにも使われたルノワールの美少女の撮影(本物を撮れるものなんだ!)はできるレベル。
フランスはパリ、特に女性像を中心とした本展、香水瓶や化粧道具(カワイイ)の展示があるところなんかポーラ美術館コレクション展って感じです。近くに寄ってタッチを見たり、離れて全体を眺めたり。
妖怪か、異星人か、ピカソの存在感。事物の多面性を二次元で表現するとこういう怪物じみた継ぎはぎになるっていう。普通に柔らかげに描かれた母子像の絵と並べられている。シンプルに明快に受け止めたり、複雑怪奇な深淵に手を伸ばしたり。
一点だけ展示されていた、ゴッホ。川辺で女たちが選択している風景ですが、青い水と空、そこに、赤いアクセント。なんで橋の上に血しぶき?って思いましたが、あれ木々なんだ。色彩感覚重視。

「烏に単は似合わない」2021/07/24 11:43

長距離通勤電車読書に、芥川龍之介全集第一巻(ちくま文庫)をチョイスしたのは誤りだったか。芥川初期作品の土台にあるシニカルっていうか底意地の悪いモノの見方に毒されてくる。「鼻」なんかようやく坊さんの念願が叶ったのに周りから「あの人整形なんかしちゃって、ぷぷぷ」ってリアクションされて前よりも不愉快になってしまう、可哀想だ。でも妙に説得力があって、刺さるって意味では確かに傑作なんだけど。
でも、ちょっとキツイ。もっと軽い読み物を。




思っていた以上に軽い、ライトノベルでした。
史上最年少松本清張賞受賞、続巻も次々発表されていて、前から気になっていました。文藝春秋社がラノベファンタジー分野の開拓に乗り出し、押してきた看板作品。
登場人物は人間じゃないけど使用言語は日本語な、和風ファンタジー。内親王の名前(藤波)からタイガースの速球派投手を連想してしまう時点で、ちょっと自分には厳しい世界観。
ストーリーはこれだけでは完結していません。なんか色々欠け落ちていると思ったら、続編で舞台裏が明かされる構造(未読)。
ほんの幼い時分に抱いた思慕の情が、年ごろになってからも大きな影響力を発揮する。人生を大きく左右するほどに。
そういうことはあるでしょう、そういう人がいても不思議とは思わない。でも主な登場人物みんなその傾向があるのは不思議。そういう世界観(カラスだから?)なのか、著者・阿部智里さんの恋愛観か。幼馴染万歳主義者かな。