「魔術はささやく」2023/01/15 22:25

宮部みゆきの出世作、日本サスペンス大賞。
前半は「火車」のような社会派でいくのかと思ったら、後半はSFみたいになって、ミステリとしては中途半端な気はします。
それでも、ちゃんと面白く読めました。各登場人物たちに説得力があり、軽妙な会話で飽きさせない。主人公の守くんは深刻な生い立ちですが、力になってくれる大人や友人がいて、変にねじ曲がることなく育ってくれました。
しかし、彼はそれだけの少年ではない。高校のいじめっ子に激怒して、逆に相手を精神的に支配することに成功する。
そこに鍵穴があり、それに合う鍵を用意すれば、中身は第三者の手の上に容易に転がされる。魔法の鍵は、取り扱い注意。それなのに、簡単に使ったり、使われたりするのです。
人の意識の底にある、欲望や不安を開く、魔術。クリスティーのポワロものにも、人を操るたぐいの事件がありました。
世界中で、人は、さまざまな形で魔術にかかり、自分では止まれぬダンスを踊るのでしょう。