「黄蝶舞う」2012/05/26 10:21

 作者の浅倉卓弥氏は、第一回の「このミス」大賞受賞者なんですが、本書はミステリではなく、頼朝からの源氏三代の衰退を描いた短編集です。
 律儀で論理的な性格なのか、実際の資料で読み取れることを提示したうえで「こういう解釈、こういう想像もできるね」って書き方で、歴史小説っていうのはそういう資料の隙間を想像で埋めることによってできるのだなって思いました。しかし、「ひょっとしたら」「あるいは………だったのかもしれない」てなフレーズが多くてちょっとうるさくもありました。歴史小説が「仮説」であることぐらいわかりますって。
 ただし、純粋な歴史ものってわけではなく、怪しげな呪術やら魑魅魍魎がうようよ出てきて、けっこう幻想的、とも言えます。この時代はまだ、そんな霊的なモノの庇護を受けたり呪われたりした世界だったのですね。と、わりとすんなり納得できるのは、平家物語の影響力でしょうか。
 大河ドラマでようやく活躍し始めた平清盛さんは、頼朝さんの回想と怨霊化した姿でしか登場しません。
 それと、読む順番を間違えたな、と思いました。治承寿永の乱を描く「君の名残を」を先に読むべきでした。登場人物が……
 作品構成は、頼朝の長女・大姫が二十歳そこそこでお亡くなりになる「空蝉」からスタート。小学校低学年くらいの年に許嫁だった相手をソコまで熱愛できるもんなのか?とも思うのですが、そこは、創作の妄想が膨らむところなんでしょうね。幼いからこそ純粋だったのかもしれません。
 次いで、「されこうべ」で頼朝さん落馬。大河ドラマで「友切」って呼ばれてた太刀が作中では「髭切」になっていたのですが。
 それから「双樹」で頼朝の長男・頼家さんが将軍職から追いやられて謀殺され、
 その弟、和歌で有名な三代将軍実朝さんの、なんか痛ましいほど虚しさいっぱいな生涯を「黄蝶舞う」で描き、
 頼家さんの息子さん・公暁君が「悲鬼の娘」でクーデターへの道を進んでいきます。この話だけは、直接怨霊の姿は出てきませんが、物の怪じみた人間は、出てきます。
 皆さん大変に不幸な運命を背負って(頼朝さんは自業自得な気もしますが)、一気に読むとちょっと欝な感じです。源氏の栄華がたった三代で潰えたのは怨霊のためっていうより北条氏が原因って気もしますが、源平の争いが収まって幕府ができても、御家人同士の争いなんかが絶えず、なかなか平和な世の中にはならなかったのです。
 浮かばれぬ魂が集まっているところ。……鎌倉という土地が、なんか怖くなってきます。

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