「笑いのカイブツ」2024/01/31 23:04

好きなことに夢中になる。それが、こんなにも痛々しいものなのだなんて。
血のションベンってワードに、震える。
ツチヤタカユキ氏の私小説を原作に、岡山天音が怪演。笑いのネタに人生を賭ける、というか、賭けざるを得ない。お笑い以外のことにはまるで頓着しない。
お笑い界に全力でぶつかっていく姿を描く一方で、お金の無いツチヤが色々なバイトをするシーンが描かれますが、勤労意欲ゼロ、まるで働けていません。方々で迷惑をかけます。
ひとことで言えば、駄目人間。
彼の情熱、努力、才能を認める人たちもいますが、周囲と上手くやっていけず、ツチヤは壁にぶつかります。
頭をぶつけ続け、壁に開いた穴を突き破って。
ツチヤはまだまだ、ネタを書き続ける。

「私を離さないで」2019/01/05 11:48

皇后陛下ご愛読の報道でいきなり英国のユーモア・ミステリ小説重版!というのにびっくりした昨年。たいしたインフルエンサーっていうか、ロイヤリティの力凄いや。

一昨年の「いきなり重版決定!」といえば、日系英国人ノーベル文学賞受賞効果によるものでした。ビッグタイトルの影響力。
一度読んでみたいと思いながらも未読なカズオ・イシグロ。まずは2010年の映画版から。Never Let Me Go
「いつか馬を5頭飼うの」少女の夢は叶わない。なぜならその学校の生徒たちは皆、大人になったら誰かに臓器を提供して「終了」だから。
ストーリー設定がSF的なのに、時代設定は近未来ではなく90年代半ばで、むしろレトロ感のある舞台なのがまず印象的で。
外界から物理的にも情報的にも隔離され、校長先生の言葉と不確かな噂話に包まれ、体の健康維持に努める。そんな生活の中でも、イジメがあり、友情があり、三角関係も生まれ……。臓器提供者たちの隔離が医療施設ではなく学校で行われるのは、それがせめてもの、彼らに対する「人権尊重」だからだった。
提供者たちは哀しい運命に牙を剥かず、ほのかな希望にすがり、そして「終了」。
最後の美しい映像と音楽とヒロインの独白が、しん、と胸に刺さる。

「藁の盾」2013/05/18 00:11

 何よりも、タイトルが秀逸すぎます。
 大金持ちが、孫娘を惨殺した犯人の抹殺依頼を新聞やネットで公表する。
 それだけのことでも、たくさんの人を動かして手の込んだ根回しを必要とする。ただ殺したいだけなら、凄腕の探偵を雇って犯人の潜伏先を突き止め、凄腕のヒットマンを雇って仕留めた方がシンプルで無関係な人を巻き込まずにすむのですが・・・・
 世間に自分の顔と名前を公にした上で、復讐したかったのかもしれません。そのへんの心境は、多くは語られていません。
 そんなわけで、殺せば10億、殺人未遂でも1億というべらぼうな賞金が、興味本位の人々と金に目がくらんだ人々と本気で金に困っている人々を狂気の渦へ引き込みます。
 それに対して、犯人を無事に護送する任務を負ったSPたちの、脆いこと。彼らの能力値とか状況の悪さよりも、「やる気」が出ないことが問題です。
 この殺人犯、どこまでも自分本位でムカつく言動しかしない「人間のクズ」で、「俺たちが命がけで守る価値があるのか」という疑念が、彼らの仕事を虚しくします。
 復讐心。
 醜悪な保護対象者。
 金の威力。
 これらに対し、「仕事」「使命」「プライド」「正義」・・・・・それらは弱くて脆くて虚しくて、すぐに消えてしまいそうで。
 だけど、彼らが守りたかったのは、そんな「藁の盾」そのものだったのだろうなあ、と思いました。

「わが母の記」2012/05/06 23:35

 青々とした、わさび畑。パンフレットに載っていた、鰹節とわさびをご飯にまぶして食べるってのをやってみたら、メッチャ美味しい!
 これは、公開されたら絶対観に行こうと思っていた映画。実際の井上邸で撮影されてたってあらかじめ知っていたら、役者そっちのけでお屋敷ばっかり見てたに違いありません。
井上靖好きで、卒論テーマにしたくらいなんですが、でも原作は未読。
 古き良き昭和って感じでした。風景の美しさ。人々の心の美しさ。お父ちゃんの育ての親が曾祖父のお妾さんだったって聞いて「フケツ…」てな末娘の反応が昔っぽい。
 妾って立場は、現代よりももっと、他人からは後ろ指さされるものだったのでしょう。しかし、作家の伊上は、実の母よりこの「土蔵のばあちゃん」に懐いていた。
 母と息子との確執。
 母が老いていって、記憶も判断も分けわかんなくなっていくこと。
 映画では、伊上の末娘にもスポット当てるのですが、素直に母親と息子の物語として書いた方がテーマがすっきりしたような気もします。宮崎あおい、十代の少女から大人の女性まで、上手に演技していましたが。
 女性たちの賑やかな映画でした。しょっぱなから、主人公の妹二人の喋くりで、主人公の子供も娘ばかり三人(実際は息子もいたのですが、けっこう、事実と異なる設定多いみたいです)で、さらに、奥さんに、メガネの美人秘書に、お手伝いさんに。
 主人公を役所広司がやっていたんじゃなけりゃ、女たちのパワーにかすんでしまってもおかしくない感じです。これもなんか、明るい亭主関白っぷりが、昭和のお父ちゃんっぽいのです。
 そして、樹木希林の、ちっちゃく丸まったオバアチャン。可愛らしさと憎たらしさを併せ持った「ボケちゃった」様子を好演です。さすがです。
 母と息子との関係性については、母親が渡したお守りとか、息子が母親をおんぶしたりとか、割と普通な演出でした。二人の演技も抑制されていたっていうか、直接ぶつかり合うってことがあんまりないんですよ、誰が誰かもわかんないくらい、婆ちゃんボケてるから。だからこそ、詩を読むシーンは、感動的だったかなあ。
 老人介護の問題は、確かに大変なんですが、でもどこか、微笑ましい感じもあって。わだかまりを抱えてはいても、ボケた婆ちゃんを邪険に扱う人が一人もいない。変わっていく婆ちゃんを嘆いたり、大変な思いをして腹を立てることがあっても、みんなで協力して面倒見ようとしている。
 みんなでやれば、介護って、アタタカイ。

「ワンピースフィルム ストロングワールド」2010/12/20 14:35

 昨年の邦画アニメーションで、No1だったとか。ちなみに今年の邦画は、「借り暮らしのアリエッティ」が一番だったそうです。どちらも劇場には行き損なっていたのですが、先日「ワンピース」の方がTV放送していたので観てみました。
 さすがというか、アクションが派手ですね。空中戦はジブリの如し。大画面で観るのにぴったりでしょう。でもこれを3Dにしなくても別にええやん、と思う。
 マフィア風黒コスチュームでの殴り込みもキマッていました。
 でもって、一番かっこう良かったのが、ゾロ。あんなにも方向音痴なのに、一対一の戦闘をやらせると格好イイナア。
 色々設定詰め込んでいましたが。
 最後にちらっと漏らした、敵ボスが「東の海」侵攻にこだわった理由。あれはもっと早い段階で描写してくれれば、彼とルフィ達とのぶつかり合いをもっと別の目で見られたかもしれません。