「木挽町のあだ討ち」2026/04/30 18:16

見たい夢を作り出す。
東映時代劇、主人公は武士で派手なチャンバラで始まりますが、メインは芝居小屋のみなさんの、心意気。
人を死なせる一芝居、人を死なせない一芝居。
武士の世界は「形式を通すためにそこまでやらなきゃならんのか」という残酷さ、情けは切り捨てご免。歌舞伎の武家物も、忠義のために女房子供を犠牲にするのが基本ですから。
そんな窮屈さを皮肉るように、心優しい少年を助けようとする心優しい大人たち。
しかし、……もっと早い段階で少年剣士に真相を教えてあげれば良かったのに。みんな秘密主義だ。

「国宝」2025/08/02 00:07

六月にリアル人間国宝の「残月」の静謐さに感銘を受けましたが。
話題の映画「国宝」は激しさや華やかさ重視の演目を揃えて、歌舞伎っぽいというか、映像で盛り上げるならこうこないと、っていう。
身も心もボロボロのグシャグシャになって死んでいく「曽根崎心中」の、必死の形相はちっとも美しくない。ただ、鬼気迫る迫力があります。
たどり着きたい場所、成就させたい舞台。
半世紀の時をかけ、主人公が歌舞伎界の御曹司と切磋琢磨したり血筋の壁にぶつかったりしながら、芸の他に全てを失っていくお話。才能は認められていたのに、師匠の養子にはしてもらえなかったのですよ。なんて孤独で、厳しい。
他の登場人物たちはけっこうエピソード端折られている感じですし、長い原作小説の方も今度読んでみようと思います。

「教皇選挙」2025/04/30 23:31

CONCLAVE
近々本物の教皇選挙が行われるし、映画の方も観に行こう。同じように思った人は少なくないのでしょう、劇場は人多く、パンフレットは完売の札。
ネタバレ厳禁。そうか、こう来るか。というラストでした。
世界中から選挙権被選挙権を持つ枢機卿たちが集まる。使用言語が英語だったりイタリア語だったり。公用語はラテン語なのでしょうか?
旧来のカトリックの姿勢を取り戻すのか、現代に合わせた改革を進めるか、アフリカ系初か、辞退したい者か、野心家か。
時期教皇が決まらぬまま投票が繰り返され、次々と波乱が起こる。
仰々しい宗教的権威が大写しにされ、同じ衣装の老眼男に埋め尽くされた画面はピントが合っていない部分が極端にぼやけ、呼吸音を息づかいとしてあえて聴かせてくるのがうるさく感じられる。ちょっと苦手な種類の映画です。
そこへ風穴が空き、亀が地を這う。

「カラオケ行こ」2024/03/23 12:21

友人が絶賛していた映画。漫画原作ですが、脚本家の野木さんが好きで、気になっていたのを、終映ぎりぎりで鑑賞できました。
悩める中学生・聡実君が、なぜかヤクザの凶児さんにカラオケのアドバイスをすることに。
組のみなさんのユルいこと。綾野剛はああいう型にはまらぬ図々しい系が本当によく合います。コイツこういう奴だからしょうがない、という謎の説得力があります。
正直、部長の立場にありながら部活に出られない聡実君は、どうかと思います。思うように歌えず、合唱から心が離れていく、揺れる思春期。
そこから、カラオケスナックの鎮魂の熱唱が炸裂。
肩の凝らない友情コメディです。

「コット、はじまりの夏」2024/02/03 22:47

2022年、アイルランド映画。英題「The Quiet Girl」のとおり、主人公はとても無口で内気な女の子。家庭にも学校にも居場所がないというか、露骨なイジメや虐待ではなく、「雑に扱われる」ってやつでしょう。特に、父親が最悪。対人関係において親しみやリスペクトが薄いと自己肯定感下がることってありえますよね。
あまり喋らず笑わないコットを、温かく迎え入れるのが、遠縁の夫婦。
「ハイジ」のパターンです。愛情と、田舎の美しい風景、素朴で生き生きした生活が、幼い少女の中に何かを芽生えさせる。
それによっておしゃべりになったりはしません。体を動かす方が性に合うタイプなのかもしれません。
そして最後に彼女の口にする言葉が、効いてきます。

「ゴジラ -1.0」2023/12/02 00:55

あの状況のあの場所で実況を行うラジオ局スタッフの職業魂も、狂気と紙一重の勇気。戦争の経験が生々しいあの時代、多くの男たちはまだ、武士のように命がけで戦う気概を持つことができたのでしょう。

主人公の前に最初に登場したときは恐竜サイズで、舞台が南の島だったのもあってジュラシックパークっぽかった。それが、核実験の影響で(多分)スケールアップして、なぜか日本の東京都を襲う巨大怪獣。
戦争で壊滅した東京、少しずつ復興して行く東京、再び理不尽な暴力で破壊される東京。
常識を超越する規格外の怪獣は、悪鬼よりもむしろ、神々しさを感じさせる。
でも、このゴジラは思ったほど、怖さは感じないのです。踏み潰しっぷりのえげつなさでは、「進撃の巨人」の衝撃がまだ記憶に新しいからかもしれません。
映像よりも、伊福部昭の偉大さを思い知らされました。
主演の神木隆之介の、鬼気迫る張り詰めた表情が印象的でした。彼の戦争を終わらせるための、戦い。戦わなければ、自分を生きられない。
周りを固めるキャラクターたちも、みんな、芯のしっかりした人たち。
令和のゴジラは、ヒューマニズムの物語でした。

「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」2023/11/23 13:31

友人が絶賛していたので、観に行った劇場用アニメ作品。
原作の鬼太郎誕生エピソードの前日譚に、こんな冒険があったとは。
前半はドロドロ系ホラー、後半は妖術奇術アクションのバディもの。
その他に印象的だった要素がありました。
戦後10年が経った日本の、閉鎖的な村で起こる怪死事件。見るからに不審な余所者が犯人として捕らえられ、制裁されそうになるところで制止の声が上がります。まだ犯人と決めつけられない、日本は法治国家なのだ。
あたりまえのことです。
しかし、それがどれほど、難しいことか。周囲が殺気立つ中で、一人、人道に基づく正論を述べる。力を欲し野心満々な主人公がみせた、まともさ。
墓土から這い出てきた赤ん坊は、異様で不気味に違いありません。それでも、抱えたぬくもりを虐げることができないのが、ゲゲゲの世界。
子供の頃、TVで観ていた鬼太郎の正義は、そんな人間愛だったなあ。

「ガザの美容室」2023/11/19 22:23

美容室内での、女たちの会話劇。
その外側では、ライオンを連れ歩いたり、銃声と怒号を響かせたり、ろくでもない男たちの世界があった。
何年か前に封切られた映画だと思うのですが、このたびの戦争によって、緊急上映。100円という、破格のお値段につられて観に行きました。
不条理劇、でしょうか。情報が断片的で、状況がよく飲み込めません。どこの誰がどういう理由で銃撃戦を始めたのか。女同士も、和気あいあいとはいかず、ギスギスした空気。
電気がない、自由がない、情報がない。蒸し暑い美容室内に閉じ込められた彼女たちは、ハマスもファタハも駄目だ、という点で同じ見解なのでしょう。
ただ、そんな閉塞感の中で、彼女たちに、いったい、どんな選択肢が許されているのでしょうか?

「君たちはどう生きるか」2023/10/07 23:32

とにかく、わらわらさんたちが、可愛すぎます。あの極めてシンプルな白一色のボディに、絶妙に緩い表情が最高です。

ジブリ映画の少年たちは、みんなすごく良い子。勇敢で思いやりがあって聡明で頼りになる。
しかし、宮崎駿監督の最新作では、年相応に拗らせていて、なんとなくニヤニヤしてしまう。表情は硬く時に攻撃的。眞人くんの引っ越し先は素敵なお屋敷ですが、人物と住まいとの作画タッチがはっきりと違うのも、現実(母の死や父の再婚など)を受け入れられない、現世からの疎外感を表現しているようにも思えます。
そうして引き籠もり予備軍みたいになっていた少年が、異世界での冒険を通して変化していく、という展開。
火災シーンの迫力や、屋敷に住み着く妖怪っぽい(失礼!)おばあちゃんたちや、アオサギの不気味さなど、中盤まではもの凄く面白くてワクワク観ていたのですが。
説明が省略されすぎでしょうか。異世界へ行く前、眞人は母親が自分に残してくれた本を見つけます。映画のタイトルにもなる、それを読んだ彼が大きな感銘を受けたことは想像できます。しかしどの言葉にどんな思いを抱いたのか、最後まで触れられず、なんだかタイトル詐欺にあったような気分です。
わらわらさんたちをはじめとする異世界での不思議な存在たちはなにがしかのメタファーなのでしょうが、世界の創造主が何を思ってああいう場を作り上げたのか。長い時を経て、筋金入りの引き籠もり空間に破綻が生じていたことは分かるのですが。
帰還の物語。
君たちの生きる世界へ、早くお帰り。

「ケイコ 目を澄ませて」2023/01/21 09:50

祝、毎日映コン大賞。三宅唱監督や岸井ゆきのも受賞。22年の主演女優賞は倍賞千恵子の総ナメかと予想していましたが、ベテランの円熟以上に若者の挑戦とひたむきさを買われましたか。

ボクシング映画をちゃんと観るのは初めてかもしれません。しかし、これが映画向きな題材なのは、分かったように思います。
鍛えられ、研ぎ澄まされた運動の美しさは、フィルムに焼き付けるのにとても相性が良い。
その一方で、この作品は、主人公の雑多な日常も、同じ重量で描き出す。
実在の聴覚障害ボクサーをモデルにし、みんながマスクをしている時代の不都合さもエピソードに盛り込まれています。しかし主題はそれではない。
ハンデを乗り越えてプロボクサーになり、ほぼ毎日ジムに通い、毎朝ロードワークをこなす。彼女の熱心さ、目の輝きは、雄弁に語ります。ボクシングが好きだと。
ところが、人間は複雑。トレーニングはキツいし、試合は勝っても負けても痛い。そんなところへ、お世話になっていたジムの閉鎖が告げられる。……辞め時か?
強くなんかない。
多くを語らぬヒロインの、素直な声を聴くために。
この映画は、観客の方こそが、目を澄まそうとする。