The Kings Man2022/01/09 22:49

英国貴族趣味にスパイ・アクションを取り入れた娯楽活劇。前2作品は観ていませんが、今作は組織の結成秘話過去エピソードで、初心者でも大丈夫。時代は第一次世界大戦、西部戦線異状なしの世界、塹壕戦映像まであります。
ハイテク機器なし、剣と弾丸メインの戦闘で、なんとなく、お宝のないインディ・ジョーンズみたいな感じのアクションです。楽しい。
昔からこの時代を舞台に、様々なスパイ小説や陰謀論が生み出されてきましたが、この映画も歴史上の人物が盛り込まれています。
なんといっても、ラスプーチンの存在感が面白すぎました。まさに「怪僧」、ロシアってお国柄だけでもなんか妖しい空気が漂ってくるのに。戦闘シーンもなんか対人戦闘っていうよりモンスターと対戦しているみたい。完全に主人公親子を食う。
約100年前、史実と伝説が入り乱れる世界に、英国紳士が暗躍する。

「たそがれ清兵衛」2022/01/05 10:36

剣客もの、に分類されるのでしょうが、収録の八つの短編は全て「ごますり陣内」「日和見与次郎」など、迫力に欠ける単語が並びます。
さまざまな事情から他者に侮られがちな主人公たちは、みな素朴に善人で、戦闘能力の高さを買われて藩の権力闘争に一役買うことになる。普段冴えない人物があるとき目覚ましい活躍を見せるって、わりと日本人に好まれやすい展開だと思います。
映画化もされた表題作は、権力より病身の妻を気に掛ける清兵衛の人柄が温かくて、しみじみします。しかし、同じような筋書きを続けて読んでいると、やっぱり飽きてきますね。
その中で印象的だったのは、「ど忘れ万六」。主人公は他作品よりも年齢設定高めで、物忘れのために隠居した親父さんが息子の嫁を脅すゴロツキを懲らしめる。腰を痛めながら。彼だけは暗殺者にならず、またドロドロの権力闘争も描かれず、ほのぼのしています。
藤沢修平を読むのは初めて。人間の暗さと素朴さ、両者を描くのに、白刃の一閃が繋ぎ目となる。

「偶然と想像」2021/12/31 23:38

ベルリンの準グランプリのおかげか、ほとんど会話劇な短編映画三本オムニバスという興行的には当たらなそうな作品なのに、劇場にお客さんけっこう入っていました。
春に観た「花束みたいな恋をした」も、こんな出来すぎな展開あるんかいって筋書きでしたが、そういう偶然から話を組み立てるの、流行なのでしょうか。
第一話は親友の恋バナの相手が自分の元彼だった話。古川琴音が放つ、何しでかすか分からん緊張感、怖かった。
第二話はイイお話に転がっていくかと思ったら、小さなミスからヒドイことになり、ラストはやっぱり怖い感じに。
第三話になってくると、だんだん眠くなってくる。前の二つに比べて「想像」の部分が大きい感じ。ただの脳内シュミレーションじゃなくって、そこに掛け合いの相手がいるコトで人の心は癒される。
ってことなのだと思うんですが、あくまでもそれは「仮想」であって、彼女が会いたがっていた相手ではないのになあって思ってしまう。「仮想」なやりとりだと思うと、やはり緊張感が減じてしまう。私の想像力が足りないだけでしょうか…

「推し、燃ゆ」2021/12/29 09:38

女子高生もの、再び。宇佐美りん著、話題になった芥川賞受賞作。綿矢りさの受賞作もアイドルオタクが主要登場人物で、よく引き合いに出されるのは受賞年齢の若さだけではなさそう。
生きづらい人生を、何かに熱中することで満たしていく。傍からは狂気に見えても、熱中対象から逆に吸い取られていくことになっても、やめられない。
現代的な要素・用語を使用しているけれど、テーマはそれほど革新的なものではないように思います。
それでも、平易な日本語で、主人公の切実さを伝えてくるパワーがあるから、極端な展開にも説得力があります。たぶん、こういうオタク心理に親和性が無い(あんまり免疫がない)人ほど、衝撃と熱量を感じるんじゃないでしょうか。
ただ自分、つい最近綿矢りさ原作映画を見たばっかりだったからなあ。そうでなければもっと面白く読めたかもしれません。

「ひらいて」2021/12/26 23:03

わたしのモノになってよ。
先週は、夢に向かって苦しみながらもがんばる高校生たちの物語に感動して。
今週は、がんじがらめになって迷走暴走三角関係な高校生たち。
綿矢りさの小説はたびたび映画化されていて、テーマ的には興味深く感じるのだけど、タイミングが合わないのと視覚的には地味なイメージで、これまで観に行くことはありませんでした。
今回の作品は、ハイスペック美少女の分かり易い闇落ちビジュアル変化とか、夜の校舎の高さとか、華やかで軽い折り紙展示とか、女子高生同士のベッドシーンとか、映像的な気合の入れドコロあり。首藤凛監督は、まさに高校生の頃、原作に出会って感銘を受けたという。
ヒロインの愛ちゃんは、優等生で可愛くてコミュニケーション能力も高くて、しかしその感じの良さは、打算的な仮面。遠方に住む父親相手には、お義理でも気の利いた言葉なんて出てこない。彼女の行動を一つずつ具体的に並べていくと、かなり痛々しい。それでも完全に突き放して見られないのは、彼女が美少女だからというだけではないでしょう。
三角関係の残りの二辺は、愛ちゃんとは別の意味で、一歩引いた、閉じた立ち位置で世界と対峙する。持病やモラハラ親に縛られる二人と、おのれの渇望に突き動かされるままなりふり構わぬ愛ちゃん。ピュアと、エゴ。静と動。どこまでも相容れない、踏み込めない。しかし、それらがぶつかり合うことで、化学反応が起こります。
そうして、閉じていた何かが、ひらかれるのです。

「ブルー・ピリオド」2021/12/20 22:29

振り返ってみると、今年はコンサートにはあまり行かず(昨年がベートーヴェン・イヤーで盛り上がったしね)、一月のロンドン・ナショナル・ギャラリー展を始めとして、美術展には割と出掛けたなあ。

アフタヌーン原作アニメは、超絶美麗作画とか人気声優大盤振舞とか、そういう派手さはないけれど、なんか丁寧な印象で、好感が持てる。エンディングに度々描き下ろしカット(原作絵)を入れて視聴者を楽しませてくれたり。たぶん細かいエピソードは端折っているのでしょうが、無理を感じさせずに上手に凝縮させて盛り上げる。作品の空気を掴むセンスがあるのだと思う。
第一話のブルーが、大変キレイでした。
青の時代、直球の青春モノ。美大受験のお話、だけど主人公はいかにもアーティストって感じの芸術爆発型ではなく、理性的な思考と熱心な努力を重ねるタイプで、観ている側も理解しやすく感情移入もしやすい。絵の楽しさに目覚め、悩んで苦しんで、たどり着いた一枚。素直に感動的。
八虎君たちのその後も気になるし、原作も読んでみたくなる。アニメと違って白黒なんだろうけど。

「風林火山」2021/12/11 12:28

久しぶりに再読、ですが、これってこんなに長いお話しだったっけ?印象的な部分だけ記憶に残っていて、細かい辺りはけっこう忘れていたようです。
基本的に、この物語はギャップ萌えの世界だと感じています。主人公の山本勘助は軍師として戦略戦術は怜悧冷徹、非情ですらある。それが若い可愛いお姫様が相手となると、くるくるおろおろ振り回されているのが面白い。
そんな彼の「夢」である由布姫もまた、二律背反を生きた人。「父を討った人の囲い者になりたくて、はるばるやって来るとは、国は滅びたくないもの」……武田信玄(晴信)に対する執着と反感、愛憎の狭間でグラグラしながらも、己の運命を生きるのです。
物語の中では触れられませんが、そんな彼女の産んだ男児が、のちに徳川家康に大負けし、武田家没落の象徴となるわけですから、人や国の興亡ってやつは、運命的です。
勘助のもう一つの「夢」である信玄については、天才と天然は紙一重っていうか、裏表って印象です。主人公じゃないのにどこかヒーロー感が漂う人物像。例えば不利な合戦の最中でも逆転勝ちを諦めない強気な姿勢とか。比べれば、勘助はやっぱり、歴史というドラマの主役に対する脇役キャラなのでしょう。
歴史の脇役と、負け戦。井上靖作品の2大キーワードです。

「燃えよ剣」2021/11/07 22:43

今年の大河ドラマも楽しく視聴しているし、先月末には明治時代の風景画展(行った気になってくるくらい東照宮の絵をたくさん鑑賞……)にも行ったし。
激動の時代にこころを飛ばして、いやでも、映画のキャッチフレーズは「時代を追うな、夢を追え」なんだけど。
京の暗殺集団・新選組についてはおおまかなストーリーはお馴染みなので、原作を濃縮高速展開されてもあんまり気になりません。
見所はまず、チャンバラ。集団戦あり、一対一の見せ場もあり、岡田准一の殺陣センス見せつけてきます。尺としては短いけど、函館の戦争を大規模に描いてくれました。その他の各シーンのロケ地も、豪華で雰囲気のある場所をチョイスしています。映像的に何の不満もありません。予算掛けています。
衣裳は、例のダンダラ羽織はあまり出てこなくて、黒(濃紺?)の上下がメイン。
なぜか、BGMがカルメンだったり、謎の無国籍ダンス(芸者ヴァイオリン)踊りまくるシーンは、好みが分かれそうです。
キャラクター的には、近藤勇が薄く芹沢鴨が濃く、山崎烝の大阪あきんど感が面白い。井上源さんはいいキャラだったけど、キャスティングが年輩過ぎませんか、四十前には見えない。徳川最後の将軍は神経質で逆境に弱そうで印象最悪。逆に、沖田総司の明朗さがとても好印象で、最後の無念さが引き立ちます。
土方歳三は、君主を失い友を失い、結局、何がしたくて血煙の中を突き進んだのか……。時代に迎合せず、ただただ己の筋を通してそこに到った男の姿。

「孤独な夜のココア」2021/11/06 14:49

こないだ読んだ男たちの恋愛小説集の中に、一遍だけ関西弁でしゃべる人物が登場しました。村上春樹の小説はセリフが芝居掛かっていて(オシャレ?)現実感が薄くなるイメージなのですが、コテコテ関西弁になるとナチュラルでびっくり。
次は、全編関西が舞台の、女たちの恋愛小説集。新潮文庫、綿矢りさが巻末解説ですが、時代は昭和。 十二編の大半が、二十代後半の女たちの失恋話。
たとえば、「怒りんぼ」では、すぐにカッとなる性質のヒロインが、自分を裏切って他の女のもとへ行く男のことを、怒ることができない。穏やかな性質の男は、自分が悪いのだから怒ってほしい、と言うのだけれど。カッとなって怒れた日は、悲しみを知らない日だった……
村上春樹作品が孤独と空虚感を描くのに対し、田辺聖子の描く恋心は、マシュマロのように軽く柔らかく、甘い。たとえ結ばれず、別れることになったとしても、想う相手へ向ける彼女たちの眼差しは」、可愛らしい幸福感を帯びる。
不安も後悔も苛立ちも、このトキメキがあってこそ。

「女のいない男たち」2021/10/23 12:13

先月観た映画の原作本。原作っていうか、原案っていうほうが近い気がします。多言語とか手話とか特徴的な要素は、脚本オリジナルだった。それでいて、元ネタ小説のニュアンスはどこか、残っている気がします。物語を生きる、演じる、その中からの生まれ出る本質的な言葉。
まあ、そもそも村上春樹作品は、解釈の幅が広いものですからねえ。
巻末の描き下ろし作品がこの短編集の表題作であり一番短かったので、それを先に読んだのですが、これが、独特のメタファーに彩られて具体性がとぼしく、つまり私の苦手な読みにくさなのです。
ところが、他の5編は、普通すぎるくらい普通に明確な物語。どうやら、私は読む順番を間違えたようです。女に去られた5人の男たちが抱える、空虚感。それを5つ積み重ねた後、抽象的な世界観へ入っていくべきでした。