「夜明けのすべて」2024/03/09 12:53

昨年主演女優賞だった岸井ゆきのが司会!
今年の日本アカデミー賞は、ゴジラと安藤サクラを優遇しすぎではないか。彼女が主演女優ノミネートされるなら、「怪物」よりも「BAD LAND」の方かと思うけど。綾瀬はるかに取ってもらいたかったなあ。



上白石萌音さんと松村北斗くんのW主演は、身長差萌え。両者、新海監督アニメの主演声優だった、その声で、モノローグやプラネタリウムのナレーション。言葉による語りが思ったより多い。
三宅唱監督は「ケイコ、目を澄ませて」でボクシングの動きで観客を魅了しましたが、思い返せばあの作品も、インタビューやトレーニングノートなど、言葉によって表現する部分も少なくなかった。
プラネタリウム設定は、瀬尾まいこの同名原作小説に無い脚本オリジナルだそうです。天体運行のダイナミックさの前では、人間の差異など病があろうがなかろうが極小の問題です。科学は意外と哲学的でスピリチュアルで、その客観性が優しい。
藤沢さんは普段は天然気味な気配り屋さんなのに、イライラを抑えられなくなる。
山添くんは元々優秀で向上心のある若者だったのに、パニックを起こしてしまう。
自分で自分をコントロールできない。「自分」とは、何か。
そんな生きづらさを抱える人に寄り添い受け入れる、そういう癒やし系は、今の時代に必要とされている。

「ヤクザと家族 The Family」2021/02/21 12:30

ヤクザに家族を作る資格などない、という現実。
先日観た「すばらしき世界」が感動的だったのでヤクザつながりでこちらも観にいったのですが、あちらで役所広司がなんだかんだ私的に公的にお世話になることができたのは、だいぶ昔に組とは縁を切って奥さんとも離婚して心情的にはともかく実質的にまっさらでゼロからやり直しできたのが、逆に幸いしたのです。
こちらの綾野剛は同様に長期服役していても、組に籍は残したままで女ともつながりを有していたものだから、悲劇。「すばらしき」でハミダシ者を援助せずさらに締め付け疎外することは社会にとっても悪循環、と弁護士先生がおっしゃるシーンがありましたが、まさにそのまんまな展開になります。
二時間半もある長い映画ですが、始めの方、古いタイプのヤクザが落ち目になる前、主人公が親分と盃をかわす。そこまでの展開の方が熱くてスリリングで面白く思いました。舘ひろしが格好良すぎる。チンピラの襲撃受けた時に焼肉屋のオカミさんを背中にかばうヤクザの親分さん。格好良い、けど男気ありすぎてかえってファンタジー。
西川監督と同様ご自身でオリジナル脚本を書いてきた藤井道人監督。要所を抑えたストーリーだと思いますが、男性が撮る方が浪花節っていうか、浪漫主義的になるのが興味深い。

「半落ち」2016/05/05 09:44

横山秀夫って、群像劇の名手なのでしょう。「クライマーズ・ハイ」を読んだ時も思いましたが。
警察官がアルツハイマーの妻を嘱託殺人。ひとりぼっちになってしまった彼が、自首するまでの二日間に何をしていたのか……
というのが軸になっているのですが、その事件そのものは割とあっさりした感じ(いや、重たい問題なんですが)で。妻殺しの梶さんよりもその事件にかかわった警察官とか新聞記者たちとかの人生を見せるのが主となっています。
辛いもの、寂しいモノをみんな抱えて生きている。
それでも生きる意味ってなんだろう。人は何のために生きるのか、誰のために生きるのか。

「横道世之助」2013/04/13 23:41

 吉田修一原作の映画は、「悪人」も「パレード」も大変良い出来でした。でも
この「横道世之助」は映画にはしにくい作品だと思っていました。
 なんというか、地味で。田舎から上京してきた大学生の一年間を描く。途中で登場人物たちの16年後(2003年)がポツポツ挟まれる構成も特殊ですし。
 しかし、大変評判がよろしい。そこで、まだ上映していた、テアトル梅田まで観に行ってきました。
 コメディでした。アハハハ、と笑う感じではなく、クスクスニヤニヤしながら観る作品でした。沖田修一監督は、「南極料理人」では微妙な笑いを醸し出していましたが。
 世之助を演じた高良健吾くん、端正な顔立ちのイケメン君なのに、もさっとした頭によれっとしたカッコウで、呑気で自由な、とても魅力的な若者を見せてくれて。
 160分もあるのに、全然長く感じませんでした。

「洋菓子店コアンドル」2013/01/02 16:04

 年末年始恒例の、深夜放送枠の映画。
 主演の蒼井優と江口洋介は、昨年観た「るろうに剣心」にも出演していましたが、それとは正反対な役柄でした。
 江口洋介はさすがで、渋い斉藤一でも、心に傷を負った中年役でも、上手いもんです。
 蒼井優は、正直言って、るろ剣の時みたいな艶っぽい美人設定は全然似合ってなくて、こういう田舎から出てきた娘さん役の方がしっくりきました。鹿児島弁娘。
 しかし、この娘さんの、好感度の低さにはビックリでした。
 男を追って上京するのですが、男の手紙の文面からも行先を知らせないことからも、明らかにフラれてるのに「別れてない」って探し回るのがまずウザい。男が勤めてた店をすぐ辞めちゃったと聞くとお店の人に対して「苛めたんだ」と決めつけ、そんな失礼なことを言っておきながら「男を捜し当てるまでここで働かせてくれ」って図々しさ全開です。
 店長さんがすごいイイ人で、ケーキ作りの腕前も店のレベルに全然達していない田舎娘を住み込みで雇ってくれたんですが、その店長に断わりもなく勝手に店の材料使ってケーキ修行してたり、先輩従業員と喧嘩して(この先輩がキレるのもよく分かる)勤務時間中に職場放棄するし。
 とうとう捜し当てた男も、まあ、ショボイ感じの人でしたが、それでもパティシエの腕を磨くために留学するって言ってるのを「無理」と笑い飛ばすことないでしょうが。「私には分かる」って、どんだけ自信過剰な娘だろうか。フラれちゃうのもすごくよく分かる。
 そして、つらい過去のためにケーキ作りを止めた天才パティシエに向かって「逃げたんでしょう」と何も知らないくせに決めつけ、そんな酷いことを言っておきながら「店が大変だから助けて」と図々しさがここでも炸裂。
 みんな、なんでこんな娘に親切なんだろう?
 ていうか、映画のヒロインがこんな態度悪くていいのだろうか?
 田舎から上京してきた純朴な娘さんって言えば、その明るさと頑張りでギスギスした都会人のココロを癒すもんだとばかり思っていたのですが。
 そんな先入観をぶち壊してくれた作品でした。

「夢売るふたり」2012/09/22 12:15

 主人公のふたりは、その心情を、あまり言葉ではあらわさない。だから観ている者はその行動や表情から色々読み取るわけですが、全然分からない異様なもののようで、でもなんとなく分からんでもないような気もして、でもやっぱり……
 この「分からなさ」がクセになるのが、西川美和映画の凄いとこです。
 結末は、割と普通のところに持って行ったなあ、と。話の大枠も、孤独に生きる女たちと、彼女たちに夢を与えて金を吸い取る男って、そんなに珍しいモノでもないでしょう。心細さを抱えながらもシャンと立つ女たちの生き様、大都会に集う地方出身者たちに、スカイツリーを臨む新店舗の夢。
 音楽は全編通して夢のように眠たげで、序盤の火災のシーンなんて結構力のある映像なのに、BGMはトロンとしている。
 最初のうちは、コメディ調でした。夫の貫也を演じる阿部サダヲ個人のパーソナリティが、大きかったです。優しくて、愛嬌があって、弱くて、ダメな男。こういう男って確かに世界に存在しますが、しかしよくよく考えてみると、女たちに対して共感や安らぎを感じていながら(騙すための演技とは思えない)、それでもシレっと金を取っていくのって、どういう心理構造なんでしょうか。夢のためなのか、妻のためなのか。
 このお話の最大の特徴が、妻の里子が男の共犯っていうか、むしろ主犯なところでしょう。里子自身が、貫也に尽くして夢を見る女であったことが、だんだん分かってきます。しかし夢は奪われた。夫の浮気によって。里子は怒るべきだった。実際に猛烈に怒るのですが、その怒りが、状況の受容に変化してしまった。彼女が夫の詐欺行為を猛烈に推し進めてしまったのは、「女が尽くし、男が夢を見せる」彼女たち夫婦の在り方を肯定することだったのでしょうか。単に、夢破れてもなお、夢を見続けたかったのかもしれません
 騙した女たちからの借用書をズラリと壁に貼り出す里子。彼女はお店を火事で失っても、夫=夢があれば、とてもいい笑顔でいられました。しかし、彼女は新しいお店を作る資金を得るために、自分の夢を売り出してしまった。夫が夜を他の女たちと過ごしていく一方で、妻はカサカサに乾いた現実に蝕まれて笑わなくなっていきます。
 里子のジレンマを、松たか子が好演。

「容疑者Xの献身」2011/01/12 23:12

 原作未読、TVドラマ版のガリレオシリーズも観ていなかったのですが、劇場作品をTV放送していたので見てみました。
 福山雅治カッコいいー。坂本竜馬はキッタナイカッコしていてもなお男前で感心しましたが、ガリレオは普通にしゅっとした身なりをしているのでホントに格好いいですね。
 これだけ福山ステキと言いながら、でも猛烈に上手かったのは天才数学者を演じた堤真一です。数学の問題解く時、事件を察知した時、母娘を見る時、友人であるガリレオと向かう時。その時々での表情の微妙な感じ、そしてラストに溢れ出した感情、秀逸でした。
 柴咲コウ、松雪泰子の女優陣もそれぞれの持ち味出てて。
 事件のトリック(さすが、ヒントも伏線もきっちりしてます)も話の展開(正に献身)もなんとなく読めましたが、最後までちゃんと面白かったです。
心に染み入るエンディング曲、何度も巻き戻して余韻を味わっていました。

「ゆれる」2010/03/14 02:55

 故郷の田舎町で、対照的な性格の兄弟が再会し、そこに一人の女が絡み、そして揺れる吊橋の上で、「事件」が起こり……
 一月半ばに深夜TVでやっていたのを録画して、本日ようやく観る事ができました。2006年当時、非常に評価が高かったのに、見逃してしまった作品。でも、TVの作品紹介で「上質のミステリドラマ」とあるのは、どうかと思いました。あの真相は、ミステリとしては不満ですよ、推理小説ファンとしては。実際は、そういうことも在るのだろうと思えないことも無いのですが。
 しかし、今年度の「ディア・ドクター」はかなり最初の方から主人公の秘密を明かしたうえでハナシを進めたのに対し、「ゆれる」では、最後のあの記憶が出てくるまで、ずっと緊張感のある展開でした。兄さん役の香川照之、イイヒトだけど怪しくって屈折した感じが凄く効いています。
 で、オダギリジョー演じる写真家の弟も、どこか屈折していて。最初は印象悪い人だったのですが。この人がチャラい見かけに反して結構潔癖な人でそしてお兄ちゃんを好きすぎたバッカリに話がややこしくなったわけです。
 この兄弟のその後が、気になるなあ。