「コット、はじまりの夏」2024/02/03 22:47

2022年、アイルランド映画。英題「The Quiet Girl」のとおり、主人公はとても無口で内気な女の子。家庭にも学校にも居場所がないというか、露骨なイジメや虐待ではなく、「雑に扱われる」ってやつでしょう。特に、父親が最悪。対人関係において親しみやリスペクトが薄いと自己肯定感下がることってありえますよね。
あまり喋らず笑わないコットを、温かく迎え入れるのが、遠縁の夫婦。
「ハイジ」のパターンです。愛情と、田舎の美しい風景、素朴で生き生きした生活が、幼い少女の中に何かを芽生えさせる。
それによっておしゃべりになったりはしません。体を動かす方が性に合うタイプなのかもしれません。
そして最後に彼女の口にする言葉が、効いてきます。

「哀れなるものたち」2024/02/18 12:15

静かな舞踏のように絵画的な、飛び降り自殺。
改造手術を受けた主人公のベラは、体は美女、中身は幼児として成長していきます。
それ故に、見えるものがあります。独特の異空間に、異形の生き物。
異形なのは、私たちみんな、哀れなるものたち。
禁忌、常識、節度などの枠が無く。
好奇心、知性、自己と他者に対する愛が有る。
性行為の快楽を大いに肯定してアラレもないシーンも満載ですが、エロさはまったく感じられません。
ヨルゴス・ランティモス監督は、エマ・ストーン演じるベラの冒険を通して、まっさらな人間の本質を暴き立てていくのです。
それは魅力的でもあり、恐ろしくもあり。くすっと笑って明るく鑑賞するのが正解とも思います。

「授乳」2024/02/24 16:34

芥川賞を受賞した「コンビニ人間」で一世を風靡した村田沙耶香のデビュー作と、「コイビト」「御伽の部屋」の計三編を収めた、講談社文庫。
三つとも若い女性が主人公。表向きは大きな問題は無いような顔で、しかし内実は、人間世界から透明な膜で隔てられたように生きている。彼女たちの魂が生きているのは、自身で作り上げた仮想世界で、具体的には、家庭教師との授乳ごっこや、ぬいぐるみや、同年代の男との演技空間です。
芥川賞受賞作と、基本は同じ。あれは、主人公にもっと年齢を重ねさせ、誰もがおなじみのコンビニというシステムを仮想世界の装置として設定したのが強烈でした。
コンビニ人間よりも若いヒロインたちは、コンビニよりも頼りない世界で息をする。
時折、現実の、まっとうな感覚に脅かされながら。
彼女たちに、安住の地はあるのか。