「夫婦善哉」2012/04/01 00:12

 年中借金取りが出入りした。
 との書き出しながら、全然暗い感じのしない、テンポの良い文章、大阪弁。
 今までちゃんと読んだことはなかったのですが、話の筋は、有名です。芸者の蝶子さんがB級グルメの食べ歩きが趣味な坊ちゃんの柳吉と駆け落ち。甲斐性のない旦那をしっかり者の蝶子さんが支える。
 しかし、蝶子さんがどんなに頑張って貯金しても、柳吉が浪費し、仕事も長続きしない。裏切られるたびに怒ったり落ち込んだりの蝶子さんですが、結局許して、柳吉の両親に晴れて夫婦と認めてもらうことを目標に働くのです。
 そんなことが何度も繰り返されて、だんだん、蝶子さんが可愛そうに思えてきます。
柳吉の見え透いた嘘を信じて貧乏して報われない努力を続ける彼女は、実はアホなのではないだろうか?
 そう、実は、柳吉の方が、ダメ人間の癖に強かで計算高い。蝶子さんはしっかり者ですが、損得勘定できていないというか。彼女は、明らかに父親似です。美味しい天麩羅屋さんだけど経済観念がなくて「年中借金取りが出入りした」家庭環境ながら、愛情深い父親に。
 何度裏切られても、幸せそうに夫婦二人で善哉を食べに行ける蝶子さんは、アホかもしれないけど、勝ち組なんだろうなあ。
「アホほど強いものはない」

第84回センバツ、準々決勝-幻の同点スクイズ2012/04/01 16:55

一昨日
大阪桐蔭3-2浦和学院    健康福祉高崎9-1鳴門
今日
光星学院5-2愛工大名電   関東一4-2横浜

 今日の第一試合は、明治神宮大会決勝カード。レベルの高い攻防でしたが、しかし、リベンジはならず。
 買い物から帰ってTVをつけると、いきなり初回から先制されていた、愛工大名電。浜田投手は、中盤はバンバン三振を取って調子よかったのだけど、表情は硬かった。終盤に光星打線に捕まって追いつかれ、ランニング本塁打で逆転されてしまう。
 光星学院は、いいリリーフした投手のエラーから勝ち越されてしまうという嫌な失点のし方をしたけど、強打という武器があると、やっぱり強いなあ。

 横浜の、あの三塁走者、悔しくて眠れないんじゃなかろうか。
 スクイズで同点、と思ったのに、関東一の捕手・中谷は冷静だった。ホームベースを踏んでいないという、アピールプレイ。そんなことあるんや!
 ミスの少ない緻密な野球をすると思えば、どこかでツメの甘い横浜高校。
 実力伯仲した好ゲームでしたが、打たせて取るエースの好投、四番の安打、野手の好守備と、関東一がいろんな面でちょっとずつ、上を行っていた。

第84回センバツ、決勝-打ち合い勝利2012/04/05 00:39

 お仕事始めたから、ほとんど試合を見られなかったし、天候不順もあって水入りの多いセンバツでしたが、大阪代表が最後まで残ってくれていると、やはりテンションあがります。期待を込めて、試合結果を気にして、ほんのり胸が高鳴ります。
 ありがとう。そしておめでとう、センバツ初優勝。
秋の王者・光星学院は、新チームになってから負けなしの優勝候補で、センバツでもその看板にふさわしい、危なげない勝ち上がり方をしてきました。走攻守どこをとっても隙のない、文句なしの強豪です。
しかしそれでも、それだけではてっぺんに立てないのです。なんか、大阪桐蔭が負けるイメージはありませんでした。地元びいきの期待感故かもしれませんが、でもどちらかといえば、光星学院のイメージが良くないだけかもしれません。
選手はほとんど関西などからの野球留学生で、地元青森出身者はどれほどいるのか。昨夏準優勝後に、野球部員の飲酒事件なんかもありましたし。
才能ある選手集まっても、優勝旗をつかむには、何かが足りない。これは光星学院というより、東北地方という地域に何かが足りてないような気がします。
でも、夏春連続で準優勝ってのも、気の毒だよなあ。夏みたいな点差の開いた試合にならなくて良かったけど。
大阪桐蔭は、打線に勢いがつくと、ホントに負ける感じがしません。四番打者が怪我で戦線離脱してるっていうのに。初回から本塁打ぶっ放して相手の出鼻をくじくあたり、四年前の夏の、17点取った決勝戦と同じパターンですよ。

大阪桐蔭7-3光星学院

「ナイチンゲールの沈黙」2012/04/08 16:34

 今日の「題名のない音楽会」は、録画しておけば良かった。平原綾香のボイスパフォーマンスが、格好いい。ベーシストさんとのデュオ。もともとジャズの勉強していた人なんやなあ。
 人の声は、美しい楽器である。

 医療ミステリーのふりしたキャラクター小説、「チーム・バチスタ」シリーズの第二弾。大げさなあだ名をつけて気取った修辞で綴られるのは、この作者の特徴のようで、前回は一人称だったから「語り手がそういうキャラクターだから」と思えたわけですが、三人称でもこういう文章で突き進むようです。
 それだけならまだしも。
 歌によって、聞く人に鮮明なイメージ映像を見せることができるってのは、やりすぎなんじゃないでしょうか……
 医療ものであり、ミステリであり、キャラ小説であり、ファンタジーであり、さらにショタ(年の差……アカンやろ、小児科ナース)にまで領分を広げるとは。
 重い運命を背負った小児科病棟の子供たちと、ネグレクトな父親が殺害された事件ってのが本筋なので、そこに絞ればよいものを。いろんな要素が含まれる小説は嫌いじゃありませんが、この作者にはそれらをバランスよく配置しきれないんじゃないでしょうか。
 だから、前半はかなりタルいペースで、それを突き破るキャラクターが登場してくる後半から、ようやく話に引き込まれてきます。
 子供相手に大人げない白鳥捜査官に加え、型破りエリート警察官僚も登場。もちろん愚痴外来のグッチーも前作と変わらずイイ人です。
 そして、ほんのチョイ役でしか出てきてない「ジェネラル」速水医師が、ホントにほとんど出番がないにも関わらず、格好良い……
 このシリーズ、第三弾もそのうち手を出すことになりそうです。

説明責任は要らない2012/04/10 23:10

 暖かくなったことはけっこうなんですが。
 早くも、夏の電力不足についてアレコレ言われています。
 正確に言えば、電力不足に対処するための原発再稼働について。
 原子力発電所の地元住民に対して、「原発の安全基準」について政府は責任説明を果たすのだという……アホじゃなかろうか。
 核エネルギーを扱うのは危険なことですし、絶対安全なんてことはありえないのだと、もう皆が知っているハズなのに(それでも知らないふりをしようとする人の、多いこと)。
 安全の保障がない安全基準を説明されても、まったく意味がありません。
 さらに言えば、原発を稼働しなくても原発も原子炉も消えてなくなるわけではないので、停止してたってどのみち危険なんじゃなかろうか、とも思う。
 それでも、原発を再稼働させるのであれば、その決定に、誰が責任を持つのか、はっきりさせるべきでしょう。
 総理大臣なのか。
 経産省なのか。
 電力会社なのか。
 経団連なのか。
 原子力の研究者なのか。
 地元首長や住民たちなのか。
 これまでずっと、「国策民営」でやってきて、福島の事故も国の責任なんだか電力会社の責任なんだか(共犯だと思うけど)、ウヤムヤのまんまです。
 原発の安全性について、自分が責任を持ちます。
 もし事故が起こったときは、自分が責任を持って被害を補償します。
 っていう人が一人もいないから、誰も「安全」を信じられないのですよ。

「第九軍団のワシ」2012/04/22 08:17

 THE EAGLE  2010年、米・英
 時は二世紀。近々公開されるという人気風呂漫画原作の映画と、ほぼ同時代なんですが。
 舞台は、ブリテン島。当時未開の地であった北方で、こつ然と姿を消した、ローマの第9軍団。それから二十年後、その第九軍団軍団長を父に持つ男・マーカスがこの地にやってきて、ブリテン原住民の奴隷・エスカと共に、父の消息と失われた鷲の旗印を探しに、ハドリアヌスの頂上の北へと旅立つ。
 主人公であるマーカスやエスカの誇り高く有能な人物像や、支配者と被支配者という立場を超えた友情なんかも描かれているのですが。
 しかし、印象的なのはリアルな世界観ですね。歴史考察がきっちりなされているのでしょう。当時のローマ歩兵の戦闘の様子とか、原住民の皆さんのいかにも「未開」って感じな荒々しくも不気味な風俗とか。荒涼としたスコットランドの風景に、北の島にまで拳闘場つくっちゃうローマ人。
 戦闘シーンの多い映画ですが、敵も味方も、戦う理由はただ一つ。
 己と、己の祖先の名誉のため。
 原住民の皆さんは一応主人公の敵ってことなんですが、悪者って扱いでもないんですよね。どっちかっていうと文明人・ローマの方が侵略者なんですから。
彼らは双方とも、誇り高く信念を持って、命を懸けて生きていた。

「タイタンの戦い」2012/04/24 00:03

 タイトルには偽りありなんじゃなかろうか。ラスボスは黄泉の神ハデスやったし。

 ギリシャ神話のペルセウスの冒険。いやー、正統派ファンタジーだ。RPGみたいっていうか、RPGのほうがこういった冒険譚を模して造られたんですが。
 もとがギリシャ神話なんで、ストーリーはアレな感じ(神様のやることも大概理不尽だ)なんですが、やたらピカピカ光る天界の神様たちとか、ニョロニョロの蛇女との戦いとか、怪獣映画さながら海から現る巨大なクラーケンとか素敵!
 そして何と言っても、ペガサスにまたがって空を駆ける勇者。ってのが、問答無用にワクワク感があります。
 ファンタジー世界を堪能するにはいい映画。
 これは日曜洋画劇場でみちゃったけど、続編もこのくらいデキがよければ、スクリーンで観てもいいかも。

「別離」2012/04/30 01:38

 パンフレットで解説されていた、イラン社会豆知識も興味深かったです。学校の先生がバイトで自分の生徒を家庭教師してるとか、映画見ただけじゃ「?」と思ったことも良くわかりました。
 イランって、石油が出るイスラム国で、仲の悪いイスラエルと張り合って核開発してるらしい??ってなくらいしか知らなかったのですが。
 元々親日派の国ですし、喧嘩相手を作らずにはいられない米国の主張に惑わされないで、今後も仲良くやって行きたい国だなあって、思いました。
 イラン好感度アップの主な原因は、この映画で丁寧に積み重ねられた、メッチャ普通な事象に親近感を覚えてしまうからですね。
 老人介護の問題とか、格差社会とか、自分のメンツを重んじる男たちとか、教育熱心な親御さんとか、でもいくら教育に力を入れても両親が離婚の危機にあって家族が別離するような事態になっちゃ思春期の娘さんは苦しみますよってコトを映画の冒頭で示唆して、ラストシーンでも、そこへ返っていきます。
 そんな、社会派ホームドラマなのですが、法廷ミステリとしても楽しめます。
 登場人物たちは、悪人ってほどのことはないのですが、しかしみんな、自分自身のそれなりに正当性のある主張に拘っていて、そのために衝突が起こり、チョットずつ良い道からハミダシた行動を取ってしまう。
 嘘が嘘を呼んで、事態が嫌な感じになって行って、でも最後に「コーランに手を置いて、誓ってください」と言われてしまうと、敬虔な信者である下層階級の奥さんは、「確信がもてないのに宣誓してしまえば、娘に災いが降りかかるかもしれない」……目の前の小切手と、自分と夫の面目を失ってしまうというのに、どうしてもできないのです。
 融通の利かないことです。異性や他人の排せつ物に触れることなんかにも厳格なイスラムの教えは、老人介護のお仕事でも不自由ですが、しかし、そういう自分に厳しい姿勢は、キライではありません。
 登場人物たちは誰も幸せになれず、どこまで後味の悪い映画です。ですが、人間の抱える普遍的な矛盾と、日本にはない異国情緒と、両方を実に巧みに見せてくれる作品です。