「荒地の家族」2023/07/16 23:01

地面が動く、などの表現が、結構好き。
同じく23年上半期に芥川賞受賞した「この世の喜びよ」とは、うって変わって、苦しみに満ちている。著者の佐藤厚志氏は本業が仙台の書店員、あの震災に関する現地の人による描写はさすがに重みを感じました。
話は、暗い。死のイメージが随所にちらつき、主人公の植木屋、坂井祐治の自己肯定感の低いこと。震災で奥さんと商売道具と故郷の風景を失い、その後も、色々上手くいかない。淡々とした文章で綴られる、荒涼とした心情、喪失感、虚無感、徒労感。
彼の母親や息子は、今現在の現実の上をしっかり踏みしめている感じなのに、主人公は背中にべっとりと過去の亡霊を張り付かせている。
もちろん、現在、というのは過去から切り離すことはできないし、未来までつながっていくものではあるのだけど。