「アンダーグラウンド」2011/01/21 20:32

 関西では「1・17」が毎年大きく報道されますが、首都圏では「3・20」なんでしょうね。

 言わずと知れた、地下鉄サリンテロの関係者インタビュー集。
 村上春樹は、文章がちょっと苦手で、なんかワビサビとかモノノアワレとかいう感じの、シンとした情感を削ぎ落としたような文で、いまひとつ物語の中に入って行きづらいのです。しかし、こういう他者からの話を写す作品では、予断を排して誠実に事実を表そうという公平さを感じられて良かったです。
 しかし、分厚い本で、長かった。途中でダレました。やっぱり最初の方の、駅員さんとかお医者さんとかのプロフェッショナルの立場の人々のお話や、重大な被害者の身内の方々のお話のほうが、熱くて盛り上がるんですね。そうではない、大勢の普通の人々の体験も、決して軽く見ていいわけではないのですが。
 あと、首都圏の地下鉄路線には全然疎いのですが、本書の最初の方に路線図が掲載されているのを大分読み進んでから気付いた間抜けな私。
 インタビューの後に続く作者自身の意見「終わりの無い悪夢」は、難しくて正直よく分からなかったのですが、物事にキチンと向かい合おうとしているのでしょうね。
 私にとって、「物事にキチンと向かい合う」とは
1、それを自分や他の人々にも直接的、あるいは間接的に関係あるモノとして認識する。
2、それは自分や他の人々の前に、形を変えて現れる可能性があると認識する。
 の、2パターンあるんですが、村上春樹なんかは後者の意識が強いほうだと思っていました。「それは私自身でもあり、あなたたちでもある」。国境を越えて幅広く読者を持っているわけですから、人類共通の普遍性が作品にあるのでしょう。
 しかし意外と、インタビューした方々のパーソナリティーを重視しているのが印象的でした。出身地とか生い立ちとか家族構成とか趣味とか性格とか。事件自体には直接関係なくとも、個々の「体験」には大いに影響を与えているものですからねえ。
 恐ろしく、不気味な事件でした。
 この世の「普通」の裏側には、きっと今でもあちこちにこんな魑魅魍魎がいて、地表に噴出すマグマのように、表に出る時期を伺っているのでしょうね。

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