「後白河院」2013/04/14 22:21

 大河ドラマのイメージが強かったので。初っ端で驚いたのが、兼実が保元の乱の頃まだ8歳だったということ。この人、清盛の長男や頼朝よりも年下やったんや!
 大河ドラマで年齢を突っ込んではイケナイんでしょうが。(綾瀬はるかの登場時も10歳くらいの設定やもんなあ)
 井上靖は、人物の年齢とか「その○○年後に」みたいな書き方を多用して、年月の経過を意識させる描き方が特徴的です。

 昨年は大河ドラマの影響で、各書店にその時代の関連本が並べられましたが、その中に井上靖の「後白河院」を用意した地元の某書店は、イイトコついてるなあって思いました。
 ドラマでは実に見事な人でなしっぷりを見せてくれ(父親がアレで母親がアレなら、性格歪むのも納得でした)、森村誠一版「平家物語」でも特に印象的だった人物でした。
 しかし井上靖は、「日本一の大天狗」の実像を直接的に語るのではなく、朝廷にいた人々の回想を通してほのめかしていく手法をとりました。これも井上作品の典型。
 言ってみれば、これは朝廷側から見た平家物語であって、四人の語り部たちが各時代を語りながら、その時思った後白河の印象を述べているわけです。
 まずは平信範(「平範記」の著者、時子の叔父)が保元・平治の乱を、健春門院の女房・中納言(俊成の娘)が鹿ケ谷までを、吉田経房(後白河の家臣)が義仲都落ちまで、そして藤原兼実(「玉葉」の著者)が義経に頼朝追討の院宣を下して以降のことを語っています。
 一番おもしろかったのが最初の信範さんの語りで、後白河さんに対してのコメントが
「平生は到底天子の器にはお見受けできないが、然るべき場所にお据え申し上げさえすれば、さすがに自ずからお血筋が者を言い、何をお考えになっているか判らないおっとりしたご風貌もかえって威厳となって、なかなかどうして立派なものである」
 って、言葉遣いは丁寧ですが、結構言いたい放題で。
「今様をお謡いになっているうちに、いつの間にか天皇の御座席にお運ばれになってしまった新帝」が、誰をも頼みにせず一人孤独に、邪魔な人間を(頼朝以外)次々と排除していき「日本一の大天狗」となっていきます。

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