「ブラックボックス」2022/07/25 20:47

元自衛官作家・砂川文治氏の芥川受賞作は、本当に、この作品が賞を得ること大いに納得な、ズシリとした力強さがありました。ウーバー配達員とかコロナとか、今現在的要素を使いながらも、芯にあるものも表現も、古典的で硬派、正に本格派文学です。
しかし、読んでいて辛い。
たとえば「コンビニ人間」の女主人公も、ちゃんと普通にしなければと思いながら根本的に外れてしまうタイプの人でしたが描かれ方がユーモラス。しかし「ブラックボックス」は、重く閉塞感に満ちています。主人公・サクマは、根は悪い人間ではないのですが(暴力は良くないけど、確かにムカつく状況)、<安定するために堪える>ことができない。
この日常の果てにある将来を思うと不安なので目の前のタスクをこなすことに集中する心理が、詳細な自転車走行描写とリンクして重みを増す。
<普通の社会>では生きづらい若者の転落人生。
つまらない日々の繰り返しに思えても、その中から何かを得たり変化したりしているのだ。
最後に、ようやく、閉塞感にほんの少しの風穴を穿つ。

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