「荒城に白百合ありて」2024/03/02 10:08

須賀しのぶの、幕末時代小説。
時代設定は違えども、二作続けて現実に心が溶け込めないヒロインの物語です。
鏡子は自己が薄い。故に、会津武士の娘として、武家の妻として、雛形に形を合わせることによって自分を成り立たせる。
彼女ばかりではなく、多くのひとにも、そういう要素はあるような気がします。そこに生まれ落ちたときから求められる生き方、というのは。
それに何の違和感もなく素直に入り込めるか、
それに疑問を感じて苦悩や反発があるか、
鏡子はそのどちらでもなく、形式的であることに自覚がありすぎました。
友人の中野竹子が持つ力強い自我をまぶしく感じることはあっても、自分がそちら側の人間にはなり得ないことを承知している。
そうするべき、で生きていて。
そうしたい、は特にない。
そんな彼女が例外的に欲するものが二つ。
一つは、自分と同じ側にいる、薩摩藩士の男。
急変する時代の中、炎の中に滅びていく会津の城下で、破滅的な絆で結ばれた二人の物語。