「トウキョウソナタ」2010/07/27 01:20

時にコミカルに、時に嫌らしく。
 今年の大河ドラマでも、人間味あふれる演技力に魅了されます、香川照之さん。




 嵐が来て、家の中に雨が吹き込む。ベタですが、分かりやすいオープニング。
 面白かったです。家庭崩壊ホームドラマ。黒澤清監督。
 お父さん役の香川照之さんが好きで見に行ったのですが。リストラされたお父さん、上手いんですが、もう哀愁を通り越してイタクて、笑えない。
 お母さん役は小泉今日子で、これも良かった。お母さんとても良い人なのですが、善人だからって心穏やかに生きているとは限りませんよね。運転免許を取ってもドーナツを作っても、抜け出せない。ついには強盗(未遂)犯とお洒落な盗難車で逃避行に走ってしまうのですが、あての無いドライブにスカッとする結末など用意されず。
 悩みの無い人なんていないんでしょうが、正に、閉塞感一家。そんな中でもがいた挙句に、それぞれに散々な一夜を過ごした家族。しかし、ぐったりと朝食の席に着いた家族は、ぼろぼろで人数もそろっていなくても、それまでの、表向きだけ整った家族四人の食卓風景より、すがすがしい光が当てられます。
 このとき、「平和のためにアメリカ軍に入る」とアホ丸出しの発言で中東に行ってしまったお兄ちゃんだけが食卓についていないのですが、ちゃんと「意味のある不在」だったのが良かったです。具体的なエピソードは描かれませんでしたが、戦争に行ってしまったお兄ちゃんが、最も過酷な体験をしたであろうことは容易に想像できるので、戦死するとか精神を病んで廃人になるとか、最悪のケースを考えていたのですが、いい意味で予想を裏切ってくれました。戦場で、お兄ちゃんいろいろと考えることができたようです。
 逆に、ラストはちょっと残念でした。末っ子のピアノ演奏で終わるのは、あまりにも予想通りというか、演奏が上手すぎるというか、キレイすぎるというか、「天才」すぎて冷めちゃうというか、オープニングもベタだったのにラストシーンまでベタな演出だったというか。
 単に、わたしの中で、突き抜けるような力強い演奏より、しっとりと弾いてもらう方が好きだからそう思うのかも知れませんが。「月光」